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一直線の強欲  作者: icemea
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第九話 悪魔との茶会

 資料によれば、悪魔はこの村の外れにある森にいるというのだが、村にはその悪魔の強力すぎる力が漂っていた。けれど、そのおかげで私はのうのうと写真を撮ることができた。

 ただの力には害など無い。しかも、漂う力は強力すぎて、大声で自分の居場所を宣伝しているようなものだ。仮に、悪魔が力を隠したら即行で逃げればいい。神術では無理でも聖人の力を使えば逃げることならできるはずだ。


 力は力。術や呪いではないただの力は例外を一つ除けば害はないという認識を覆させられたのは村を一回りして、写真を撮り終えた時だった。

 写真を撮るのを終えると同時に強烈な睡魔に襲われ、ベッドで寝たいと思ってしまった。それが悪魔の攻撃だと判断し、対抗術を構築しようとして気づく。これは攻撃ではなく、漂う力が異常すぎる程強力すぎて毒なっただけだと。だが、これは例外ではない。力が害となるのは自分の力では抑えきれない強力な力を使おうとする時の反動だけだ。強力な力が漂っていても、その力を体内に取り込まなければ問題無いはず。

 毒になる理由がわからないので、被害状況だけでも確認することにする。神術師である私ですらこの様だ、常人が被害に遭わないはずが無い。

 そこまで、思考を巡らせて気づく。自分が写真を撮影するために村を一回りしたときに人に会わなかったことに。

 会わなかったのではなく会えなかったのではないだろうか。ここにいる人は……。


 最悪な事を考えてしまう前に体を動かし、近くにあった民家に行き玄関の扉を叩き、声をあげる。だが、返事は無い。

 人は悪魔に……。

「考えるな!」

 声に出すことで自制する。だが、声に出すだけで思考を止めることはできない。とにかく、行動をしなければならない。行動しなければ考えてしまう。

 返事が無ければ無断で入ればいい。誰かがいたら謝ればいい。とにかく、私は行動をしなければいけない。扉には鍵がかかっているが、壊せば問題ない。幸い、扉は木製だ。ナイフだけでも壊せる。道徳的にはどうかと思うが今は非常事態だ。私は確認したいだけだ。

 ドアを壊すことで民家に不法侵入しても、案の定、誰もこない。いないのか、それとも、こられないのかはわからない。それを今から確認するのだから。


「……眠っているのか」

 人はいた。一家そろって全員がベッドで寝ていた。それも、すやすやと寝息をたてて。人がいて、気持ちよさそうに寝ているのを見て安心できた。安心できたがすぐに気づく、この毒がそれだけで済むようなものではないと。

 ベッドにて寝ている少女の胸に手を当てる。少女はこの家の娘。そして、私と同年代である。全員が同じ症状だ、一番調べやすいのを調べればいい。

「何、これ」

 命に別状は無いが、異常すぎる。寝るということを維持し続ける異常。仮死ともコールドスリープとも違い、寝続ける異常。眠り続ける呪いは存在するが、それは外部の干渉が無ければ餓死や栄養失調、老衰で死んでしまう。しかし、この異常は外部の干渉を受けずに寝続け、餓死や栄養失調、老衰で死ぬことがなく永遠に寝続ける。多分、この異常は病人すら寝続けさせる。

 その異常がこの村全体に広まっている。おそらく、最近の原因不明の昏睡者も。


 本日、明け方

 悪魔を討つため、ファエル様が管轄する教会に所属する神の手の神術師が村に集まる。神の手を統べる隊長に事前に調べた村の状況を報告し、注意を促す。正直な話、何をきっかけに村の人のようになるかわからないのだから注意をしても無意味なのかもしれない。

 そして、討伐が開始される。


 森に入ると強烈な睡魔に襲われる。ここで寝てしまうと寝続けることになる、それを防ぐために唇を噛むことで眠気を消す。他の隊員も私と同様に寝てしまいそうだった。隊長も寝てしまいそうだったのかナイフを取り出し、自分の手を刺すことで眠気を掻き消す。それをきっかけにして他の隊員も一斉にナイフを取り出し自分の手を刺し、前に進む。

 眠気を消すため。それだけのために手を刺しても睡魔は襲う。ある隊員は手をもう一度刺した。また、別の隊員はもう片方の手を刺す。しかし、睡魔は襲い続け、自ら負った傷が重傷になってしまったことで睡魔に打ち克てなかった隊員の一人が寝てしまった。寝てしまった隊員の傷は全て癒え、それを見た何人かの隊員が寝てしまう。おそらく、楽になりたかったのだろう。隊長が起こすためなのか寝てしまった隊員の一人にナイフを向ける。起こすために寝ることで癒えた手を刺すがすぐに癒える。それを見て、起きている隊員の全員が寝てしまった者を放置して先に進む。それがきっかけだったのか、隊長以外の隊員が自分を傷つけるのを止め、次々に寝てしまう。そして、隊長は両目を潰したが寝てしまった。寝てしまった者は安らかな顔をしていて、先程まで重傷を負っていたとは思えない程だった。

 私を除く神の手の隊員が全て寝てしまったのを確認し、私は自分に掛けていた術を解く。掛けていたのは幻を見せる術。あの時、私だけは強烈な睡魔に襲われても寝てしまうことはなかった。だが、あの場で自傷行為をしなければ何をされるかわからなかったので幻を見せる術を発動させる。幸い、隊員達は睡魔に襲われて私が何をしようと気づくことはなかったし。


 森の中、木々に囲まれる円形の空白地帯に悪魔はいた。そいつは空白地帯の中央で、余分な装飾や着色をしない素材を生かして作成されたと思われるアンティークな雰囲気を出す椅子に体を預け、セットになるテーブルにティーカップを置き、退屈そうに本を読んでいた。

「そこにいるのはわかっている。出て来いよ、茶ぐらい出してやる」

 悪魔がそう言うと、悪魔の反対側に椅子とティーカップが出現する。中身は紅茶なのだろう。おまけにミルクと砂糖、レモンも容易してくれているし。残念だが、悪魔よ。私は紅茶よりコーヒーの方が好きだったりするのだ。特にミルクと砂糖を入れたカフェオレがと心の中で言って見る。

 無駄だと思ったが、こうもあっさりと見抜かれてしまい、おまけに歓迎の茶まで入れてくれるのなら出て行くしかないだろう。小細工しても殺されるし。


 悪魔の用意した椅子に座り、悪魔を観察する。この悪魔は人間形状の姿をしていて、服は人間の物を使っている。白色のワイシャツの上に上下共に黒一色のスーツ。しかし、ネクタイはしてない。スーツを着ているとファッションっていうより仕事って感じがするのだがネクタイをしていないと中途半端に感じてしまう。しかし、こいつの場合、顔がいいのかその中途半端ではなく両立しているように思えてしまう。仮に仕事をしているのなら執事とかウェイター、会社勤めのサラリーマンは無いだろう。顔だけで言えば、仕事関係でも友人関係でも異性関係でも好感持てそうな感じだ。尤も、悪魔だから簡単に姿を変えられてしまうのだが。

「で、用件は何だ?俺を殺しに来たのか、聖人」

 紅茶を一口飲み、悪魔は私に訊ねる。自分が高位悪魔だからなのか悪魔は私が聖人であるとわかっていながら動じない。

「ええ、そのつもりよ」

 私も冷静に砂糖を混ぜながら言葉を返す。冷静でいられるのは私が聖人だからで、ただの人間だったら無理だ、こんな化け物と会話するなど。

「止めとけよ、お前は俺を殺せない。お前の因子が何であろうと」

 悪魔は忠告のつもりで言ったのだろうが、私には火に油を注ぐ言葉としてでしか捉えられなかった。だから、ナイフを抜き、運命操作を行おうとし、気づく。私が悪魔に対して何もできないことに。

「ほらな、聖人の力は万能ではない。例外が存在する」

「その例外は神であり、お前ではない」

 その言葉を否定したかったのか、それとも現実を受け入れたくなかったのか。私はテーブルを両手で叩き悪魔の言葉を否定する。

「正確には、神以下の者にしか通じない、だ」

 聖人の力が効かない悪魔。それは、神と同等の悪魔だということ。

「ありえない、神が悪魔を殺すために授けた力が効かない悪魔など。ましてや、神と同等の悪魔なんて」

 否定できないのが原因なのか、あの時と同じ声を出してしまう。恐怖に押し潰された声を。

 神と同等の悪魔など存在しない。教会の教えでは、悪魔は人間の生み出した存在なのだから。

「お前みたいな神に仕える信徒には信じられないことかもしれないが、俺は神と同等の悪魔だ。そして、俺の兄妹も」

 兄妹って、こいつの他にもこんな化け物が存在するの。それを知ってしまうと恐怖で全身が凍り麻痺してしまう。神の存在は不明だが、悪魔は存在する。世界を壊してしまう悪魔が。

「そんなに恐がるなよ。別に俺達兄妹は人間に手出しなんてしない、まだだけどな」

 まだってことはいつかするのかよ、と心の中だけでつっこむ。下手なこと言って殺されたくないし

「いつかするのかよ、って思っただろ。別につっこんでもいいけどな。それぐらいで俺はお前を殺す気はない。お前が俺に攻撃を仕掛けただ、話は別だが」

「生憎、私は自殺志願者ではない。まあ、お前が殺さないって言うなら遠慮なくつっこませてもらうけど」

「ああ、つっこめつっこめ。それぐらいで殺してしまうほど俺の心は狭くないし、素で話してもいい。俺は殺意には殺意で返すがそれ以外は受け流すことができる、神と違ってな」

 神と違う?悪魔が神を語るとは、と少し笑ってしまう。では、そんな心の広い悪魔に頼みを聞いてもらうか。

「では、神なんかよりも心が広いというあなた様にお願いがあります」

「神なんかか。聖人というレア種の人間がそんな言葉を言うのは笑ってしまう。で、お願いとは何だ。今は気分がいいからお前の願いだって叶えてやるかもな。あと、あなた様なんて呼ばなくていい。ベルフェでいい。もちろん、様付けしなくていい」

 相手が呼び捨てでいいと言うので、私も自分の名前を教え呼び捨てでいいと返す。

願いを叶えるという言葉に心が揺れる。だが、こいつは悪魔だ。仮に願いを叶えても代償に何を奪われるか。

「願いではなくお願いで。ベルフェの魔力が原因で昏睡者続出なんでな」

 願いとお願い。不思議なことに『お』をつけるだけで意味が全然違う気がする。願いは自分で叶える願望、お願いは他人に頼むこと、な感じで。

「魔力で昏睡者。術ならわかるが、魔力は無害だしなー……」

「お前が悩むなよ、事件の張本人が」

 ベルフェが悩んでいるので思わずつっこんでしまう。やっぱ人間、正直に生きるのが健全だと思うし。

「手掛かりが少なすぎだ。どんな名探偵も謎を解くためには手掛かりは絶対に不可欠だ。そんなものなしで解けるのは超能力者ぐらいだ。という訳で手掛かりくれ。昏睡者の症状とか異常を」

 名探偵や超能力者なんて言葉を悪魔が使うか。名探偵はともかく、超能力者なら悪魔は似たような者じゃないのか。何でもありって感じが。

「手掛かりかどうかはわからないが、私が気づいた異常を言えばいいのか」

「ああ。それで原因を突き詰めて排除できるし安全な策だ。わからなかったら少し後遺症の心配があるが俺が解呪の術で強引に起こしてやる。それでもダメなら、そういうのが得意な奴を呼んでやるよ」

 得意な奴というのは、ベルフェの兄妹の誰かだろうか?それはそれで興味があるが。

「適当な言葉が無いから昏睡者と言っているけど実際には違う。異常は寝続けること。寝続ける者はおそらくだが、死ぬことが無いと思う。眠り続ければ栄養失調、餓死、老衰で死ぬがこの異常はそれが無く、永遠に寝続ける異常。それと、これは実際に見たことだが、この異常で寝てしまうと負っていた傷が全て完治した」

 私の話を聞きベルフェはちょっと考え、すぐに答えを見つけたような素振りをする。あっさりと答えを見つけてしまうベルフェは名探偵より超能力者に近いような気がする。超能力と言うにはしょぼい能力なのだが。

「俺と共感したのだろうな、そいつら」

「共感?」

 悪魔と人間は似たような存在。だからこそ、魔術師は悪魔と契約できるのだが、神術師と悪魔は共感したというのは妙な話だ。敵対している関係だから。

「俺が背負わされた影は怠惰だ。人間の怠惰の心が俺と共感し寝続けさせたのだろう」

 背負わされた影?背負わされたって元は誰かのものだったのか?と少し気になるが、もっと気になることがあるのでそっちを優先にする。

「ちょっと待って。私にも怠惰の心はあるはず。それなのに、何で私だけ寝ない」

 言ってから無意味な質問だと気づいた。原因を知ったところで私に解決できる事態ではないし、寝なかったからどうだって話ではない。どうせ聞くなら、この事態を解決する方法を聞くべきだった。

「お前は願いを叶えるために止まらないし、やめないだろ。走るのに疲れても、歩いてゴールを目指す。何があっても。エヴァリスはそういう人間だろ」

 疑問ではなく、肯定で言うベルフェ。だが、事実なので私は何も言い返せない。それよりも気になることがある。

「安心しろ、俺は心を読む能力は無い。お前がわかりやすいのと、俺が欲に敏感なだけだ。後、低位悪魔と同様、嘘もつけない。嘘をつけない理由はお前も知っているだろ」

「神が許さなかったからか、お前ら悪魔が嘘をつくことを」

 神は悪魔が嘘をつくことを許さなかった。悪魔の言葉には毒があり、嘘など必要なかったのかもしれない。それでも、神は人間を守るために悪魔が嘘をつくことを封じた。

 だが、悪魔は嘘をつけないが騙すことはする。うかつに取引をするのは危険だったりする。

「そうだ。ま、お前達の話と俺達兄妹の話が同じだとは思えないけどな、と話が脱線したな。だが、続きを話そうと思ったが、必要ないか。では解決と行こうか」

 確かに必要ない。私が寝ない理由がわかれば、寝た人がどうして寝てしまったのかもわかる。理由に納得ができたので、さっさと解決しろと内心で言う。


「俺を退屈させるな」

 ベルフェは笑いながら続ける。呆然としている私を無視して。

「俺が退屈しているのがこの事態の原因だ。つまり、俺が退屈していなければ問題がないってわけだ。幸い、俺は面白い奴に出会えたし」

 私の返事を待たずにベルフェは決定事項にして、

「とりあえず、俺は何か食べたい。ファミレスとか行ってみたい」

 我が侭な命令をなさる。

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