第7話 王都へ
私は今馬車に揺られている。そして目の前には家庭教師であるトライさん……ではなくトリム先生。
(いやトライさんってあだ名をつけたのだけれども)
自分で自分に突っ込みながら私は魔力の鍛錬をしていた。なぜかと言うと数日前に遡る。
私はお爺様の口添えもあり、とりあえずお披露目である14歳までお爺様の訓練をつけてもらえるようになった。条件は礼儀作法やダンスなど社交界での必須のものは全て身につけておく事。15歳で成人したら王都の学園に通うことの二つであった。当然の義務であると了承したが、両親とは別にお爺様は私の二つある『戦闘系魔法』のスキルも伸ばすように言いつけ、実は元部下であったトライさんを私専属の家庭教師に付けた。
当のトライさんは二つ返事で了承した。本人曰く、
「私の息子は私がいなくても立派に貴族としてやっていっているし、甥も学園に入学しているから問題ない」
とのことだった。
そして今私は、王都に向かう馬車の中で魔力トレーニングに勤しんでいる。魔力は異世界物よろしくMPとして目の前に表れるという事はなく、魔力量や魔力効率は自分で測るしかない。しかも魔力量は天性のもの、つまり才能がなければどれだけ努力しようと限界がすぐに来るが、才能さえあれば鍛えれば相当量が期待できるようだ。昔から結構使っていたらしい私はある程度は有るそうだが、女が騎士の訓練をするならもっとなければ安心出来ないらしい。
「はい!火が小さくなってますよ。集中を切らさない」
「はい…… 」
私は慌てて火を元の大きさまで戻す。この訓練は火や水といった不定形の属性ならではの訓練方法で、魔力を一定に保つことで魔力を操る力を、流し続けることで魔力量を増大をする訓練になるという。しかし、これやその他の訓練は初心者にはかなり、というか滅茶苦茶難しい。つまり神経すり減らして集中力を絞り出してやる訓練であるのだが、これをガタガタと強めの振動がお尻にダイレクトアタックしてくる馬車の中でするのだから、訓練の進行は至難の業であった。
「ほらまた小さくなってますよ!これでは王都に着いてからの騎士の訓練でのされてしまいますよ!」
またトライさんにお叱りを受けたので、必死で手の中の火の大きさを調節する。しかも訓練はこれだけじゃなくて全身に強化魔法をかけて動く訓練や戦闘で使う魔法の練習、馬車が休憩で止まった時は外で体力トレーニング、空いた時間で勉強など、鬼のようなメニューをこなさなければならなかった。そんなこんなで訓練と勉強で体も頭もヘトヘトになりながら王都への道を進んでいった。
王都に着いたのは出発してから2週間たってからだった。王都に着く頃には痩せて昔のドレスが入る体型になり、王都の大門を通る前に一応持ってきておいた昔のドレスに袖を通して王都に入った。お爺様の馬車は「屋敷の主人が出迎えないでどうする」と屋敷へと先に行ってしまった。
王都には幼い頃に来たことがあるらしいが記憶は朧げで覚えておらず、さらに「華の都」と呼ばれるこの都市に私は年相応にはしゃいでしまい、興味をひくものが有るとつい馬車を止めてしまった。
「シンシア様、見て回る時間は後でございますから先にノラン様の屋敷に参りましょう」
「あっ、ええそうね。私としたことが……」
「いえいえシンシア様も年頃の女子にございます。出過ぎた真似をして申し訳ありません」
トライさんと謝り合戦をしながら、今度は馬車を止めない様に目を皿のようにし、後で見て回る時に質問できる様に馬車から見える風景や人々を記憶に焼き付ける。そんな事をしていると段々と人の数が減り大きな屋敷が目立つ様になった。するとトライさんが不思議そうにしている私を見て解説してくれた。
「この辺りから貴族街と呼ばれる地区になります。領地を持たない宮爵と呼ばれる者の屋敷や、王都に多大な影響を与える貴族の別邸がここに有ります。一応ですが私の屋敷も有ります」
「そうなんですね。説明ありがとうございます。それと前から疑問があるのですがよろしいですか?」
「そんなに畏まらなくても今は授業中ではないのですから、なんなりと命令して頂いて構いません」
「では遠慮なく。私達アレイア王国の貴族は基本家名を後ろに持って来ると思うのですが、なぜトリムの家名は前にあるのでしょうか?」
私は正直失礼な事を聞いている自覚はあった。でも今ある程度の事を許してくれるトライさんに聞いておかなければ、似たような状況の人に失礼になってしまうだろう。するとトライさんは目を細めて嬉しそうな顔をして教えてくれた。
「そうですね。では歴史の授業の続きです。このアレイア王国は過去に2度、大きな戦を起こしています。1つは貴方のお爺様であるノラン様が英雄となったエールレイア帝国との大戦。これはノラン様が劇的な勝利をおさめられたことでアレイア王国の勝利という形で僅かばかりの金と土地を手に入れましたが、この戦いは両軍の被害が大きすぎて正直勝ち負けの話どころではなくなっていました。もう一つはこのアレイア王国がまだ小さかった時代の話であり、この王国が大国となった戦いであります」
トライさんは窓の外に目を向けた。私もつられて外を見ると王城が正面に見えた。王城は荘厳かつ優美で、今までで見たことが無い程大きなものだった。
「この王城はその戦いの後に新設した城なのですよ。小さかったアレイア王国には同じような規模の隣り合った国がありました。その国はアレーニュ王国といって、アレイア王国は仲が良く、また競い合っていました。しかし、ある国が出現したのですよ。小国だったその国は近くの国を滅ぼし吸収して国を広げていきました。そこで二つの国はある決断をします。それは片方の国をもう一方が吸収合併し、その国に対抗するというものでした」
「合併ですか。同盟でも良かったのでは?」
「確かにそのような声も有りました。ですがアレーニュ王は老体でかつ跡取りが居ませんでした。だからこそ元々二つで一つのような国のアレイアに合併される事になりました」
トライさんはそう区切りをつけ少し思案した後、また話し始めた。
「まぁそんな事でアレーニュはアレイアとなり、私の先祖などアレーニュの貴族は持っている土地はそのままにアレイア式の貴族制に変更した。それが私の名前の違和感の正体ですよ」
話終わったと同時に馬車が止まり、お爺様の屋敷へと到着した事が分かった。微笑を浮かべながらトライさんは馬車から降り私に手を差し出す。私は有難くその手を借りた。
屋敷では先に到着していたお爺様が出迎えて歓迎してくれた。よく数時間で着替えて指示を出し完璧な歓迎ができるなと感心していると、お爺様が近づいてきた。私は礼儀作法の先生に徹底的に叩き込まれた貴族淑女の礼をした。
「今回私のわがままで指導を付けていただくことになって申し訳ありません。ですが志願した以上しっかり勤めを果たすように努力しますので、未熟な身ではありますがよろしくお願いします」
「うむ。シンシアよ、女であっても容赦はせん。ここまでの道中に行った訓練など序の口だと思え」
「はい、精進いたします」
そういってお爺様は屋敷へと入っていった。私はこれからの訓練地獄に思いをはせ身を震わせながらも、新たなる生活に期待を胸を膨らませた。
長々と期間が空いてしまい申し訳ありません。夏休みに色々立て込んでしまいてんてこ舞いでして…
予告ですが、王都での修行は次の話で早々終わらせます。色々長そうなパートが後に有りますので…
では読んで頂きありがとうございました!