第3話 幕開ける減量&筋トレ生活
筋トレをすると(自分の中でだけ)宣言した私は3日間動くことができなかった。なぜか?答えは簡単だ。
「シンシアちゃん!体は大丈夫?いっそ私と一緒に寝ればいいんじゃないかしら!私はシンシアちゃんを見ておけるし、シンシアちゃんは私に頼れるし、一石二鳥じゃない!」
「お母様……。私はもう何ともありませんから、大丈夫です」
「そうやって油断した時が一番危ないってランが言っていたわ!」
「それは昨日一昨日もおっしゃられていましたよね……」
「だってだって!シンシアちゃんが心配なんだもん!」
(もんって……)
こんな感じでお母様に自由にしてもらえなかったのである。そして、こんなどっちが子供だかわからない発言をしているお母様は社交界の花であり、茶会や社交界にお母様を呼べるかどうかでその会の質や重要性が変わってくるレベルの大物だ。しかも、そう言われるだけの腹芸もできる完璧貴族であるはずのお母様も娘の前だとこうなってしまうのであった。
「マリア様、あまり束縛してしまってもかえって体調を悪化させてしまいますよ。鳥も愛ですぎると短命に終わるのと同じです」
そして、この地味に抉ってくるのはお母様の専属メイドでありメイド長のランだ。この口調は別に嫌っているからではなく、心配の裏返しであることを屋敷の者皆が知っている。
「ええ!シンシアちゃん死んじゃだめ!」
「お母様、私は死にはしませんので落ち着いて……」
なぜこれほどまでに落差があるのか未だに謎である。
ランの口添えもあり、どうにかお母様から離れることができた私は自室に戻りさっそく自分がどれほど動けるのかを試してみることにした。内容は腹筋や背筋などあまりうるさくならないもので簡単にできるものをチョイスした。服は脱いでインナーだけになりいざやってみると思ったよりできた。当然前世とは比べるまでもないが、前世のぽっちゃりを基準に考えていたものより回数が多かった。
「恐るべきハイスペックぽっちゃりボディ……。でもこれなら結構早く痩せられるかも」
そうして私は行動を開始した。まずは衣装を担当するメイドに動きやすい服を見繕ってもらいに行く。怪訝な顔をされたが「運動して痩せるためです」と言うと、「なんと立派になられて」と涙しながら5着程見繕ってもらえた。
5着の中で某騎士王が着ている青いドレスに似たものに着替え屋敷の外に出る。軽いストレッチの後、流石最高位の貴族と思える大きな大きな屋敷の周りをジョギングする。しかし、ハイスペックとは言えぽっちゃりな身体は2周するだけで悲鳴を上げた。
「ひっひっふぅ、ひっひっふぅ……。はぁはぁ、確かに屋敷は大きくて、ふぅふぅ、1キロはあったけど…… 」
(こんなにバテるなんて!)
私は息が整わずその場にへたり込んでしまった。汗は止まらず頭はクラクラし、顔を触るとかなり熱い。まさに熱中症の初期症状であった。
(確かに夏だけどジョギングで熱中症だなんて……)
しかし動けない訳ではない。疲れた身体を引きずって自分の部屋まで戻る。途中で私の様子に気付いた使用人達が駆け寄ってきたが、運動していただけだと言って自分の部屋へと急いだ。
部屋へと戻った私は真っ直ぐベッドに直行した。前世では絶対味わえない豪華で寝心地が良いベッドに慣れた様子で飛び込む。柔らかな感触と疲労ですぐに寝てしまいそうであったが、なんとか気を持ち直し体を起こす。机にある紙に今日のトレーニングの成果を書き出す。書き出してみるとやはり、残念な結果であることが分かり肩を落とした。
「分かってはいたけどね……。まぁ今日始めたばっかりだし、こんなものよね」
そして今度こそと私はベッドに潜り込み眠りについた。メイドが晩ご飯の用意ができたと呼びに来るまでは……。
それからというもの私は順調に筋トレや体幹トレーニングなど前世の知識をフル活用して身体を鍛えていった。もちろん料理は減らしてもらったり野菜ばっかりなどにはせず三食しっかり食べ、その分運動をする事で脂肪を燃焼し筋肉とするようにした。
(というかこれ女の子がするようなことかな……。周りに引かれたりしてないかな…… )
「どうしたのシンシアちゃん?美味しくなかった?さげてもらう?」
「あ、いえ、ちょっと考え事を……」
「そう?なら良いのだけど」
そうここの料理は物凄く美味しい。時代的には中世とはいえ科学より魔法が発達した別の世界であり、公爵家に雇われた最高のシェフが作り出す料理が不味いはずがない。味が物足りない事はあってもそれはそれで美味しく、つい食べ過ぎないように我慢しているのだ。
「そういえばシンシア、最近運動を頑張っているそうじゃないか」
「はい、お父様。身体が醜く太ってしまったので、ダイエットのために運動をしております」
「醜いとは言い過ぎだと思うが……。私も健康の為に運動しようと思うのだ 」
「でしたら、朝食前に屋敷の周りを走りませんか?この季節の朝は涼しく気持ちが良いですよ」
「そうか、ならばそうしよう。どうしたアラン?お前も走るか?」
「……いえ、遠慮しておきます。勉強もありますので」
そういうとアランお兄様は席を立ち自室へと戻っていった。
「どうしたのかしら」
「まぁ、多感な時期だからな。アランも色々悩む事があるのだろう」
「そうね。何かあれば助けになれれば良いのだけれど……」
このような子供に寄り添う優しい両親からどうして悪役令嬢が生まれたのか私は全く理解出来なかった。そう思いながら残っている料理をテーブルマナーを守って且つ急いで食べた。
自室に戻った私は部屋でトレーニングをしながら考えていた。
(そもそも、このシンシアの過去を全く知らないのよね。第一王子ルートではシンシアの家族、つまりロサード公爵夫妻にお兄様と私がいるということ。そして行った悪事、あらゆる面で優秀である事ぐらいしか分からなかった)
考え事は継続したまま姿見の前に移動してスクワットを始める。鏡には痩せたら絶世の美少女が無表情でスクワットをしている。
(こうして良い両親を持ち、恵まれた環境に恵まれた能力を持って出来るのは純粋培養のお姫様ぐらいだて思うんだよね……。今は太ってるけど。いや、ちょっとは痩せた!」
「どうかいたしましたかお嬢様?」
「え、あ、いや、なんでもないわ」
(危なかった……。つい声に出してしまった)
扉の向こうに待機しているメイドの対応力に驚きながら、床に大きめのタオルをひき腹筋を始める。
(まぁ考えてたってしょうがないか。とりあえず痩せて、重くならない瞬発力と持久力を兼ね備えた程よい筋肉を育てるぞ!」
「お嬢様?」
「な、なんでもないわ!」
そう言って両手で口を塞ぎながら私はトレーニングを続けた。
ようやくテストの山場を超えたー!
ということで投稿しました。
読んで頂きありがとうございます。