第2話 プロローグ2
眠りから覚めた私は自分の状況を確認することにした。真っ先に確認できたのは自分の身体。前世の記憶が昨日よみがえったからか、ただ体調が悪いからなのか、そう思いベッドから出てクローゼットの近くにある鏡の前まで行くとぽっちゃりした女の子が立っていた。
「……!?」
私は驚きの声すら上げられず絶句してしまった。そして自分についても思い出す。
(そうだ、私は王都から帰ってきたお父様やお兄様のご友人が持ってきた手土産という名のお菓子をモリモリ食べてしまってこうなったんだった……)
間食に間食を重ね、それにしっかりと三食食べているのだからデブまっしぐらである。しかし、幸運なのはこのシンシアの身体は簡単には太らないということ。さらにこの体が秘めているスペックははかり知れないということ。
(ならば!前世の知識を駆使して悪質なる脂肪は滅すべし!)
拳を高々と天に掲げたところで気付いてしまった、自分がなんであるかを確認しそれから前世が日本人であることなどを納得しようとしていたのに、前世を彷彿させるものにぶち当たってしまったのである。そして湧き出てくる負の記憶。
(そうあれは中学1年の時、初戦で優勝候補と当たって負けてやけ食いして太ったんだ。ああぁ、そういえばあの子大丈夫かな。おっちょこちょいだし私がいないと何するかわかんないし……。あっそういえばプリン賞味期限過ぎたんだった……。ああぁぁぁぁ……)
私が鏡の前で頭を抱え蹲っているとノックの音がして使用人が入ってきた。
「シンシア様入りますよ。お体の具合は……って大丈夫ですか!勝手にベッドから抜け出してはいけません」
そういってぽっちゃりした私を軽々持ち上げた彼女はお母さま専属のメイドのランであった。つまり……
「シンシアちゃんッ!?大丈夫なの!?ああもうベッドでゆっくりしてなきゃダメじゃない!ランどうなの、悪化してない?」
お母様がランの後ろから現れ、シンシアの元まで恐ろしい勢いで走ってきた。しかしシンシアはランが抱き上げているので何もすることがなく、ランの後ろでワタワタとしているだけとなった。
「はい、熱もなく発汗の様子もありませんので早急な心配はないと思われます。シンシア様、お体に異常はありませんか?」
私は手を左右にぶんぶんと振り否定する。
「問題ありません!ええっと、ただ自分が太った姿を見て愕然としていたといいますか……」
「問題ないならよいのです。シンシア様、あなたのお母様であるマリア様やお父様であるバルト様、使用人共々心配しているのです。軽率な行動は取らないように」
そういってランは私を優しくベッドに寝かせ、水差しを持ってきていたものに交換する。
「朝食はこちらへお持ちします。それまではベッドの上で安静にしていてください」
「そうよ、ゆっくりしているのよ」
そういって、二人は扉の向こうへと消えていった。
普通、悪役令嬢物は幼少の時期から意地悪であるののだが、この世界のシンシアは8歳であってもまだ意地悪ではなかった。故に周りから愛されすくすくと育っていて領民には輝く笑顔を表して『白薔薇の令嬢』なんて呼ばれている。白薔薇な理由は私が着る服が白いものが多いからだとか。
寝込んだ理由も可愛らしいもの。兄の客としてきた密に憧れていた第一王子と兄が話していることを扉越しに聞いてしまったからであった。それも、王子が
「太っているのはちょっとね……」
と言っていたから、ただそれだけの理由で熱を出してしまったのだ。
(とりあえず前世の死に際まで覚えているとかは置いといて、今世は今世だ。前世の暗い思いなんて吹っ飛ばせるくらい精いっぱい生きる!何せこの世はゲームじゃなくて現実だから!とにかく悪役なんて曲がったことしなきゃいつかは報われるもの!)
再び拳を天に突き出したと共に扉を叩く音が響いた。急いで拳を下し、布団をかぶり直し入室の許可を出す。
「お嬢様、お食事をお持ちしました。しかし、何をソワソワされているのですか?」
「い、いいえ、なんでもありませんわ。ありがとう」
(さっきの行動がばれないかビクビクしてるだけですから)
食事を終え使用人に食器を渡し使用人が部屋を出るのを確認すると大きなため息をつく。
(なんとかばれなかった……。これがランだったら確実にばれていたわね)
とりあえずの目標が決まった。
(まずはダイエットかつ筋トレの習慣化だ)
なぜ筋トレの習慣化を目指すかというと、体重は食事制限や脂肪となるものを食べないことでもできるが、それでは簡単にリバウンドしてしまうからだ。筋トレで死亡を燃焼させそれなりに動ける体力と筋力を持っていると、日常の筋トレをこなしていても苦にならず続けることができ、やりすぎなければ引き絞られた美しい身体を維持することができるのだ。
(それにこの世界には『スキル』や『魔法』が存在している。こんな世界に生まれなおしたのなら剣を取って戦うことぐらいしてみたいよね!)
この世界のスキルは簡単に言うとチートになりすぎないというものだ。例えばスキルの名称は『戦闘系火属性魔法』『戦闘系土属性魔法』『剣術』『体術』といったごく簡単なものしかない。
(ちなみにこの例は私の最も才能があると判断されたスキルである)
当然のごとくスキルにはスキルレベルが存在する。最大レベルは10程度と言われている。なぜ曖昧かというと、常人の到達できるレベルが7と言われ、秀才でもレベル9。ではその上はというと各スキルにおいて『何か』を超えた者たちがレベル10以上となっている。
例えば『戦闘系火属性魔法』ならばレベル9に到達した天才が新たに『爆発魔法』を作りだしレベル10に至ったというのが有名な話だ。別に新しい『何か』を作り出すだけでなく、狙撃の天才が魔法の効果範囲を大きく超えた位置の魔物を貫いたという偉業を成し遂げていたが、その者もレベル10へと至っていたそうだ。
さらにスキルレベルはどれだけ才能があるものでも生まれた時にレベル3以上になっていることはなく、レベル上昇についても自分では明確にはわからず、努力を続けることだけが上昇の鍵であると判明していた。つまり、最初からレベル10で新しい魔法やスキルをバンバン使って無双しまくり!ということは決して無い世界なのだ。
(つまり今から訓練しておかなければ騎士になるなんて夢のまた夢。特にこの侯爵令嬢という肩書が足枷になってしまう。早い段階から手柄を立てないとすぐに結婚させられてしまう)
そうして、固く熱い決意と共に将来の悪役令嬢はダイエットと筋トレの日々が幕を開ける。
まさか初日で100アクセスを超えるとは思いませんでした。読んで頂いた方々に深い感謝を。
さて、意外な結果に筆が乗りまして更新させていただきます。ですがいつか止まるかもしれませんのでそれだけは了承ください。