第1話 プロローグ
そよぐ風に草の擦れる音、それに綺麗な声の優しい歌。そんな中『私』は目を覚ました。いや、私はもともと目は覚めていた?でも、この感覚は目が覚めたとしか形容できなくて……。こんがらがった頭を整理しようとすると絶世の美女が顔を覗き込んだ。
「今日のお歌はもうおしまい。もうお休みなさい。明日も元気な顔を見せてね」
そう言うと美女は私の額にキスをおとした。そして部屋の隅にいる使用人に声を声をかけて部屋から出て行く。使用人は蝋燭を消しこちらに一礼した後その後を追う。
月の光で薄暗い部屋には豪華な天井。脇には芸術品のような水差し。
「なんじゃこりゃ……」
私は自分の頭を整理することにした。
私は大学2年生だった。中高と続けた剣道は県外に出たことを機に辞め登山部に入った。小さい頃から女の子らしい遊びや活動には興味が湧かなかった私はずっと男の子に混ざって鬼ごっこやボール遊びをしていた。
中学で剣道部に入ったのは親の「剣道なら女子男子関係無いからやってみたら?」という勧めによるものだった。その頃も男子に混ざってゲームをしたり遊んだりしていた。告白は受けた事があるが全部断った。そういうのに興味はあったが、まだ早いと思っていたからだった。
高校では進学校に入って、女子の友達が出来た。その友達はいわゆるオタクというやつで、私が偏見等がないと知ったらメチャクチャ布教された。私もアニメを見るようになったが男子が好むようなバトルアニメにハマり目を輝かせていた。ただその子が勧めてくれた乙女ゲーはメインルートだけはやった。
大学はその友達と同じ大学に行き、友達と当初ハマっていた登山アニメに引きずられ登山部に入った。そして……
「思い出した……」
私はベッドから半身を起き上がらせ頭を抱えた。
「そうだ…… あの子が滑り落ちそうなのを見て咄嗟に手を掴んだら二人して転げ落ちて…… そんなに高い所じゃなかったからあの子は無事だったけど私は太い枝がお腹に刺さって…… ウッ……」
幻痛にお腹を抑えると視界が激しく揺れた。
(こっちも思い出した……。体調崩してたんだった)
この世界はオタクであり親友の彼女が貸してくれた乙女ゲーの世界。名前は確か……忘れた。そしてこの世界の私の名前はシンシア・ロサード。ロサード公爵家の長女であり、乙女ゲーでは悪役令嬢のトップとして君臨していた最悪の令嬢だ。この手の悪役令嬢のやる事を大体やっている上に見目麗しく、人を動かすカリスマ、頭脳明晰、運動神経抜群で、最後の最後にその悪事が白日の下に晒された時でも王国騎士団と大立ち回りし逃亡に成功するハイスペックぶり。しかし、シンシアに利用されていた令嬢の1人に刺し殺されてしまう。
(そんな人生嫌だ!てか、一つのルートしかしてないのによくここまでできるものだと逆に感心するわ!序盤はモリ○ーティの如く人を操り邪魔をして、終盤でも常に冷静に状況判断してる所なんかスッキリしないしどんだけ強いんだよこの女!って叫んだし)
そんなシンシアについてはもうちょっと知っている。親友が徹夜でやった次の日にボヤいていたのである。
(確か「ようやく火炙りに出来た……あんの糞女……千回焼いてやる!」とか「農民の竹槍で死亡……ふふふ、キンカンかよ!」とか……ロクでもない死に方してたはず )
取り敢えず私が死なない方向に行くように頑張るぞ!と拳を握りしめたところで眩しい光が瞼を照らす。目を開けると陽の光が豪華な部屋を照らしていた。
「夢か……」
悪役令嬢物を見てると「自分ならこうするな」とか「あ、こんなの面白いな」と思いとりあえず書いてみようかという勢いで書いたものです。半分趣味なので見てくださっただけでも感謝いたします。
もちろん書き溜めておりませんので亀進行ですがご容赦ください。