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第三話 小説家になっちゃいな

尚美たちは文化祭のために『小説家になっちゃいな』に作品を投稿したが……

 校舎から少し離れたプレハブ棟に文化系クラブの部室がある。

 文芸部は一階の右から二番目、映画研究会と手芸部の間だ。補修授業で遅れた尚美が入って行くと、すでに話し合いが始まっていた。

「すいません、遅れちゃって」

 テーブルの奥側にいる部長の高梨が、軽く手を振った。

「ああ、いや、待ち切れずに、ぼくが始めたんだ。大丈夫、まだ何も決まってないよ」

 高梨の左に座っている迫田が、皮肉な笑みを浮かべた。

「今日中に何か決まれば、いいけどな」

 すると、反対側にいる真行寺が、いつもの癖で長い髪をかき上げながら、迫田をたしなめた。

「あなたが協力的なら、早く決まるわ」

 うわさでは、この二人の対立は今に始まったことではないらしい。

 尚美は苦笑をこらえながら、高梨の正面に座った。高梨も、困ったものだね、とでも言いたそうな顔をして見せた。

「じゃあ、早川くんも来たことだし、話を整理しよう。現在、文芸部はこの四名。来年の春、ぼくら三人が卒業すると、早川くん一人になってしまう。言わば、存亡そんぼうの危機だ。今度の文化祭で、みんなの注目を集めるような企画を出さないと、新入部員が集まらない。かといって、模擬店もぎてんやコスプレは、よそのクラブが散々さんざんやってる。それに、できれば文芸部らしいことをやりたい。と、いうことで、ぼくは手作りの詩集を配布しよう、と言ったんだが」

 迫田がワザとらしく首を振った。

「だめだめ。そんなの誰も見ないよ。無名の高校生が一生懸命に詩を書きました、読んでくださいって言っても、『はあ?』ってなるさ」

 めずらしく迫田の意見に真行寺がうなずいた。

「そうね。もっとインパクトのあることをやらないと。わたしはやはり、有名作家の展示の方がいいと思うわ。生い立ちとかエピソードとかを大きめの紙に印刷してパネルにるの。そうねえ、ゲーテとかいいんじゃない?」

 迫田が鼻で笑った。

「ふん。時代錯誤さくごもはなはだしい。真行寺くんは昭和の生まれだったっけ?」

「あら、お生憎あいにくさま。日本史で言うと、ゲーテは幕末の頃の人よ。それに、文学の価値は時代にしばられるものじゃないわ」

「残念ながら、今時の高校生にウケるものじゃなきゃ意味がないね。やっぱりラノベだよ。ラノベの有名な作家の研究なら、まだしも、だな。まあ、もっとも、ゲーテがラノベを書いてるんだったら、話は別だけど」

「あら、それじゃ、あなたが『ファウスト』をラノベ風に書き直してみたら。案外、ウケるかもよ」

 険悪けんあく雰囲気ふんいきになってきた二人を、高梨が「まあまあ」となだめた。

「ちょっと、早川くんの意見も聞いてみようよ」

 急に話を振られ、尚美は反射的に応えた。

「ラノベ、いいと思います」

 それ見たことかと小鼻こばなふくらませる迫田。あきれ顔の真行寺。意外そうに目をしばたいている高梨。

「あ、いえ、迫田さんじゃなく、真行寺さんの意見の方です」

 三人とも、意味がわからない、という顔になったが、名指しされた真行寺が聞き返した。

「それって、どういうことなの?」

 尚美は耳まで真っ赤になった。

「あ、いえ、真行寺さんのおっしゃった、『ファウスト』をラノベ風に書く、という意見です」

 真行寺は笑い出してしまった。

「ふふふ、冗談よ。迫田くんを困らせたかっただけよ。それに、良くは知らないけど、そういう作品って、もうあるんじゃないの?」

 その質問には、迫田が答えた。

「ああ、二次創作というか、パロディーというか、そういうのが、確か出てたような気がするな」

 尚美は顔を赤くしながらも、うなずいた。

「ええ、それでもいいと思います。あたしが考えたのは、二次創作というより、だいたいの骨組み以外、もっと大幅に作り変えてしまうことです。本歌取ほんかどり、とでも言うのでしょうか」

 高梨が、少し心配そうな顔になった。

「それって、盗作にならないか?」

「それは大丈夫だと思います。有名な話ですが、映画にもなった『ウエストサイドストーリー』は、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を下敷したじきにしているそうです。でも、誰も盗作などとは言いません」

 迫田が関心を示した。

「じゃあ、ファウスト博士もメフィストフェレスも名前を変えなきゃな」

「そうですね。仮の案ですが、セカンド博士とフェミニストファミレスとか」

「ははは、そりゃいいや」

 だが、暴走する二人を高梨が止めた。

「ちょっと待って。それを書いたとして、その後どうする? やっぱり、ぼくらで製本して展示即売てんじそくばいするとか、かな?」

 すると、真行寺が割り込んで来た。

「ダメよ、物品販売は。許可がおりないわ」

 尚美があわてて手を振った。

「違うんです。そうじゃなくて、ネットに掲載けいさいするんです。今は『ヨミカキ』とか『夜空文庫』とか『小説家になっちゃいな』とか、掲載してくれるサイトがたくさんあります。特に『小説家になっちゃいな』は出版される作品も多くて、『なっちゃいな系』と呼ばれる作家も大勢います。ランキングなんかもやっていますから、現在何位になってるとかを、パソコンで見せるんです。きっと、みんなの興味を引きますよ」

 高梨も納得した顔になった。

「よし、じゃあ、そういうことなら、迫田と早川くんに作品の制作をお願いするよ。それ以外の準備をぼくと真行寺さんでやろう。じゃあ、次回までに、草稿そうこうだけでも書けるかな?」

 迫田は、ちょっと上を向いて考えたが、すぐに頷いた。

「ああ、とりあえず、ざっくりでいいよな。面白そうだから、早川に下書きしてもらって、おれは推敲すいこうに専念するよ。ところで、早川、ペンネームとか、どうする?」

「そうですね。ゲーテをひっくり返して、テーゲーとか、どうでしょう」

「ははっ、そいつはいいや。うん、なんだか楽しくなってきたぞ」

 高梨もホッとした顔になったが、ただ一人、真行寺だけはまだ不安そうにつぶやいた。

「本当にそんなもの、掲載してくれるのかしら?」


 だが、テーゲー作『セカンド』は『小説家になっちゃいな』のランキング上位に入り、翌年出版されて、大ベストセラーとなった……。

 と、いうほど甘くはなかったが、一応、文化祭の展示としては成功し、おかげで新入部員が三人入ってきた。

「まあ、結果オーライ、かな」

 文化祭が終わった後、高梨はそう言ったが、尚美はくやしがった。

「来年は、オリジナル作品で勝負しますから」

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