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002◆魔王からのお願い

 セシリア王国。俺が冒険者として拠点にしていた国で、今いる魔族領域からもっとも近い人族の王国だ。俺達を殺した騎士もこの国に属している。


「……俺が国王?」


 仲間のためにできる事ならなんでもするつもりだが、それはいくらなんでも無理があるような……。


「まぁ驚くのも無理は無いか。だが実現できない事ではない。幸い勇者は民衆から根強い人気があるようだからな」

「悪いが仮に俺が国王になれたとしても、政治とかさっぱりわからないぞ」

「王になる前も、なった後も我がサポートしてやる。あぁ、ちなみに圧政を敷いたり、非道な事をするつもりはないから安心しろ」


 あまり興味無さげに淡々と話す魔王。俺を国王にしたてあげる魔王の目論見とはいったいなんなのだろうか。


「……すまぬ、少し嘘をついた。生きていると都合の悪い者には、場合によっては消えてもらう事もある。無辜(むこ)の民を傷つけるような事は極力避けたいとは思っているが……」

「……そうか。……ところで魔王、お前はいったい何がしたいんだ?」


 前言を撤回し、少しバツが悪そうにしている魔王に対し、俺は率直に自身の疑問を投げかけた。


「ふむ。何から話したものか……。お前たち人族は我の事を魔王と呼んでいるが、今の魔族領域における我の立場は、数多いる地方領主の1人といった感じでな。敵対魔族と人族に挟み撃ちにされると色々と面倒なのだ」

「あぁ、なるほど。それで俺に人族側を抑えこんで欲しいって事か」

「そういうことだ。此方から侵攻する意思は別にない。あぁ、あとそれと……」


 コホンとひとつ咳払いをする魔王。


「魔王というのは正直柄でなくてな……。配下の者にも名前で呼ばせている。だからお前も我の事は名前で呼んでくれ。我もお前の事は今後名前で呼ぶ」

「……わかった。ノエル、お前の頼みには必ず応えてやる。だから俺の仲間の件、くれぐれも頼むぞ」

「安心しろウィル。我は約束を違えるつもりは無い。……お前の仲間もいつまでもここに寝かせておく訳にはいかんな。もう少し落ち着ける場所へ行くとするか」


 そう言ってノエルが指先を動かすと、息絶えた仲間達が宙に浮く。そしてノエルの歩みに連動して移動する。俺もそれに合わせてついていった。




「お待ちしておりました、ノエル様」


 俺達が移動した部屋に給仕姿をした女性がいた。

 水色のショートカットヘアにノエルと同様の角が生えていて、紅い瞳をしたスレンダーな女性だ。


「準備が良いな、オリヴィア」

「ノエル様のためでしたら、この程度造作もございません」


 案内された部屋は応接間のような場所で、嫌味にならない程度に高級そうな調度品で飾られている。ティーセットとケーキが置いてあるテーブルの前にノエルが座ると、ノエルが俺にも座るように促した。


「オリヴィア、その娘達の体を清めてから客間で寝かせておいてくれ。着替えもお前の判断で適当に頼む」

「かしこまりました。それでは失礼いたします」


 オリヴィアと呼ばれた給仕は恭しく礼をして、浮いていた仲間達を連れて退室する。


「さて、それではさっそくセシリア王国乗っ取り計画について話したいところだが……」

「何か問題でもあるのか?」



「その前にケーキを食べる」


 ……思わずノエルをジト目で見てしまった。


「これから多少血生臭い話をするのだ。そんな話をしながら食べても美味くなかろう」

「……あぁ、まぁ、うん。そうかもしれないな」


 そういってノエルは目の前にあったケーキを食べ始める。この姿だけを見ていると、とても魔王と人に恐れられる存在には見えない。


「ん~……うまうま。……なんだウィル、食べないのか?」

「あまり食欲が無いから茶だけ頂く」

「……貰ってもいいか?」

「え?」

「お前のケーキ……」


 ノエルの皿にあったはずのケーキは、もう既に食べつくされていた。

 そして何かを期待するように、ノエルは瞳を輝かせて俺のことを凝視する。


「……あ、あぁ。ほら」


 俺は自分の目の前にあったケーキをノエルに渡す。


「おぉぉー! 感謝するぞウィル! オリヴィアに見つかって、小言を言われる前に頂くとしよう」

「……あぁ。……なるべく手早く済ませてくれ」

「んー! うまうま!」


 2つめのケーキを美味しそうに頬張るノエル。

 うん。ほんと、とても魔王には見えない。



「えーそれでは改めてセシリア王国乗っ取り計画についてだが……」

「ノエル……口元にクリームがついてるぞ」


 俺の指摘に、ノエルはいそいそと指先でクリームを掬い、ぺろりと舐めた。


「改めてセシリア王国乗っ取り計画についてだが……ウィル、お前は現国王と王女達と面識があるようだが、彼等を死なせる事に抵抗はあるか? 正直に答えてくれていい」

「……俺が小さい頃。まだ国王が国王になる前に、剣を教えてもらった。できる事なら彼等には生きていて欲しい……」


 俺達が殺された事に関しても、彼らが関わっているとは思えない。


「わかった。では生かす方向で作戦を立てるとする」


 わりと重要な問題な気がするが、すんなりこちらの意向を汲んでもらえた。


「……俺としてはありがたいけど……良いのか?」

「我の優秀な諜報部隊が入手した情報から考えるに、まぁなんとかなるな。……その分お前に頑張ってもらう必要はあるが」

「わかった。全力を尽くす」


 もとより仲間の蘇生がかかっていたので全力を出すつもりでいたが、さらに頑張る理由ができてしまった。


「あぁそうだ。計画を実行する前に済ましておきたい事があった。それもできれば早めに」

「……なんだ?」

「お前を殺した老騎士の暗殺。……ウィル、お前ほどではないが、我を討伐しに来た者の中では厄介だったからな」


 暗殺と聞いて息を飲んだ。


「べつにこれは他の者にも任せられる事だが……どうする?」

「俺がやる……」


 こんなに早く復讐の機会を得る事ができるとは……。


「あいつらは俺が殺す!」


 他の奴にこの役目を譲る気は無い。必ずこの手で後悔させてやる……!


「気合を入れるのは良いが、他の者には見つかるなよ。お前はまだ死んだ事にしておいた方が都合が良いからな」

「……気を付ける」

「お前達と一緒にいた騎士4人は、どうやら翼竜で先に山を越えて王国に戻ったようだ。追うなら早い方が良いだろう。今からでも行けるか?」

「あぁ、俺はいつでも行ける」


 ノエルは俺に確認を取ると、数回手を叩き上を向いて誰かに話しかける。


「ドライ、いるな? ウィルを案内してやってくれ」

「はっ! ここに……って、うぎゃあぁっ!!」


 何やら天井から黒い塊が落ちてきたかと思うと、着地の際に絨毯で足を滑らせ盛大に転んだ。


「あいたたた……あっ! シノビ組第3部隊隊長、ドライ見参でござる!」


 黒頭巾と黒装束を着た茶髪のちっちゃな女の子が、すぐさま立ち上がりふんぞりかえる。え……俺この子に案内されるの? すっごい不安なんだけど。


「ドライは安全な場所だとこんなんだが、外に出ればちゃんと働いてくれるから安心しろ」


 不安が顔に出ていたのだろう。ノエルからフォローをいれられた。


「そ、そうでござる! 拙者ちゃんと役に立つでござるよ! 耳と鼻を活かした索敵能力には特に自信があるでござる」

「そ、そうなのか……」

「むむっ! 疑っているでござるね? ならば今ここで拙者の力をお見せするでござるよ」


 そう言うとドライと呼ばれた少女が何度か鼻を鳴らす。


「……ウィル殿、右足のポケットに焼き菓子の包みが入っているのでは?」

「……おぉ。なるほど、確かに凄い嗅覚だな」


 自分でも忘れていたが、行軍中にエメリナから貰って食べたものの包み紙が入っていた。中身はもう無いし、わずかに残り香があるかどうかといったところだろう。


「ご理解して頂けたところでさっそく行くでござるよ! 敵は待ってはくれないでござる。ウィル殿、拙者の後に続くでござる!」

「わかった」


 応接間の扉を開き、走り出すドライの後を追う。……待っていろヒューゴ。まずはお前からだ。

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