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こちら、<対魔族魔法精霊学園>  作者: 海鼠なまこ
1 精霊の天敵
8/15

Ep.7 謝罪と食事と襲撃と捜査 中編

 7-1


 翌日、真來(しんらい)は午前中の授業を終えると、食堂へ向かった。

 イヴはあれから、一度も真來と目を合わせていない。

 適当に料理を皿に取り、空席を探す。

 すると、同じように空席を探している少女──オーディーンを肩に乗せている──イヴと目が合った。

 イヴはそっぽを向き、見つけたらしい空席へ歩き出した。

 真來は早足で、イヴの後を追う。

 何食わぬ顔でイヴの後ろにくっついて行き、彼女が逃げないことをいいことにして、差し向かいの席に陣取った。

 周囲の学園生たちは、気づかぬ者はこちらを見ないが、真來とイヴの姿を認めた者は、「あいつ、誰だ?」「あのイヴと同席……何があった?」などと、口々に何やら疑問を言っていた。

 イヴは呆然とこちらを見たが、別に文句を言うでもなく、黙り込んだ。フォークをグーで握って、トマトソースのパスタに突き刺す。

 明らかにペースを乱されている。真來をどう扱っていいか、わからないらしい。

 オーディーンは我関せずで、自分のチキンに夢中になってかぶりついている。

「むむむむむ……」

 白夜(しろや)は若干涙目になりながら、ふてくされたようにサンドイッチを咀嚼していた。が、真來は無視して、イヴに向かって言った。

「どうした、黙っちまって。文句があるなら聞くぜ?」

「……呆れてるんです。それに、黙ってるのは退屈だからなんですよ。貴方も男なら、少しくらいは盛り上げてみたらどうですか?」

「ほう。お前、一応は盛り上がりたいのか」

「……オーディーン、この不届き者を消すわよ」

 真來を鋭く睨み、オーディーンに魔力を流そうとする。

「おいおい、風紀委員が物騒なこと言うなよ」

「そうだ。落ち着け、イヴ」

 オーディーンの助けもあってか、イヴはすんなり平常心に戻り、パスタを再び食べ始めた。

「……少し、頭に血が上ったわね」

 ふてぶてしくはあるが、どうやら真來と共に昼食を食べることに不満はないらしい。

「そうだ。イヴ、お前、夜って用事とかあるのか?」

 サラダを食べながら、真來は唐突にイヴに質問した。

「……どうしたんですか、急に」

捜査(デート)に、付き合ってくれ」


 7-2


 午後の授業が全て終わると、真來は白夜を伴って、講堂を出て行った。

「そういえば、月姐(つきねえ)さんには相談したのか?」

「はい。氷華(ひょうか)姉さまが伝言を寄越しました」

「流石、早いな。それで、何だって?」

「軍部の方針は、『GO』だそうです」

 正直、以外だった。真來は思わず、黙り込んでしまう。

「…真來、気に入らないのですか?」

「俺は軍の犬、やれと言われりゃやるだけだ。……でもな」

 確かめるように、白夜を見る。

委員長(ファルシア)さんを信用していいのか、ってことですか?」

「だって、胡散臭い話だろ。俺に参加資格(エントリー)をくれるなんて、そんな権限があいつにあると思うか?」

 白夜は目線を日が傾きつつある空に向け、記憶を掘り返すように言った。

「氷華姉さまが言うには──ポールニア家と言えば、英国諜報機関ともつながりがある、英国の有力議員だそうです。お父上のシガルス卿は、亡き女王陛下の御世から権勢を振るう英国の重鎮──英国から資金援助を受けている学園も、その意向は無視できないだろうと」

 なるほど、そのくらいは既に調べがついていたのか。流石に軍のやることだ。当然、利益があると踏んで『GO』を出している。

 それに、昨日の事件現場にも、大勢の学園生が集まっていた。

 それだけ、この事件は学園生に大きく関わっているということだ。ファルシアの言葉に、嘘はないだろう。

 つまるところ、問題となるのは倒せるかどうか、だ。

 いや、見つけられるかどうかも怪しい。

 詳しい話はファルシアに聞いてみなければわからないが、簡単に遭遇できるものなら、風紀委員が(もしくは警備が)とっくに退治しているだろう。

(まずは探すところから、か。戦争の開催に間に合うか?)

 思考の海に沈みそうになる真來を、白夜の声が引き戻した。

「真來、イヴさんが来ましたよ」

 顔を上げると、イヴは毎度のようにオーディーンを肩に乗せ、真來たちの前に現れた。

 太陽はすでに壁の向こうに消えてしまっていて、講堂周辺の外灯が灯っている。

「来ましたよ」

「やっと来たか。待ちくたびれたぜ」

「荷物の整理をしていただけです。……それで、これからどうするんですか」

「だから、捜査(デート)だよ」

 わざわざ面倒な言い回しをしなくても、とイヴはため息をついた。

「じゃあ、どこに行くんですか?」

「街だ」

「街──って、学園の外ですか?」

「当然だろ。日も暮れてるってのに、学園の中でどうやって遊ぶんだ」

「…捜査、というのは?」

「少し、お前に聞きたいことがあるんでな。捜査はそのついでだよ」

 イヴは呆れ顔になった。捜査をするからと誘っておいて、捜査はついでだったとは。

「オーディーン、何とか言って」

「……ふむ。私もそれほど野暮ではないからな」

 イヴに助けを求められるも、オーディーンは何食わぬ顔で、ひょいとイヴの肩から離れた。

「いい機会だ。楽しんでくるといい」

「…………」

 イヴが半眼でオーディーンを見つめたが、どうやら保護者(?)の了解は得られたようだ。

 真來は強引にイヴの手を引き、半ば無理矢理にして門に向かって歩き出した。


 7-3


 手をつないで遠ざかる男女を、白夜はどんよりとした顔で見送った。

 今ならまだ間に合うと思ったのか、ふらふらとした足取りで門へ向かって歩き出す白夜を、

「待て、白夜とやら」

 彼女の白髪(はくはつ)を咥えて、オーディーンが引き止めた。

「離してっ。離してくださいぃ~~っ」

「君は知っているかね?学園生の精霊及び召喚獣は、クエストを受注していない限り、市街地に出ることができない」

 くいっと小さな頭をもたげ、監獄の如き門を示す。

「見ろ。警備の者が君を狙っているぞ」

 言われた通りに警備を見ると、構えた銃口で、何かが光っていた。

 その光は冷たく、装填されているものが実弾──もしくは反転石(リバーストン)だ──であることを物語っていた。

「警備にはここを卒業した者もいると聞いている。ライフル程度ならともかく、魔術師が相手では、君が消滅してしまうことは目に見えている」

「でっ、でもっ……」

 よく考えろ、とオーディーンは白夜を諭すように言った。

「君が問題を起こせば、主である真來に迷惑が掛かるのだ」

 それは白夜にとって、銃弾よりも重い一撃だった。

 白夜はしゅんとして、その場にへたり込み、ぽろぽろと涙をこぼしはじめた。

「この程度のことで泣くな。君はもう少し、主を信用しろ」

「信用、ですか……?」

「そうだ。私はかれこれ、一五〇年も生きている。人間を見る目は、それなりに磨いてきたつもりだ。少なくとも、彼は、イヴが目的ではないようだ」

「…………本当ですか?」

「ああ、本当だとも。彼はイヴに好意を寄せているようには見えないし、イヴ自身もそれは同じだ」

 オーディーンは白夜の正面に着地し、ゆっくりと、確かめるように言った。

「いいか、白夜。我らは人間とは違う。君は外見的にも、その感情といったものも、人間と大差ないようだが──それでもなお、我らは人間と対等な存在にはなり得ない」

「そんなの……わかってます……」

「精霊や召喚獣は、主たる操者からの魔力供給を受けて活動している。多少は空気中のエーテルから魔力を供給できるが──それでは圧倒的に魔力量が不足する。言わば我々と主の関係は母親と子供のようなものだ。主に好意を抱くのは至極自然なことではあるが……君のそれは、少々度が過ぎている。悪いことではないのだが、なぜ、そこまで彼に固執する?見たところ、君は真來一人だけの魔力で活動している訳ではないようだが」

「……それは、言えません」

 もじもじと恥じらい、地面に『の』の字を書く。その仕草は、極めて人間的だった。

「彼の目的と何か関係があるのか?」

「……それは……」

「彼は何者だ?なぜ、<精霊の天敵>(この事件)の捜査に協力してまで、戦争の参加資格を得ようとする?」

「詳しいことは言えません……でも」

 しばしの逡巡。ややあって、白夜は重く呟いた。

「真來は、復讐のために」

「……そうか。ならば、詮索はしないでおこう。私にも、イヴにも、人に言えない事情くらいあるものだ。いずれにせよ、今、我らの近くに主はいない」

 ふわりと浮かんで、オーディーンは白夜の頭に止まった。

 白夜の深黒の瞳を覗き込み、白い仔馬は静かに囁いた。

「<精霊の天敵(アンノウン)>には、気をつけねばな?」

「え──」

 不意に周囲の闇が濃くなり、オーディーンの瞳は、猫の瞳のように、妖しく光った。

尺の分け方を間違えたため、次回はかなり長くなると予想されます。

予め、ご了承ください。

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