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こちら、<対魔族魔法精霊学園>  作者: 海鼠なまこ
1 精霊の天敵
6/15

Ep.5 煌めく紅き翼(フレアフェニックス)後編

煌く紅き翼、これで終了です。おそらく、Ep.6は四~五部分に分けることになると思います。

 5-1


 気付いているのか、いないのか。

 反転石(リバーストン)の装飾が施された銀の仮面をつけた男子学生は、こちらを見ようともせず、通りを横切っていく。

 彼は一人で行動しているが、もう一つ、「人ならざるもの」の気配を感じる。彼の精霊だ。その気配は、真來(しんらい)にとって絶望の記憶を呼び覚ます、死と退廃、そして負の香りを漂わせている。

「──白夜(しろや)

『ちょっと真來!?本気ですかっ?』

 頭の中に声が響く。白夜の声だ。耳に手を当て、話を聞く。

『今の真來では、()()()勝てませんっ!」

「……絶対に?」

『そうです!()()()は技術も魔力も図抜けています。総合成績は歴代一位、この学園創立以来の秀才ですよ?その能力はまさに()()()()()()()()ほどのもので、ついた二つ名(登録コード)は<世界(ワールド)()支配者(バンキッシャー)>……。現時点で最も<大魔導師(ウィザード)>に近い存在──って、真來っ!?』

「説明はありがたいけどな、俺は筋金入りの馬鹿だ。一度試してみるまで理解できないのさ」

 憤怒のあまり、最後まで聞いていない。真來は既に歩き出していた。

 自然と早足になり、いつの間にか駆け出している。

 食堂の前を通りかかると同時に、黒いコートの背中に呼びかけた。

「待てよ、仮面野郎。それとも、<支配者(バンキッシャー)>って呼んだ方がいいのか?」

 男子学生──<支配者>が足を止める。

 彼から発せられる精霊のオーラと気配に、真來は思わず顔をしかめてしまう。

 燻されるような痛みと怒りに胸を焼かれ、平静を装うことができなかった。

 その気配は、あまりにも()()()()()()

「よう。人を殺し、その魂を連れてお散歩か?最低な趣味だな」

「……誰だ」

「悲しいこと言うなよ。遠路はるばる、極東の国から会いに来てやったのに」

 軽口のように言いながら、真來ははっきりと自覚した。

 体の芯が燃え滾っている。

 人は怒れば怒気が漂う。だが、本当に心底からの怒りに支配されたとき、怒気は凪のように穏やかになる。

 しかし、言葉を低く抑えても、感情を押し殺しても、どうも怒気は真來の全身から放たれているらしい。

 周辺を歩く生徒は足を止め、話が広がったのか、食堂の生徒は身を乗り出し、まるで殺戮の現場でも見るかのように、こちらを見つめている。

 仮面の中の瞳がこちらを睨み、再び歩き出そうとする。

「……どうやら、人違いをしているようだ」

 真來はすばやく<支配者>の前に回りこむと、上着の内ポケットに手を入れた。

「俺は、ただ、こいつをあんたに渡そうと──」

 刹那、どこからともなく、一人の少女が現れた。

 フリルがついたゴシックドレスのような黒い衣装を纏っており、真紅の髪は地獄の光景を、凍りついたような無表情は殺し屋のような印象を真來に与えた。

 おそらく、道を行く他の学園生たちも、<支配者>の使役する精霊を見るのは初めてだろう。

 その少女は純白(パールホワイト)の鉈を握っており、鉈の切っ先は真來の喉元にあった。

 少しでも首を動かすか、鉈を押し込むだけで、真來の首は簡単に裂けるだろう。

「逸るなよ。せっかちなお嬢さんだな」

 手を上げ、苦笑する。

「……退け」

 (あるじ)たる<支配者>の一言で、少女は真來から少し離れた。だが、真來に対する警戒は解いていない。

 真來は再び内ポケットに手を入れ、一つの魂端末(ソウルガジェット)を取り出した。

 真來が感じる限り、精霊や召喚獣の気配を感じない、いわゆる「空の」魂端末だ。

 少女が真來から魂端末を受け取り、<支配者>に手渡す。

「──これだけ、頂いておこう」

 それだけ言うと、<支配者>は真來の横をすたすたと歩き、どこかへ言ってしまった。

 真來の頭の中に、白夜の声が響く。

『すみません…………私、何もできませんでしたっ……』

 白夜の声が震えている。おそらく、彼の精霊のオーラに圧倒されていたのだろう。

「いや、大丈夫だ──だが」

 真來は強くこぶしを握った。

()()俺じゃ、<支配者(あいつ)>には絶対に勝てない……!」

 遠ざかっていく背中を、真來はしばらく睨み続けていた。

 いつになったら、俺はあいつを超えられるだろう。


 5-2


 食堂前での騒ぎから数分後。一人の男子学生──通称<支配者>は、科学棟への小道を歩いていた。

「クロク。少し、時間をくれないか?」

 突然声をかけられる。<支配者>──名をクロクというらしい──は足を止めた。

「何の用事でしょうか、セナ教授?」

 木の陰から、一人の女性が顔を出す。魔法物理学教授のセナ・エレナーデ。亜麻色の髪と白衣のコントラストがまぶしく、深い赤の瞳は人の心を見透かすかのように鋭い。

「いや、少し気になることがあってね。君が先刻、<死への列車(トレインズ・デッド)>から受け取った、それは何だ?」

 クロクの持つ、魂端末を示す。

「教授は、彼をご存知で?」

「なに、私が担任を請け負っただけだ──それで?()()()()()()()()()?」

「波動が弱いので、解析してみなければわかりませんが──おそらく、魔物かと」

()()だと?」

 意外そうな顔をする。

「ええ。それも、小人鬼(ゴブリン)一目人鬼(オーク)のようなものではなく、それこそ一目巨人(サイクロプス)翼龍(ワイバーン)といった、非常に力の強い、唯一無二の魔物でしょう」

「なぜ、<死への列車>がそんなものを……いや、今考えても仕方ないな。しかし、なぜ君に?」

「……剣を交えて、決闘の証とするように」

 唐突な呟き。セナは怪訝そうに眉をひそめた。

「極東のとある一族には、魂端末を突きつけて、仇討ちに臨む風習があるそうです」

「……つまり、君は彼の仇であると?」

 クロクは答えない。だが、それは肯定にも受け取れる沈黙だった。

「ご用件が無ければ、これで」

「ところで、クロク」

 通り過ぎようとする<支配者(クロク)>に、セナは切り込むように問うた。

「こんな噂を知っているかね?誰が言い出したかは知らないが、君の精霊は死者の魂、すなわち「死霊」をもって造られた聖霊だと言うんだがね」

 再びクロクが足を止める。セナは続けて、

死霊術(ネクロマンス)というやつさ。霊晶(コア)に死者の魂を封じ、新たな能力(モノ)を造りだすという、あれだ。君も知っているだろう?その魔術適合性は遺骸や遺物を贄として捧げる「儀式」の比ではないが、それを行った者はもれなく人間ではなくなり、討伐対象になる」

 彼女の言葉の調子は世間話のそれだったが、全身から殺気に似た緊張感が放たれていた。クロクの聖霊が反応し、セナに敵意を向ける。

 セナは刃物で裂いたような笑みを頬に刻んだ。

「実際のところを聞かせてほしいところだが」

「……それは尋問ですか?」

「──いや、個人的な興味だよ」

 クロクは少し考える素振りを見せ──

「戦争の規約に、『死霊術を使用した聖霊を召喚してはならない』という条項は存在しません」

 とだけ、答えた。

 すぅっ、とただでさえ鋭いセナの視線が、切れ味を持った刃のように、さらに鋭くなる。

「……それが君の答えだと、そう捉えていいのかね?」

「構いませんよ、セナ教授」

 挨拶もせずに去っていく。

 クロクが去ると、セナは大きく息をつき、苦笑した。

「全く、恐ろしい男だよ、君は。その若さで死霊術を用いて聖霊を造りだし、使役するとは……。召喚師たちが聞けば、相当に腐るだろうな」

 科学棟へ消えていくコートを見つめ、セナは独り言を言った。

「それで?一体誰を犠牲にしたんだね?」

 彼女のその問いに、答える者はいない。

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