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こちら、<対魔族魔法精霊学園>  作者: 海鼠なまこ
1 精霊の天敵
2/15

Ep.1 ようこそ魔法精霊学園

だいぶ間が空きましたが、やっとのことで第一話がスタートします。

みなさんに楽しめていただけるような小説になるよう目指しますので、応援よろしくおねがいします。

 1-1


 編入手続きを済ませた少年は、学園の敷地内にあるラファエル男子寮の自室で、生徒手帳に目を通していた。

 手帳に記された少年の名前は、黒鋼真來(くろがね・しんらい)

「ああ、明日から二日間、戦争の序列を決める編入試験だとよ。せっかくここまで来たのに、なかなか休めないぜ」

 耳に手を当て、「会話」している。

 ふと窓の外を見やると、寮の近くに植えられていた木の上に誰かが立っていた。

 暗くてよく見えないが、月光を反射する金髪とエメラルド色の瞳で何とか「人」と認識できる。

 人影はそのエメラルド色の瞳で真來を数秒見つめていたが、やがて宵闇に溶けるようにして消えた。

「――いや、なんでもない。ああ、おやすみ」

 真來は部屋の明かりを消すと、ベッドの中に入り、死んだように眠った。

 ◇  ◇  ◇

 二日後、編入試験――筆記のテストと実技教科のテストという簡単なものだ――を終えた真來は、魔導科学の授業を受けるため、広い学園の中を彷徨っていた。

 編入手続きのときに渡されたデバイスに内蔵されている学園の地図を見ても、魔導科学の教室の場所が分からない。

(やっぱり異国の言葉は分からないな……)

 そんなことを考えながら、真來がメインストリートを歩いていると、

「あの…ちょっといいですか?」

 背後から声をかけられた。

「ん?あ――」

 返事をする時間もなく、手を引かれ、メインストリートから外れた茂みの中に連れられる。

「突然すみません。私は――」

 手を引いていたのは少女だ。エメラルド色の瞳をもつ、金髪の可憐な少女。

 少女は自己紹介でもしようとしたのだろうが、真來の声にかき消されてしまう。

「イヴ・アレスターナ、だろ?」

 言い当てられる。そのとき、少女――イヴの中に、一つの疑問が生じた。

(この男、どこでその情報を?)

「学園の二回生にして、戦争の序列は第十七位。ロンドンのブックメーカーがオッズ三倍をつけた、次期大魔導師(ウィザード)の有力候補」

 すらすらとイヴのプロフィールを語る。

「登録コードは<異界より(ヴァルハラ)()来訪者(エトランゼ)>。違うか?」

 イヴは少し驚いた様子──若干引き気味だが──で、

「まさかそこまで知ってるとは、驚きましたよ。……もしかして、貴方はストーカーですか?それなら懲罰房でゆっくりお話できるんですが」

 イヴが制服の腕につけた腕章を示した。

 格調高い書体で『Censor』と刺繍されている。いわゆる、風紀委員だ。

「ち、違う!人から聞いただけだ!だから話を進めてくれ!」

 イヴは呆れたようにため息をついて、

「貴方の説明どおりですよ、シンライさん。私はイヴ・アレスターナ。貴方と同じクラスです」

 同じクラスなら、真来と同じ魔導科学の教室に向かっているはずだ。間もなく授業が始まる時間だというのに、風紀委員でもある彼女が、なぜここにいるのだろう?

 その疑問を口にする直前、イヴはデバイスを差し出した。

 その画面には、『授業欠席許可証』と、英語で書かれた文書が表示されていた。

 欠席理由は、『クエストの受託及びクエストへの出撃』。

 真來は先日読んだ、生徒手帳に書かれた校則を思い浮かべた。

 確か、クエストの受託条件は『二人以上』だった気がする。

 まさか。

「まさか、とでも言いたそうな顔ですね」

 イヴは悪戯っぽく笑ってから、

「はい、そのまさかです。あなたには、これから私と一緒にクエストに出撃していただきます」

 クエスト──それは、山や林などに魔物が出現した際に発令される討伐依頼だ。

 主に国家の軍部や魔法精霊部隊が魔物を討伐するのだが、その魔物の一部を訓練も兼ねて学園生が処理することとなっている。

 それだけではない。

 クエストに出撃した生徒は、実技教科の点が得られる上、その日一日は授業が全て免除される。しかも、免除された教科は評価が下がらないというおまけつきだ。

「でも、何で俺なんだ?俺より強い奴なんて、この学園にはゴロゴロいるだろ」

「これはただのクエストではありません。貴方の能力を見るためのものでもあります」

「お前が俺の能力を見る必要なんてあるか?」

 事実、真來は特別頭が切れるという訳ではないし、逆に特異な体質を持っている訳でもない。

「これは風紀委員──いえ、学園に関わる事件の捜査協力者の適正試験、とだけ言っておきましょう」

「はあ?何で俺が…これ見てみろよ」

 デバイスを見せる。そこには、戦争の参加者プロフィールが記載されていた。

『Kurogane Shinrai』──序列は全校生徒一五四三二人中、七四一三位。

 試験詳細は筆記が五七点、実技六五点。登録コードは<死へ(トレインズ)()列車(デッド)>。

(やはり、あの列車事件の……)

 イヴは真來が適正試験者に選ばれたいきさつを説明することにした。

「貴方は先日、マンチェスター行きの列車を停止させました。ブレーキの利かない暴走列車。それを止めた貴方の実力を、風紀委員は見込んでいるのです」

「…そもそも、何の事件の捜査なんだ?」

 もっともな質問。イヴは一人で話を進めていた自分を恥じた。

「あなたは、<精霊の天敵(アンノウン)>をご存知ですか?」

 真來は記憶を掘り返してみたが、そんな登録コードの生徒はいない。

「その<精霊の天敵>ってのは誰──いや、『何』なんだ?」

「この学園では毎年、何人か行方不明者が出ています」

 はぐらかしているわけではなさそうだ。真來は黙って続きを待った。

「多くは自主退学です。学園のカリキュラムは決して楽ではありませんし、講義についていけない人は、いずれ振り落とされる運命です。それに、授業料も安いとは言えません。やめる理由はいくらでもあります」

「わからないな。やめたけりゃ、退学届けを──」

 途中で口をつぐむ。真來にも、届けを出さない理由がわかった。

「そう、訳あって退学届けを出せない人たちです」

 学園は魔術世界の最高学府、極めて狭き門だ。いくら学園生が多いとはいえ、この学園は実力がなければ入ることはできない。真來も、点数こそ平均的だが、世間的に見れば「いいところ」で教育を受けているとみられるほどの実力の持ち主だ。資金と学力を自前で用意できる者はいいが、そうでない者には後援者の力が必要になる。

 各国の軍部や財閥、教団、国家などが資金を出すことが多い。

 途中で学園を抜けることは、そうした後援者の目には裏切りと映るだろう。

 かかった費用を返せと、補償金などを迫られるだろうし──

 最悪の場合、命を狙われるかもしれない。

「そういう中途退学者は、地下に潜るしかありません。魔道に堕ち、犯罪に手を染める者もいます。学園生は引く手あまた──それは何も、日の当たる世界だけとは限りませんから。皮肉なことに、ツブシはいくらでも利くんです」

「……だろうな」

 かく言う真來自身、汚れ仕事を請け負う一族の出だ。

「ですが、様子がおかしいんです」

 声の調子が変わる。どこか、戸惑い──疑問があるような言い方だった。

「去年の10月、つまり新年度開始からの行方不明者の数は26人──明らかに突出しています。それだけではありません。破壊された魂端末(ソウルガジェット)が見つかったケースも12件あります」

()()()()()?」

 魂端末。

 それは精霊や召喚獣の魂を封印した板状の端末だ。真來も、これを暴走列車を止める際に使用した。

「そうです。単なる脱走者なら、自分の魂端末を破壊したりはしません」

 魂端末は魔術師たちの財産だ。大事な商売道具だし、不要なら売り飛ばすこともできる。壊す理由はない。

 だとしたら。

「誰かが襲っている──」

「可能性が高いです」

「おいおい……今の今まで野放しだったのか?」

「もちろん、私たちも手をこまねいていたわけじゃありません。この数ヶ月、警備と協力して夜間の巡回を強化しました。もちろん、独自の調査も続けていました。」

「成果のほどは?」

「それが全く。目撃情報もありますが、誇張された部分が多く、ほとんど都市伝説となっています。切り裂き(ジャック・)ジャック(ザ・リッパー)の再来ですよ」

 愚痴るように、口をとがらせる。

「はっきりしているのは、この学園には<精霊の天敵>と呼ばれる『何か』がいて、それは魂端末──精霊や召喚獣が大好物、ということだけなんです」

 イヴは学園の門に向かって歩き出し、真來もそれに続く。

「さて、もう私の話はわかったでしょう?<精霊の天敵>は学園にとって脅威──倒さなくてはならない『敵』です。貴方が名を上げるにはもってこいの相手だとは思いませんか?」

「……だから、なんで俺なんだ?」

「私からは以上です。後で委員長にでも聞いてください。時間は作りますので」

 話を切り上げ、すたすたと歩く。学園の門を出て、ポータル──いわゆるワープ装置だ──を用いて郊外の山へ向かう。イヴの話によれば、ここがクエストの目的地のようだ。

 山林に少し入ったところで、イヴが歩みを止めた。

「どうかしたか?」

「……魔物です。数は五つ。行けますか?」

「おまえは一緒に戦ってくれないのか?」

「これは適正試験です。敵の増援が現れたときなど以外は戦闘に参加しません」

「……そうか、いつでも行けるぞ。だが、どんな形状だ?」

「クエストの情報によれば、小人鬼(ゴブリン)とのことです」

「了解。よし、行くぞ、白夜(しろや)

 真來の頭の中で、「はい」という声がこだまする。

 真來は制服の上から吊られたハーネスから魂端末を取り出し、起動しようとした。

 が、起動する直前、イヴに制止された。

「おいおい、どうしたんだ?」

「<ホゥリィドライヴ>はどうしたんですか?<ネイティブドライヴ>だと体に負担が大きいからと、渡されたはずですが……」

 魂端末に封印された魂を開放するためには、<ドライヴ>とよばれる機具が必要となる。

 その<ドライヴ>には二つの種類──体への負担が軽くなる<ホゥリィドライヴ>と、魔術効果が強くなる<ネイティブドライヴ>がある。

 真來が暴走列車を止めたときに使用したのは<ネイティブドライヴ>で、学園生には入学及び編入手続きの際に<ホゥリィドライヴ>が渡され、戦争のとき以外は<ネイティブドライヴ>は使用禁止となっている。

「ああ、これか?」

 ハーネスに取り付けた<ホゥリィドライヴ>を示す。

「それです。これからクエストに出るときは、<ホゥリィドライヴ>を使用してください。これは校則ですので」

「わかったよ。要するに、こうすればいいんだろ?」

<ホゥリィドライヴ>をハーネスから取り外し、本来は<ネイティブ>が出現する位置──魔力を練り上げる丹田のあたりだ──にあてがう。

 すると<ホゥリィドライヴ>からベルトが飛び出し、真來の腰に巻きついた。

 そして、改めて魂端末を起動する。

『Power』

 魔術名が読み上げられると、真來の頭上に(しろがね)の魔法陣が出現した。

 魂端末が挿し込めそうな(スロット)に、魂端末を装填する。

『Import…Ready?』

 そして、精霊「白夜」を召喚する。

召喚(コール)

<ホゥリィ>のレバーを展開すると、魔法陣から白い鎧武者の甲冑がが出現し、真來の体に装着された。

「よし……全部蹴散らすぞ」

 真來は(ひら)けた山道へ跳び出ると、目標となる小人鬼と対峙した。

第一話、終わりました。

……どうでしょうか(びくびく)。

きっと「○○じゃねーか!」と思った方もいると思いますが、私はいろんな作品をリスペクト──もとい、いろんな作品からインスピレーションを受けて執筆していますので、大目に見ていただけるといいかなーなんて思ったりしてます。

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