落ちた世界でメイドになりました 2
チョット前に突然ジャンル別ランキングに浮上してて驚き&喜びにつき暴走、の結果。
アップが遅かったのは途中で止まってた為です(汗
8/6少しだけ加筆修正しました。
吸い込まれてしまいそうなサファイアとブルーの瞳に見つめられて、私は言葉をなくした。
ねだる様な甘い色を浮かべたサファイアブルーに包まれて、逃げることもできない。
囚われた腕の中で、私はノロノロとまるで自分のものとは思えないほど自由にならない手を動かし、唇が触れてしまいそうな程直ぐ近くにある白皙の美貌の頬に添えた。
サファイアブルーの瞳が嬉しげにほころぶ。
そして、私は…………。
「セクハラ反対!!!」
ゴッッ!!!!
上体を後ろに仰け反り、勢いをつけて額を打ちつけた。
鈍い音が響き、額にジンとした痛みが走る。
けれど、覚悟のある私と不意打ちを受けた主人とでは衝撃の度合いが違ったはずだ。
くらりと体がよろけ腕の力が緩んだ所で、するりと滑り落ちた。
「謝りませんからね!乙女の唇を奪った罰です!反省してください!!」
そのまま、後ろを見ずにダッシュで逃げ出した。
メイド長に見つかれば「はしたない」と1時間の説教コース確定な行為だが、構ってはいられない。
貞操の危機(?)と、メイド長の説教及びマナー講座なら後者を取る!
ま、見つからなければ問題ないし。
背中に視線を感じながらも、振り返らずに角を曲がり、そのままの勢いで台所へと駆け込んだ。
よし!逃げ切った!
久しぶりの全力疾走にヘロヘロになりながらも隅に置かれた質素な丸木の椅子へと座り込んだ。
「どうした、シャナ?エライ勢いだな。またレンバード様から逃げてきたのか?」
料理長が夕食用と思われる芋の皮をむきながらのんびりと笑った。
ちなみに料理長は白髪をオールバックに撫で付けたお爺ちゃんで、名前をサムスンという(自己紹介の瞬間、某電気会社が脳裏に浮かんだのは秘密だ)。
御歳60歳。
しかし、日々の立ち仕事で鍛えられた体は矍鑠としており、いまだ衰えを知らず、見た目だけなら軽く10はサバを読めそうなナイスミドルだ。
そして、私を孫のように可愛がってくれており、台所に来るともれなく焼き菓子や飴などのオヤツがゲットできる、私の癒しスポットである。
いつもお世話になってます!
両手で顔を隠して俯いて、私はふるふると首を横に振った。
今、顔が尋常じゃなく熱いから、絶対赤い。多分過去最高に赤い自信がある。
自分に自信のない主人が、確認という名の下素顔で私に接近し、逃げるわけにもいかず耐えきった私が、ゴリゴリと削られた何かを回復するためのお菓子をねだりに来た事、数知れず。
おそらく、私の奇行に1番慣れているサムスンさんだからこそ、どうもいつもと様子が違うことに気づいたのだろう。
シャリシャリと芋を剥く音が止まり、しばしの沈黙の後、ぼそりと呟かれた。
「なんだ、あのヘタレ坊ちゃん、ようやく手を出したんかい」
うおぉぉぉい!私の癒し要員!
なんて事を言ってくださっちゃってるんでございましょうか!!?!?
あまりの衝撃に思わずガバリと顔をあげれば、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべたナイスミドルのお顔。
おう!見なきゃ良かった。
「だってバレバレだったろうに。そもそも、ちぃっとチッコイが初めてまともに自分のことを見てくれる若い嬢ちゃんだぞ?惚れんわけ無かろう」
言い方!
仮にも家の主人なんだから言い方ってもんがあるよね?!
生まれた時から仕えてる古株勢はこれだから!少しは遠慮ってもんがないんですか!
………そんな繊細な人たちなら、早々にここには居ないか。
あ、なんか悲しくなってきた。
主人、良い人なのになぁ。
付き合ってみたらすぐに分かるくらい、優しくて思いやりに満ちてて、異世界から飛び込んできたような身元不審な人間ですらサラリと受け入れちゃうくらい懐も深いのに………。
なんだか、主人の今まで置かれて居た現状を反芻してたら、なんだかグラグラ煮えたぎってた頭の中がスッと冷えてきた。
そうして、そこに浸透するサムスンさんの言葉。
「………初めてまともに自分を見てくれた若い娘………かぁ」
ポツリとつぶやくと視界の隅でなんでかサムスンさんが「ヤバい」って顔をしてた、けど、まぁ。
「そりゃぁ、ちょっと浮かれて暴走しますよね。それなら、モブキャラ一直線な見た目の私にくらっときちゃうのも納得です」
うんうん。
いやぁ、恋愛経験ないからテンパっちゃったよ。
けど、理由がわかれば納得納得。
「いゃ、あの、な?」
「大丈夫です!主様はあんなに素敵な方なんですから、きっともっと家柄とか見た目とか釣り合った方が絶対いらっしゃいます。中身さえ見てもらえれば、大丈夫なんです。
私!頑張りますね!!」
そうと決まれば、早速諸々リサーチしなければ!
「ちょっと、用事を思い出したんで失礼します。あ、このお菓子、貰ってきますね〜」
行き掛けの駄賃とばかりに近くの棚に置いてあったクッキーの袋を拝借すると、私は意気揚々とその場を後にした。
早速家柄容姿が良くて気立ても良いお嬢さんをリサーチしなければ。
できれば、美醜の趣味が少しずれてる人が好ましいなぁ〜。
誰に聞くのが1番良いかなぁ〜とすっかり自分の世界へと入り込んでいた私は、背後から焦ったように呼び止めるサムスンさんの声なんてちっとも耳に入っていなかった。
「マズイなぁ。減給くらいですむかな?これは………」
ゆえに遠ざかる背中を見送りながらつぶやいたサムスンさんが「ま、成るように成るか」と諦めて肩をすくめ、芋向きを再開していたなんてこと、知るはずもなかった。
「そんな方の心当たりがあれば、とうの昔に王妃様がどうにかされていると思うんですけどねぇ」
サムスンさんの所から颯爽とお暇して、たどり着いたのはメイド長のメアリさんの所だった。
マリアさんは、少し恰幅のいいご婦人でとっても笑顔がチャーミング。
でも、怒られるとおそらくお屋敷内で1番怖い人なのだ。
色々采配を振るっているはずの執事のセディさんですら、たまに顔色伺ってるしね。
ちなみにご主人様の元乳母で、調理長のサムスンさんの奥さんでもある。
つまりお年はそれなり………の、はずなのだが、そこら辺はタブーなので触れた事はない。
たとえ異世界でも、女性の年齢は触れてはいけない領域なのである。
え?随分手近な所を頼ったなって?
私、この世界に来て数ヶ月。
さらにいえば、ほとんどお屋敷から出ることもないしがないメイドですよ?
せいぜい、お使いで市場に行くくらいの私に、貴族のお嬢様の情報なんてあるわけがありません。
そして、首を傾げて考えるメアリさんに、肩を落とす私。
そういえば、主人はこの国第二王子だった。
つまり、両親はこの国の最高権力者。
その力を持ってしてもダメだった婚活問題をポッと出のメイドがどうにか出来るわけなかった。
「失礼な言い方ですが、我が国には「ゲテモノ食い」や「ブス専」などの言葉がありまして、一定数は需要があったのですが、こちらではそういう趣味は?」
いえ、私的には主人は類を見ない美形なんだけど、悲しいかな、こちらの世界での美意識ではそうじゃない。
市場に行けば、人気のある高貴な方の絵姿なんかも売ってるからね。
「1番人気」とうたわれる絵姿なんかは堂々とでっかく飾られてるし。
初めて見た時は、呆然と見上げたから。
「あれ」がこの世界の美形か、と……。
ああ、異世界に来たんだな〜と、ある意味初めて魔法を見た時より呆然としたから。
衝撃に動けない私を勘違いした店のおじさんが、そっと宣材用の絵姿を渡してくれた時は乾いた笑いしか出なかった。
おそらく、ポゥッと見惚れた乙女にみえたんだろう。
そして、お小遣いが足りなくて買えない可哀想な子供に見えたのだろう………。
要らないっての!
完全なる好意からの行動だと分かってたから、辛うじてお礼を言って帰ったけど。
渋々持ち帰ったそれを主人に見つかり、一悶着あったのだけれども。
あぁ、話がそれた。
「………ん〜〜、もしかしたらいるかもしれないけど、公言している方は流石にいらっしゃらないわね。美意識がおかしなご令嬢、って馬鹿にされるだろうのは目に見えてますからねぇ」
「そう、ですねぇ」
女の集団は怖いです。
弱みを見せれば攻撃されるのは、どこに行っても同じ。
一般社会でそれだから、プライドなんぼのお貴族様じゃ、尚の事なんだろうな。
「それにしても、突然そんな事を聞くなんて、どうしたのですか?」
「………えぇ〜〜っと」
もっともな疑問を投げかけられて、私は口ごもった。
まさか主人のご乱心をバラすわけにもいかない。
ウロウロと視線を彷徨わず私から、何を感じ取ったのか、ポンっとメアリさんに肩を叩かれた。
「まぁ、シャナ。そんな心配しなくても、主人様は最近明るくなられたし、大丈夫ですよ。そろそろ時間ですから、午後のお茶の用意をして持っていってね」
「え?いや、それは………」
さっきの今で若干気まずい気がするので、あまり会いたくない。
どうにかお断りをしようと考えを巡らす私の肩を掴む手に、なぜだか、グッと力が込められた。
「お願いしたわよ?シャナ」
「イエス!マム!」
笑顔が怖い。なんか、怖い。
背後にゴゴゴ〜〜と黒いモヤモヤが見える。
私は思わずピシリと敬礼するとくるりと踵を返し戦線離脱した。
「シャナ!走らないのよ?」
そうして敵前逃亡とした私は、背後から飛んで来た声に反射的に足を緩めた。
クワバラクワバラ。
そうして台所に舞い戻った私を、サムスンさんが可哀想な子を見る目で迎えてくれた。
私の表情で、令嬢探しがうまくいかなかったのを察してくれたのだろう。
そっと茶器とお茶菓子の乗ったワゴンを渡された私は、しおしおとその場を後にした。
そうして、主人の執務室の扉の前でふと足を止める。
(…………気まずい)
何きっかけかは分からないが、突然血迷った主人を止めた事は後悔してない。絶対後々黒歴史になるのだから、むしろそれに関しては感謝してもらいたいくらいだ。
だけど、仮にも主人に頭突きはないだろう。
そろりと今はなんの痛みもない額を撫でる。
実は、この世界に落ちてきたとき、神様が憐れみでもしたのか、私は2つの能力と幾ばくかの魔力を手に入れていた。
能力その1、言語チート。
ラノベとかでよく見るやつだよね。うん。ありがちだけど、本当に助かった。
見知らぬ場所で意思疎通ができないとマジで死ねると思う。聞くのも話すのも読むのも大丈夫。しかし書くには努力が必要だった。
まぁ、私の場合文字の上にルビみたいに意味が浮き上がる形だったんで、多分比較的楽に文字を覚えられたんだけどね。
間違えた文字を書くとそのルビが****って出るから、ある意味わかりやすかった。
能力その2、やたら体が頑丈になる。
はい、そこ、笑わない。
これが結構な便利能力だったんだ。
おそらく、簡単に死んだりしないようにって気遣いだったのかもしれないんだけど(神様とやらにあった事ないんで詳細は不明)、病気をしない、怪我をしにくい。さらに、万が一怪我をしても、ありえない速さで治癒するんである。
初めて見た時はビックリしたけどね。
野菜の皮むいてて指先切った時、まるで早送りしたみたいにスゥッと傷が消えていくんだもん。
気持ち悪くて悲鳴あげたのはイイ思い出。
コレはなんかあると教会で鑑定かけてもらって発覚したんだけど、ね。
いやぁ、おかげで異界で生水飲もうが謎食材食べようがお腹1つ壊さない。
だから多少の毒じゃ死ぬ事もないだろうと毒味役を買って出たら、みんなに全力で止められ、主人には説教された。
なんか理不尽。使える便利機能は使ってなんぼだと思うんだけどな……。
て、訳で、結構な勢いで頭突きしたダメージも直ぐに発動した自然治癒(特大)のお陰で綺麗さっぱり無かったことに………。
あれ?
ちょい待ち。
私、ダメージ受けにくい体=ありえないくらいの石頭って事で、そんなのに全力頭突きを食らった主人はかなりマズイんじゃ………。
「主人さま、生きてますか?!」
ザッと頭から血の気が引いて、勢いのまま執務室の扉を開けた。ら、キョトン顔の主人が執務机から顔を上げた。
残念ながら仮面装着につき私のやらかした額は隠れて見えないものの、最悪の事態は避けられたようだ。
生きてる。
ホッとして足の力が抜けた私はその場にへたり込んだ。
いくら自分自身テンパっていたとはいえ、頭にダメージ与える攻撃はシャレにならん。
良かったあ、脳挫傷とか起こしてなくて。
今の私の身体だと冗談にならないって。
「どうしたんだ、シャナ!大丈夫かい?」
突然飛び込んできて大声出した挙句にへたり込んだ私に、主人が驚いたように駆け寄ってきた。
「アタマ、ズツキ、ケガ……」
安心したあまり言語能力がすっ飛んで、片言でつぶやく私に主人が「ああ」と納得したように仮面越しに額を触った。
「もう治したからなんともないよ。大丈夫」
フッと唯一見えるサファイアブルーの瞳が細められる。
間近にあるそれを見ながら、私は手を伸ばして主人から仮面を外した。
目視オッケー。
白い額に異常は見られない。
しかし、こんな所まで形が綺麗とか、美形っぷりに隙がない。流石主人!
そういえば、主人、この世界でも珍しい治癒魔法使えるんだったね!
本当に、どこまでチートなのかな、この人。
むしろ、他がチートすぎて神様が慌ててこの顔にしたんじゃないかと最近は思えてきたわ!
無意識に伸びた手がスリスリと主人の額を撫でていると、主人の眉がヘニャリと下がった。
「………シャナ、さっきはゴメン。チョット余裕無くして暴走した」
へたり込んだ私に合わせて座り込んだ主人に、仮面を取り上げるため立ち上がった私。
すなわち、現在私の方が見下ろす形になってて………。
つまり何が言いたいかというと………。
(ふおぉぉぉ〜〜!!ヘニャリ眉の美形の上目遣い!!!)
明らかにションボリして、なんならヘタレたワンコ耳まで幻視できそうなその表情に、鼻血吹かなかった私を誰か褒めてくれ!
思わず鼻を押さえてバッと横を向いて耐える。
フルフルと震える身体を抑えようともう片方の手で自分の胴体を押さえた私に、何を思ったのか主人がさらに肩を落としたのが横目に見えた。
「………怒ってる……よな。やっぱり。あんなことしたんだし、当然だけど………」
泣きそうに歪められた目元に、キュッと結ばれた口元。
あ、やばい。自虐スイッチ入る!
『自虐スイッチ』
別名『引きこもりスイッチ』
そして、そのスイッチが入ると地の底まで落ちこんでひたすらに自分を責め続け、部屋にこもって出てこなくなるのだ。
下手に魔力が高いものだから部屋にこもられると物理で扉が開かなくなり(無意識に結界を張るそうな)、残されたものは天岩戸の前で途方にくれる事になる。
他人から否定され続けた主人は、とにかく自己肯定が低く打たれ弱い。
大人になってちゃんと線引きは出来たとかで、有象無象に何を言われてもされても平気らしいのだけど、1度身内と認めた人達からの否定にはひたすら弱いのだ。
ありがたくも迷惑な話だけど、なんでが「身内」枠に入ってるらしい私にもそれは当てはまるそうで、過去にも何度か地雷を踏んで酷い目にあっている。
扉の前で自分の世界の美醜感を力説して、主人の顔が大好きなのだと叫びまくったのは立派な黒歴史だ。
あの日から気の所為か周囲の目が生温かい。
「ちょっ!待って!怒ってません!怒ってませんから!チョットビックリしすぎてやらかしちゃっただけですから!!!」
慌てて主人と向き直り、自分も膝をついて、下から主人を覗き込む。
閉じ込もられたら、黒歴史再びだ。やめて!
「だって、キスされたのなんて初めてだったし、突然だったし!主人に名前!そう!そういえば名前の発音がちゃんとなってた!あれ、どうしたんですか?!」
一生懸命言葉を重ねるうちに、勢いに押されたのか主人の目が驚いたように見開かれ、光が戻ってくる。
「………練習、した。喜んでくれるかなって、思って」
少しはにかんだように微笑むと、主人は私の頬をそっと両手で包むと、コテンと首を傾げた。
「さなえ」
少し舌ったらずだけどシッカリと『私の名前』を呼んだ主人が少しドヤ顔だ。
成人男性のドヤ顔とか誰得だよ!
オレトクだ!ご馳走様です!
みるみる頬が熱を持つ。
前回は主人の謎の色気に当てられて脳みそがボッカンしてたからそっち方面にはスルーしちゃってたけど、名前。私の、名前。
この世界に落ちて大変だったけど、優しい人たちに囲まれて、不自由なんて何1つなかった。
「シャナ」って呼ばれることも慣れて、むしろ分不相応に可愛い名前じゃんって思って、満足してたはずだった。
だけど、名前って大切なものだったんだ。
「シャナ」と呼ばれる事に慣れるうちに「早苗」が飲まれて消えていくような恐怖が知らず胸に巣食っていた。確かに存在していた18年分の私がどこかにいっちゃったみたいで………。
改めて自分以外の人の声で呼ばれる名前に、なんだか胸の奥から熱いものがこみ上げてきて、私は大きく息を吸い込んだ。
だけど、飲み込みきれなかった感情は、瞳からこぼれ落ちてきてしまったみたいだ。
ジッと自分を見つめる主人の顔がユラユラと歪む。
「さなっ、……さなえ。泣かないで」
歪んだ視界の中で焦った主人の顔もやっぱり綺麗だと、心の底から思う。
きっと、主人は私を驚かせようとコッソリと練習してたんだろう。
何度もなんども繰り返し。
だから、私は精一杯の笑顔を浮かべた。
多分、涙でぐしゃぐしゃで、随分みっともない顔だったと思うけど。
「名前、呼んでくれてありがとうございます」
そうして、コクリと1つ息を飲む。
それを口にするのは、私的にはとてつもない気力が必要だった。
けど、これくらいは………。
「………レンバード様」
何度もなんども強請られて、それでも決して口にしなかった名前。
自分なりのケジメのつもりで。
この人は恩人で、仕えるべき人なのだと、自分に言い聞かすために、それは必要な事だったから。
だって、考えてもみてほしい。
他に類を見ない美形が、自分を見て、自分だけに微笑みかけるのだ。
他にも、拗ねてみたり、チョット甘えてみたり、わがまま言ってみたり……。
恋愛耐性の無い小娘が勘違いしてもしょうがない。
でも、サムスンさんに言われるまでもなく、分かっていたのだ。
孤独だった主人が、他人と向かい合ってまともに会話する事もできないほど孤独だった人間が、それを手に入れた時にどう感じるかなんて。
私まで、勘違いするわけにはいかないじゃない。
だけど、そんな建前どうでもいいくらいに心が震えてしまったのだ。
お手上げだ。
だから、1つくらい。………1度くらい。
「嬉しいです、レンバード様」
震える声で名を呼ぶと、主人はビクリと体を震わせた後、ギュッと私を抱きしめてきた。
広い胸に包み込まれるその瞬間、主人の頬が赤く染まるのが見えた。
「さなえ、もっと、呼んで……」
まるで私のものと同じようにかすかに震える声に胸が引きしぼられるように痛む。
鼓動がかつてないほどに走り、なんだか頭がぼうっとする。
「レンバードさまぁ……」
クラクラするままに名を呼べば、それは随分と舌ったらずな発音になった。
なんだろう。
ほんとうに………クラクラして………。
そのまま、意識を手放してしまった私は知らない。
あのクラクラが、名前を呼んでもらえて感動のあまりついリミッターを外してしまった主人の魔力に当てられたせいだとか。
吹き荒れた魔力の渦に、敏感な小動物が一斉にその近辺から逃げ出し、飛び立つ鳥や暴走する動物に周囲が「天変地異の前触れか」と大騒ぎになったとか。
魔力の乱れに驚いた使用人や第一王子とんできて、グッタリした私を抱きしめて慌てている主人の姿を見つけ「やり過ぎるなって言ったのに!」と説教がはじまる事になる、だとか。
そんな騒ぎの全てを知らず、私はなんだか幸せな気持ちで気絶していたのだった。
〜おまけ〜
メアリ「シャナ、当分はレンバード様のことは主様呼びでイイから」
早苗「??……はい。そのつもりですが、何かありましたか?」
メアリ「いいえ。何でもないわ。レンバード様の鍛錬がまだまだ足りなかったってだけの事よ?」
早苗(主様、あれ以上鍛錬したら神の領域に突入しちゃうんじゃ?)
〜おまけ2〜
兄「…………(呆れた視線)」
弟「そんな目で見ないでください」
兄「いや、だってお前、あんなに自信満々だったのに(笑」
弟「だって想像とはイロイロと勝手が違って」
兄「イロイロと拗らせるとこうなるんだな。………とにかく、国民にメイワクかけるのだけは止めるように」
弟「…………」
兄「魔王の出現かって言われてたからな、今回の騒ぎ」
弟「(早苗を連れていっそどこかに引きこもりたい)」
兄「同意のない逃避行は単なる拉致監禁だからな?」
弟「気をつけます」
〜おまけ3〜
☆絵姿が主人に見つかりました☆
主人「シャナ………やっぱり僕に気を使ってたんだ」(若干涙目)
シャナ「いや、違いますって!コレはオマケで貰って」
主人「良いんだよ、そんな言い訳なんて。彼、カッコいいよね……。あ、なんなら紹介とか出来るし」
シャナ「(まさかの知り合い?!)違います。本当に本当に貰い物で………。あ、そう!メリッサ!メリッサにあげるために持ってたんです!」
〜その後30分ほど拗ねる主人に言い訳するシャナ〜
サムスン「お!なんか浮気男並みの弁解をひたすらにくり出してたらしいな、シャナ」
シャナ「もう、勘弁してください〜〜。なんで私がこんな苦労を」
サムスン「なんか顔赤いぞ?どうした?」
シャナ「………(証明の為に)主人にハグされました。本当になんでこんな事に」
サムスン「(そりぁ、絵姿にかこつけて距離詰めようって主人の姑息な作戦だろ。ご愁傷様)…………ま、これやるから元気出せ」
シャナ「わぁい!綺麗な飴だ〜〜」
読んでくださり、ありがとうございました。
何だかモダモダになってしまいましたが、恋愛耐性なしと恋愛どころか人付き合い下手の組み合わせじゃこんな物かと(笑
主様は一応童○では無いですよ〜。腐っても王族なので、義務の一環で。暗けりゃ顔は見えません!(笑
まぁ、恋愛経験は無いので(そもそもまともに顔会わせられないので始まらない)、イロイロ拗らせてはいますがね!
早苗ちゃんの「思い込み」を覆させるのは大変でしょうが、幸せな明日の為に頑張れ〜、と主様を使用人一同と家族で生温かく見守ってます。