第2球:顧問が言うのもなんだけど
「本当は新入生の部活動見学は来週からなんだけど、
野球部の場合は、今日見てもらっても構わないと思うから。」
放課後、栄川と佐倉はふたりでグラウンドに来た。
「はい…。」
芝桜高校の広いグラウンド。
練習をしているのはサッカー部と、陸上部のみ。
そのふたつの部活も、人数は10〜15人程度であった。
「うちの学校は全学年2クラスしかなくて、全校生徒は200人もいない。
部活やっていない子たちも多くて、新入生は毎年争奪戦らしいんだ。
だから、勧誘期間外で見学に来たとなると、他の部活から文句を言われると思うけど、
その文句を言われる野球部が…。」
「いない…ですね。」
サッカー部と陸上部が練習している横で、野球部のグラウンドには誰もおらず、道具も一切出ていない。
栄川は大きくため息をついて、話を続けた。
「今の部員は2年と3年を合わせて5人。
今年だけじゃなくて、ここ5、6年はこんな感じらしい。
実際、公式戦にもしばらく出ていないみないだし、顧問が言うのもなんだけど、
部活というよりも同好会だね。練習もしているんだか、していないんだか、わからないしね。」
「なるほど…。」
「元甲子園球児としては、寂しいんだけど、野球人気もなくなって来ているみたいだし、
今年も入部希望者はほとんどいないんじゃないかな。」
「先生、甲子園出たことあるんですか?」
「3年生の夏に、1度だけね。1回戦で大阪の優勝候補の学校と当たって、12対1で大負けさ。」
「でも、すごいじゃないですか! 先生、ポジションどこだったんですか?」
「ピッチャー! 背番号1、エースだったんだ。決め球はカーブ!
でも、そのカーブがボコボコに打たれて、そりゃもう、悲惨だったよ、ははは。
って、昔話しちゃったけど、こんな感じの野球部だし、
佐倉さん女性で公式戦も出られないから、入る意味がないかなって思ってさ。
せっかくの高校生活だし、部活も有意義なものにしてほしいから。」
佐倉は下を向き、少し黙ってから、何か言おうとした。
その時、それを遮るように、部員の3人が走ってやって来た。
「先生、すいません、遅れました!」
3人は息を切らしながら、栄川に頭を下げた。
「お前ら、ダラダラしやがって〜!
一応部活なんだから、きっちりやれよ。大西、松岡、矢作、お前ら3年だろ!」
「すいません!
って先生、この子は…念願のマネージャーですかぁ?」
大西と呼ばれた坊主頭の生徒が、佐倉の顔を覗き込んだ。
「か、かわいい。俺、名前は大西翔人!
彼女、絶賛募集中だから!」
「大西、違うんだ。マネージャーじゃなくて、選手希望なんだって。」
「えぇ!? どうして? こんなかわいいのに!」
「それは…野球が、好きだから!」
佐倉は真っ直ぐな目で大西を見た。
「でも、女の子は…試合出られないじゃん。うち、人数もまともに揃ってないし。」
「だから、その話していたところなの!
うちの練習環境とか見せて、決めてもらおうと思ったんだよ!」
「先生っ!」
「は、はい。」
佐倉の真っ直ぐな視線に、栄川はたじろいでしまった。
「私、野球部入りたいです。野球がしたいんです!」
「うん…そうか…。」
入部を渋る栄川に、佐倉はこう続けた。
「じゃあ、私の実力を見せます! 先輩方3人から三振を取ったら、入部させてください!」
「んんん?」