第1球:入部希望
北海道の片田舎にある公立高校・芝桜高校の職員室で、
この春赴任したばかりの国語教師で野球部監督の栄川卓は、ちょうど愛妻弁当のフタを開けたところだった。
「失礼します! 栄川先生はいらっしゃいますか!」
ひとりの女生徒が、元気よく大きな声で入ってきた。
その声の大きさに、職員室での昼休みの雑談が一瞬全て止まった。
長い綺麗な黒髪に大きな目、鼻筋の通った鷲鼻、
こんな美少女の生徒がこの学校にいたことに、栄川は驚いた。
「えぇと…僕が栄川です。」
栄川が小さく手を上げると、女生徒は小走りで栄川のデスクの前に来た。
「1年A組の、佐倉南です。初めまして!」
「あぁそうか、1Aでの授業はまだだったね。そんな佐倉さん、僕に何か用事かい?」
「はい、先生は野球部の顧問ですよね?」
「そうだよ?」
「私、入部希望です! よろしくお願いします!」
佐倉は両手で入部届を丁寧に渡した。
「え? ああ、マネージャーかい?
残念だけど、うちの野球部はマネージャーは置かないことにしているんだ。
なにせ、部員もまともに集まって—」
「先生っ!」
「…ん?」
「マネージャーじゃなくて、選手としてなんですけど…。」