-序章- 1.俺の死神はマンホール
とある、春の日。
三葉 雅文は、
──マンホールから、落ちた。
端から見るとなんとも間抜けな話だが、落ちた側はそうも言っていられない。
落ちた衝撃で、気絶。
そのまま下水に落ちて、我に返った時にはもう溺れ死ぬ寸前。
発狂しそうな勢いであがいたけれども、手遅れ感がはんぱない。
無理ですよね、無理ですよね。しってた。
絶望的に臭い水の中で、最後に浮かんだのは、昨日部屋の掃除で出て来たルーズリーフ。
嫌な気配しかしないから、埃かぶったのそのままにして捨てるつもりで。
そこで、ほんの少し魔が差した。見なきゃよかったのに見てしまった。
ぼんやりと浮かぶ。……──真っ黒だったなぁ。
そう、本当に。
書き込みも内容も真っ黒だった。
あれは、見事なまでに素晴らしい黒歴史だった。ブラックホールがあるなら、叩き込みたいくらいに黒かった。
凄い昔のファンタジー。勇者とか、耳の尖ったエルフとかそんなのが出てきちゃうアレ。
中学校の時に書いていたヤツだけれども、ああ『哀れなもん書いてたんだな』なんて思って。リア充でもなかったから、余計に哀れさ引き立った。
──そんなモンを。
明日、燃えるゴミの日に出すつもりで、机の上に置いてしまった、俺氏合唱。
でも、今は。
くさい、苦しい、汚い、くさい。
これが、事実なのだから仕方がない。
俺はそのまま、ドブ水の中に沈んでいった。
死亡確定。
それは高校二年生。
青春の『せ』の字もない、うららかな春の日のことだった。
三葉 雅文:
中学生の頃に、妄想だけでファンタジー小説を書いていた。部屋の片付けをしていたら、そのルーズリーフが出てきて中を読んでメンタル死亡。翌日、マンホールの穴に落ちて完全に死亡。