表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

図書館都市の人形師と自動人形-馴れ初めとルヘルとアウル

 

 

「貴方の欲しい本は、なんですか?」


 ある図書館に入ると、突然そう尋ねられた。

 こういう応対は初めてだ、だいたいの司書は、何かしら尋ねないと何も言わないもんだがね。


「ああ、自動人形の製作技術とか、資料になりそうなのを、あるのかな?」


「もちろんですぅ」


 なんとなく「デキルんですぅ」って印象。


「ああ、やっぱりいい」


「どうしてデスカ?」


「君をジッと見ていれば、それが資料になる」


「うん? どういう意味です?」


「君のような見た目の、美しい人形を、俺は作っているんだ」


「それは、ビクスドールですかぁ?」


「まあ、そんな所だ、ダメかな?」


「わたしの見た目は、そんなに美しいのですか?」


「ああ掛け値なしで、人形では出せない生命力に溢れている。

 それくらいの資料を元にしないと、じゃないと、人形にしても余りパッとしないんだ」


「わたしが欲しいんですかぁ? 貴方は?」


「うん? どこからそういう話になったのかな?」


「だって、美しいってっ、それは好意の表明ではなかったのですか?」


「ああ、なるほど、そうだ好意だな、それで?」


「もし好意があるなら、欲しくはありませんか?」


「まあ、くれるというなら、貰い受けるかもなぁ~」


「それじゃ、わたしをもらっていただけないでしょうかぁ?」


「えーと、どういう話だろうか? これは?」


「まず前提として、わたしは自動人形なんです」


「ああ、なる」


「それで、貴方は人形師ですよね?」


「ああ」


「わたしは人形師と付き合いたいのです」


「それは、どうして?」


「人形師はわたしを作ってくれました、だから尽くしたいのです」


「他には何かないの?」


「あと、恋人募集中、です、貴方でいいかなっとぉ」


「えと、なんて答えて欲しい?」


「おねがい」


「ああ了解、俺も彼女募集中だから、君と付き合いたいよ」


「やったぁー、ありがとうございます。

 これから、彼氏彼女なんですかぁ?」


「まあ、そうみたいだなぁ」


「ふっふふ」


 彼女、ヒイロは、図書館併設の寮暮らしだった。

 でも俺が一人暮らしだとわかると、転がり込むように住み込み始めた。


「じー」


「どうした?」


「わたしと、性的なこと、したいですよね?」


「いや、別に俺はしたくないが?」


「もう十日ですぅよ?」


「ああ」


「可笑しくないですかね??」


「なにが?」


「エロゲーなら、売れない展開ですよ?」


「まあ、そうだな」


「、、、、襲っても、いいですか?」


「ダメだ」


「率直に聞きます、どうしてエッチしてくれないんですかぁ?」


「逆に聞くが、どうしてしたいんだね?」


「そうですね、、、気持ち良さそうだからぁ?」


「俺は、そういう行為をする事に、禁忌的な何かを感じざるを得ないんだ。

 だから、すまん、ヒイロの気持ちに答える事が難しい」


「なーんだ」


「どうした?」


「わたしの魅力がない、貴方がわたしを好きでないと。

 そう思い込んでいたんですけど、だったらいいです、お騒がせしました」


「おっおう」


「一応、もう一度聞きますけど、エッチしませんか? 頑張ります、後悔させませんよぉ?」


「ごめんな、しない」


「残念ですよ。

 ああ、これも一応聞くんですが、特殊な性癖、例えばロリコンではない?」


「ではないなぁ~」


「それは良かったです」


 海辺の近郊、広い更地でいま、俺は作成した人形の性能を試している。

 俺の作る人形は美しさも重要だが、併せ持つ戦闘能力も重要だ。

 四六時中そばに侍らせるのだから、美しい事が望ましい。 

 だからといって、戦闘能力が低ければ、基本的に護衛をこなせない。

 まあだからといって、ゴツゴツした女丈夫だと、偶にそういう需要もあるが、傍に置きたくはないだろう。


「そういえば、ヒイロは戦闘能力とか、あるのか?」


「あります、むしろ、魔法だって使える、最高級タイプですよぉ?」


「それは凄いな」


 魔法、どういう体系かはしらないが、この自信からして十分に実践に耐えるものなのだろう。

 しかし、魔法を使うためには、高度な生体部品を内蔵する必要が多い、彼女はアンドロイド系統なのだろうか?

 まあ、そこら辺の突っ込んだ話題は、タブーな場合もあるし、聞かないで置こうか。


「ああ、あいつ」


 俺は少し離れた林の中に、特徴的なプラチナブロンドの少女の姿を見かけた。


「誰ですか? あの人?」


「ルヘルって奴、町から離れたここ海辺、そこに一軒ぽつんと立つ家で暮らしてる。

 世捨て人ってわけではないだろうが、魔術師としての工房が、そこにあるからかな?」


 ちょっと話しかけてみよう、近づくと何か拾っているのが見える。

 彼女は大き目のバスケットを持っていた。


「よおルヘル」


「こんにちは」


 俺達のあいさつに、彼女はついと機械的に視線をあげて、頭を下げた。


「何してるんだ?」


「キノコを、集めてるぅ」


 キノコ? 確かに、バスケットの奥の方には大量のキノコが納められている。


「しかし、これぇ」


「はい、毒キノコですよ、全部」


「まあ、魔術師のやる事は俺も知らないから、こういう原料が必要だったりするんだろうね」


「いえ、別に魔術の材料ではありません」


「それじゃ、何の為に集めてるんだ?」


「同居人が退屈だと言うので、毒キノコでも食べて遊ぼうと」


「な、、なんというか、大丈夫なのか? それ?」


「大丈夫です、仮に例え死んでも、わたしが蘇らせる事ができますし」


 何でもない事のように言う彼女、そこで袖口が引っ張られた、ヒイロだ。


「蘇らせるって、どういうことですかぁ?」


「ああ、彼女はネクロマンサーなんだ、それもなんか凄いレベルの」


「そ、そうなんですか。

 わたしも、そんなレベルの、規格外の魔法は存在は知ってても使う人は知りませんよ」


 俺はだろうなっと言って、またキノコ集めの作業に戻るルヘルを見つめる。


「おーーい! ルヘルぅー!」


 向こうの方から誰かが、大声を響かせながらやってきた。


「アウル」 


「そうだアウルだ、ルヘルてめぇ、糞爺の耄碌に付き合ってるみたいだが、別にいいぞ。

 だいたい、毒キノコを食べてみる遊びか? やめろやめろ下らない、って、お前ら、誰だ?」


「知り合い」


「そうか、知り合いね、お前に知り合いがいた事に驚きだ。

 よお、俺はこいつの、、、知り合い? じゃないか、そうだ、同居人だ、いや、なんかこれも違う」


 黒髪の少年はぶつぶつ呟きながら、ハッとして顔をあげて言う。


「ルームシェアしてるだけの関係だ」


「なるほど、精確に把握した。

 俺はソラナ、この隣がヒイロだ」


「おお、よろしく、そういえばソラナって、スペイン語で日向って意味だな?」


「みたいだな、まあ俺の名が、そういう意味でつけられかは知らんのだが、案外語感だけでつけた可能性もある」


 それから、少々お互いのあれこれを話した。


「そういや、ソラナとヒイロの関係はなんなんだ? 不躾な質問だが支障がなきゃ教えてくれ」


 俺はヒイロを見つめる、すると。


「彼氏彼女の関係」


 と答えたのだ。


「ああえと、そんな感じで、こんな感じだ」


 なんとなく気恥ずかしい空気だ、ヒイロは全く何も感じてないかのような表情をしている。


「おおそうか、そりゃいいな」


「うん」


 こっちの二人も何でもないかのように、大したことじゃないような反応。

 まあ、こんなもんなのかねぇ?


「そういや、ルヘルとヒイロって、見た目が似てないか?」


「ふむ、そうだな、確かに銀髪は共通してるし、口数が少ないのも似ているかもしれん」


「わたしは、割と話しているつもりなのですが?」


「私は話さない、話すのは疲れる、面倒」


 二人はそれぞれ俺達の批評にそう答える。


「ヒイロ、お前は俺に対してだけじゃないか? 話すの。

 だいたいにおいて、見た目が無口っぽいキャラ、だからなぁ」


「むっ、わたしって、そんな詰まらない感じなんですか?」


「いや、それはそれで、キャラが立っているッというか、チャムポイントだよ」


 そんな風に話していると、その様子を少女ルヘルがジッと興味深そうにガン見していた。


「おいおい、ルヘル、おめぇは、そういう風に恥ずかしげもないことするな」


 そう言ってアウルがルヘルの頭を叩くと、うきゅって、なんか凄く可愛らしい声が出た、話してる時の声と違いすぎだ。


「で、どうしたんだ?」


「あれ、面白そう。

 たぶん、毒キノコを食べる事よりも面白そう」


 その台詞はアウルをジッと見つめながら言われていた。


「なんだ、俺に相手を務めろって?」


 こくこくとルヘルは頷く。


「また、しょうもない事に無駄な好奇心を向けやがってぇ」


 とか言いながらも、声色は穏やかだ。

 これは彼女の意向に従ってやるって感じだろうか?


「とりあえず、見本を参考にする」


「見本?」


「この二人がしていることを、全部真似してやってみる」


「、、、、今日は、帰るか?」


「帰らない、絶対に帰らない」


「、、、、」


 アウルがこちらをジッと見つめて、アイコンタクトで何か伝えてきた。


「はっは、いいよいいよ、ルヘルさんはそういう事に興味があるみたいだからね」


「うん、無難で模範的な、デート? みたいなこと、これからしてみればいいのかな?」


 これで良かったのだろうか、すると。


「どうもありがとう、恩に切るぜ」


 アウルはそう言って溜息を付き、そんな彼の手を握るルヘルがいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ