図書館都市の人形師と自動人形-馴れ初めとルヘルとアウル
「貴方の欲しい本は、なんですか?」
ある図書館に入ると、突然そう尋ねられた。
こういう応対は初めてだ、だいたいの司書は、何かしら尋ねないと何も言わないもんだがね。
「ああ、自動人形の製作技術とか、資料になりそうなのを、あるのかな?」
「もちろんですぅ」
なんとなく「デキルんですぅ」って印象。
「ああ、やっぱりいい」
「どうしてデスカ?」
「君をジッと見ていれば、それが資料になる」
「うん? どういう意味です?」
「君のような見た目の、美しい人形を、俺は作っているんだ」
「それは、ビクスドールですかぁ?」
「まあ、そんな所だ、ダメかな?」
「わたしの見た目は、そんなに美しいのですか?」
「ああ掛け値なしで、人形では出せない生命力に溢れている。
それくらいの資料を元にしないと、じゃないと、人形にしても余りパッとしないんだ」
「わたしが欲しいんですかぁ? 貴方は?」
「うん? どこからそういう話になったのかな?」
「だって、美しいってっ、それは好意の表明ではなかったのですか?」
「ああ、なるほど、そうだ好意だな、それで?」
「もし好意があるなら、欲しくはありませんか?」
「まあ、くれるというなら、貰い受けるかもなぁ~」
「それじゃ、わたしをもらっていただけないでしょうかぁ?」
「えーと、どういう話だろうか? これは?」
「まず前提として、わたしは自動人形なんです」
「ああ、なる」
「それで、貴方は人形師ですよね?」
「ああ」
「わたしは人形師と付き合いたいのです」
「それは、どうして?」
「人形師はわたしを作ってくれました、だから尽くしたいのです」
「他には何かないの?」
「あと、恋人募集中、です、貴方でいいかなっとぉ」
「えと、なんて答えて欲しい?」
「おねがい」
「ああ了解、俺も彼女募集中だから、君と付き合いたいよ」
「やったぁー、ありがとうございます。
これから、彼氏彼女なんですかぁ?」
「まあ、そうみたいだなぁ」
「ふっふふ」
彼女、ヒイロは、図書館併設の寮暮らしだった。
でも俺が一人暮らしだとわかると、転がり込むように住み込み始めた。
「じー」
「どうした?」
「わたしと、性的なこと、したいですよね?」
「いや、別に俺はしたくないが?」
「もう十日ですぅよ?」
「ああ」
「可笑しくないですかね??」
「なにが?」
「エロゲーなら、売れない展開ですよ?」
「まあ、そうだな」
「、、、、襲っても、いいですか?」
「ダメだ」
「率直に聞きます、どうしてエッチしてくれないんですかぁ?」
「逆に聞くが、どうしてしたいんだね?」
「そうですね、、、気持ち良さそうだからぁ?」
「俺は、そういう行為をする事に、禁忌的な何かを感じざるを得ないんだ。
だから、すまん、ヒイロの気持ちに答える事が難しい」
「なーんだ」
「どうした?」
「わたしの魅力がない、貴方がわたしを好きでないと。
そう思い込んでいたんですけど、だったらいいです、お騒がせしました」
「おっおう」
「一応、もう一度聞きますけど、エッチしませんか? 頑張ります、後悔させませんよぉ?」
「ごめんな、しない」
「残念ですよ。
ああ、これも一応聞くんですが、特殊な性癖、例えばロリコンではない?」
「ではないなぁ~」
「それは良かったです」
海辺の近郊、広い更地でいま、俺は作成した人形の性能を試している。
俺の作る人形は美しさも重要だが、併せ持つ戦闘能力も重要だ。
四六時中そばに侍らせるのだから、美しい事が望ましい。
だからといって、戦闘能力が低ければ、基本的に護衛をこなせない。
まあだからといって、ゴツゴツした女丈夫だと、偶にそういう需要もあるが、傍に置きたくはないだろう。
「そういえば、ヒイロは戦闘能力とか、あるのか?」
「あります、むしろ、魔法だって使える、最高級タイプですよぉ?」
「それは凄いな」
魔法、どういう体系かはしらないが、この自信からして十分に実践に耐えるものなのだろう。
しかし、魔法を使うためには、高度な生体部品を内蔵する必要が多い、彼女はアンドロイド系統なのだろうか?
まあ、そこら辺の突っ込んだ話題は、タブーな場合もあるし、聞かないで置こうか。
「ああ、あいつ」
俺は少し離れた林の中に、特徴的なプラチナブロンドの少女の姿を見かけた。
「誰ですか? あの人?」
「ルヘルって奴、町から離れたここ海辺、そこに一軒ぽつんと立つ家で暮らしてる。
世捨て人ってわけではないだろうが、魔術師としての工房が、そこにあるからかな?」
ちょっと話しかけてみよう、近づくと何か拾っているのが見える。
彼女は大き目のバスケットを持っていた。
「よおルヘル」
「こんにちは」
俺達のあいさつに、彼女はついと機械的に視線をあげて、頭を下げた。
「何してるんだ?」
「キノコを、集めてるぅ」
キノコ? 確かに、バスケットの奥の方には大量のキノコが納められている。
「しかし、これぇ」
「はい、毒キノコですよ、全部」
「まあ、魔術師のやる事は俺も知らないから、こういう原料が必要だったりするんだろうね」
「いえ、別に魔術の材料ではありません」
「それじゃ、何の為に集めてるんだ?」
「同居人が退屈だと言うので、毒キノコでも食べて遊ぼうと」
「な、、なんというか、大丈夫なのか? それ?」
「大丈夫です、仮に例え死んでも、わたしが蘇らせる事ができますし」
何でもない事のように言う彼女、そこで袖口が引っ張られた、ヒイロだ。
「蘇らせるって、どういうことですかぁ?」
「ああ、彼女はネクロマンサーなんだ、それもなんか凄いレベルの」
「そ、そうなんですか。
わたしも、そんなレベルの、規格外の魔法は存在は知ってても使う人は知りませんよ」
俺はだろうなっと言って、またキノコ集めの作業に戻るルヘルを見つめる。
「おーーい! ルヘルぅー!」
向こうの方から誰かが、大声を響かせながらやってきた。
「アウル」
「そうだアウルだ、ルヘルてめぇ、糞爺の耄碌に付き合ってるみたいだが、別にいいぞ。
だいたい、毒キノコを食べてみる遊びか? やめろやめろ下らない、って、お前ら、誰だ?」
「知り合い」
「そうか、知り合いね、お前に知り合いがいた事に驚きだ。
よお、俺はこいつの、、、知り合い? じゃないか、そうだ、同居人だ、いや、なんかこれも違う」
黒髪の少年はぶつぶつ呟きながら、ハッとして顔をあげて言う。
「ルームシェアしてるだけの関係だ」
「なるほど、精確に把握した。
俺はソラナ、この隣がヒイロだ」
「おお、よろしく、そういえばソラナって、スペイン語で日向って意味だな?」
「みたいだな、まあ俺の名が、そういう意味でつけられかは知らんのだが、案外語感だけでつけた可能性もある」
それから、少々お互いのあれこれを話した。
「そういや、ソラナとヒイロの関係はなんなんだ? 不躾な質問だが支障がなきゃ教えてくれ」
俺はヒイロを見つめる、すると。
「彼氏彼女の関係」
と答えたのだ。
「ああえと、そんな感じで、こんな感じだ」
なんとなく気恥ずかしい空気だ、ヒイロは全く何も感じてないかのような表情をしている。
「おおそうか、そりゃいいな」
「うん」
こっちの二人も何でもないかのように、大したことじゃないような反応。
まあ、こんなもんなのかねぇ?
「そういや、ルヘルとヒイロって、見た目が似てないか?」
「ふむ、そうだな、確かに銀髪は共通してるし、口数が少ないのも似ているかもしれん」
「わたしは、割と話しているつもりなのですが?」
「私は話さない、話すのは疲れる、面倒」
二人はそれぞれ俺達の批評にそう答える。
「ヒイロ、お前は俺に対してだけじゃないか? 話すの。
だいたいにおいて、見た目が無口っぽいキャラ、だからなぁ」
「むっ、わたしって、そんな詰まらない感じなんですか?」
「いや、それはそれで、キャラが立っているッというか、チャムポイントだよ」
そんな風に話していると、その様子を少女ルヘルがジッと興味深そうにガン見していた。
「おいおい、ルヘル、おめぇは、そういう風に恥ずかしげもないことするな」
そう言ってアウルがルヘルの頭を叩くと、うきゅって、なんか凄く可愛らしい声が出た、話してる時の声と違いすぎだ。
「で、どうしたんだ?」
「あれ、面白そう。
たぶん、毒キノコを食べる事よりも面白そう」
その台詞はアウルをジッと見つめながら言われていた。
「なんだ、俺に相手を務めろって?」
こくこくとルヘルは頷く。
「また、しょうもない事に無駄な好奇心を向けやがってぇ」
とか言いながらも、声色は穏やかだ。
これは彼女の意向に従ってやるって感じだろうか?
「とりあえず、見本を参考にする」
「見本?」
「この二人がしていることを、全部真似してやってみる」
「、、、、今日は、帰るか?」
「帰らない、絶対に帰らない」
「、、、、」
アウルがこちらをジッと見つめて、アイコンタクトで何か伝えてきた。
「はっは、いいよいいよ、ルヘルさんはそういう事に興味があるみたいだからね」
「うん、無難で模範的な、デート? みたいなこと、これからしてみればいいのかな?」
これで良かったのだろうか、すると。
「どうもありがとう、恩に切るぜ」
アウルはそう言って溜息を付き、そんな彼の手を握るルヘルがいた。