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初期練習作(短編)

長い髪

掲載日:2015/07/17

 小学校の中からは、楽しげに遊ぶ生徒の声がする。

放課後は、校庭でドッヂボールや鉄棒の練習をする児童が多い。

ひとりの女の子が、金髪の長い髪を振り乱している。

後ろで結んでいたが、緩んできたので解いてしまったようだ。

男の子がいたずらで、長い髪を後ろから引っ張る。

女の子が怒って振り向くが、男の子は逃げていく。

女の子達はグループで男子の悪口を言い、

また逆上がりの練習に戻った。


 先日引っ越してきたばかりのその女の子は、

真っ先に男子生徒の標的になりかけた。

染めているとはいえ、金髪は珍しかったのだ。

規則の緩い学校で、地方の私立ではあるが、

校風が気持ちよく、いじめや暴力の雰囲気もないので、

ほとんど非行に走る子がいないのが校長の自慢だった。

のどかに日が過ぎてゆくかと思われた。


 金髪の女の子は家に帰り、

長い髪をもて遊びながら、母親に今日の出来事を報告した。

「さっきね、クラスの男子が髪を引っ張ったんだよ」

母親はうんうんと聞き流している。

「そう。言いたいことがあったら相手にちゃんと言うのよ」

その男の子に好かれているだけかもしれないし、

ただの悪ふざけかもしれないわね。

しかし、これが凶兆とは誰も気づかなかった。


 次の日、クラスの皆は驚愕した。

いつもポニーテールにしている彼女の髪が、

短くおかっぱに切りそろえられている。

気分を変えたくて、自分で鋏を入れたようだ。

担任の先生もびっくりしたが、顔に出さず、

朝の出欠を取っていく。

昨日の男の子がこっそり女の子に質問した。

「なんで切ったの?」

「うっとおしいから」

自分が変われると思ったから。

似合わない髪形に、はあっとため息がこぼれた。


 母親も動揺していた。

女の子の髪を伸ばしていたことには理由がある。

いつか、長くなりすぎた髪の毛を切る時に、

医療用かつらとして寄付したいと思っていたのだ。

そして可愛い盛りの女の子との、

ささやかで美しい思い出にしたかった。

まさか自分で切ってしまうとは思わなかった。

キッチンのゴミ箱に、娘の金髪が散らばっている。

思っていたより、まだまだ長さが足りなかった。

母親は呻いて座り込んだ。

見る間に天使の姿を取り、天界へ向かう。

切られた髪の毛を掴んだまま。


 天界では、天使達を使役する神が待っていた。

長い白髪と髭をたくわえたおじいさんである。

「期限内のノルマが達成できなかったようだね」

神が鋭く言い放つ。

「人助けの為にも、もっと長さが必要だったのに」

「申し訳ありません。わたくしは……」

「これからは他の天使に任せる」

短い金髪を受け取らず、神は踵を返した。


 神は一人になったところでこう言った。

「やれやれ、使えないな。

やはり人間界は駄目な所だ。

せっかく運命の計画があったのに」

下界では、病気の子どもが天に召されている様子が見える。

その頭には毛髪が無かった。

その他にも、この病気と闘う子ども達がたくさんいる。

その内の一人にあの長い髪を提供し、

慈善事業を通じて病気の子に役立ててもらうつもりだった。

天界は他にも、誠意ある人と共に、様々な形で人間を助けている。


 「あの学校の男子にも一仕事してもらおう」

神はそう言って、下界の小学校を指差した。

その先では、あの男の子が遊んでいた。

神はその子を、将来は大物になるだろうが、

ゆくゆくはあの病気になるように、運命を作り変えてしまった。

そうすれば髪のありがたみも分かるだろう。

近所のサラリーマンの髪型も眺めて悦に入る。

そして、人生最大の拷問ともいえる、

髪が抜け落ちる無限地獄を楽しむが良い。

神は残酷に笑った。

本当の怪談は、ここから始まる……


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― 新着の感想 ―
[一言] (´・ω・`) また髪の話してる・・・
2015/07/19 10:34 退会済み
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