少女の目覚め
この小説には、殺人・流血・性的表現など過激な表現が一部含まれています。苦手な方はご注意ください。
また、上記の行為を助長するものではないことをご了承ください。
義務教育が終了した方のみ、閲覧をお願いします。
遠い銃声が聞こえる。
少女は頭を上げた。大きな鉄球が埋め込まれているように重い。無理に体を起こそうとすると、ひどい目眩がした。
あれ。ここは、どこだろう。
少女はぼうっと、虚ろな目をして周囲を見た。焦点が合ってくると、場所の正体を察することができた。
点滴台。薬の臭い。白いシーツ。コンクリートの壁。錆びかけた手すり。サイドテーブル。吊り照明。向かい側の薄汚れたカーテンの隙間から、パイプベッドが覗いている。
――病院。
その語句を抜き出し、少女はなぜか安堵を覚えた。ふぅ、と小さく息を吐く。頭は依然としてずっしりと重い。体もベッドに沈みこんでいる。
「気付きよった?」
男の声に、少女は寝たまま頭を横に向けた。
「覚えとる?ここにくる前のこと」
少女は頭を動かす。答えは、いいえ。白衣を身につけた、医師であるらしい男はとくに怪訝な表情も見せなかった。
「あんた、倒れとったよ」
「倒れて――」少女が出した声はかすれた。
「一応こっちで検査して、臓器にも脳にも異常なさそうやったから、平気やろと思うけど。むしろ、呆れるほど健康体やわ――なんで倒れてたん?……それも覚えてないんやな」
「はい……すみません」
「べ、別に怒ってるわけとちがうで?謝らんといて」医師の男は苦笑いをした。
「せや、あんた、名前は?」
「名前?……ああ、はい、ええと……」
――名前?
少女はぎょっとした。
――私の……名前は?
そのとき、鋭い刃物が胸元を貫くような感覚を覚えた。黒い剣が心臓の最深部にめり込んでいく。頭よりも胸部が重くなった。焼けるような痛みも感じていた。
忘れてる?……まさか。自分の名前を忘れるなんて。
冷たい雫が背中を伝った。無意識にシーツを握りしめていた。
「どないしたん」
医師は少女を覗き込むように見た。
「言われへんかったら無理はせんでええから、ぼちぼち休んでき。……なんか飲みたいもんある?」
「少し、お水が欲しいです」
「わかった。はよぅ持ってくるな」