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魔女様、降臨!!

今回サブタイ毎に纏めて出しました。

なので、私としてはちょっと長目です。

 先輩が戻って来て、僕たちはリルムの町の旅館の男が泊まっている部屋に行った。そこは回復系の木の実やら、石化防止のペンダントやらがいっぱい。僕が興奮しっぱなしで、一つ一つ眺めているのを先輩は些か冷めた眼で、マシューは幾分呆れた顔で見ていた。だって、これってリアルRPGのオンパレードじゃない! これが興奮せずにいられますかって!

 僕はその中に古ぼけた本が一冊あるのを見つけた。何が書いてあるのか見ようと開いた僕に男は言った。

【止めときな、そいつは持ち主を選ぶんだ。大抵の奴は読めもしねぇよ】

先輩にはへつらっているクセに、随分と僕にはタメ口なんじゃない? なんて思いつつ、

【へぇ、そうなの】

と返しながら、僕はパラパラとページをめくって、

【火に関する呪文かぁ……fire ball[火の玉]って、笑えるぅ】

と声を出しながらその本を読む。それを聞いて男はおろか先輩やマシューまでもがギョッとして僕を見た。そして僕はその本の冒頭部分にあった『注意書き』を参考に『こめかみに意識を集中』して、もう一度、

「[火の玉]fire ball!」

と詠唱した。胸の前に広げた手にぽあっと赤い玉が生まれる。だけど、起こったことにビックリして気がそげちゃったのか、それはすぐに消えちゃったけど。

「うわっ、これってますますリアルRPG!」

と一人はしゃぐ僕に、後の三人の大の男は完全にフリーズしてしまっていた。


【お前、魔女なのか……】

しばらくしてから、やっと気を取り直して男がそう言った。僕は『魔女』というワードにちょっと『またか』と思いつつも、

【そうみたいですねぇ、僕、超ド級の初心者ですけど】

と男に返した。


 で、目立たないようにこっち仕様の服とか、ちょっとした武器などをチ○ッカマン計十本で購入。その中にはちゃんとさっきの『魔道書』(チ○ッカマン三本相当)も含まれている。

 僕はホクホクでその本を読みながら宿屋を出た。先輩はマシューに先に小声で耳打ちしてから僕に、

「こら、読みながら歩くな。転ぶぞ。それにな……」

とそこからぐっと声のトーンを落として、

「町のはずれまで来たら、一気に車まで走るぞ。その本を俺に渡すか、小脇に抱えてろ」

と言った。別に声のボリュームを下げなくたって日本語なんだから、ここの人は誰も解りゃしません、とか思いながら僕は小脇に本を抱えた。

 そして、町外れに来た僕たちは、一瞬3人で顔を見合わせると、車に向かって一気に駆けだした。


 僕たちが走り出した途端、慌てて追いかけてきた一団があった。総勢十名ほどか、さっきの商人が差し向けた者だろう。目的はたぶんあのチ○ッカマンだ。先輩が一人で取りに行ったのを見て、まだ隠し持っていると思ったに違いない。確かに希少価値と言えばそうかもしれないけど、なんだかなぁ。

 そんなに足は遅い方じゃないはずだけど、彼らは普段車なんか乗らずに生活してるんだろうから、かなり早くて少しずつ間合いを詰められている気がする。このままじゃ、車に乗って発進するためのタイムロスで追いつかれてしまう。何か彼らの足を止める方法は?

 その時僕が小脇に抱えている本がきらりと光った気がした。『君、持ち主を選ぶんだよね。僕を持ち主だと思ってくれているなら、助けてくれない?』と僕は本に囁きかけると、走るのを止め、追っ手の方に向き直ると『魔道書』をばっと開いて、そのページを見る。やった! 停止魔法だ! 僕は、

[汝の影よ、その大地に貼り付け STOP!]と唱えて、彼らをじっと見据えた。追っ手はまるで『だるまさんがころんだ』で鬼に見られた時のようにぴたりとその場で動きを止めた。

「宮本何をしている。早くこっちに来い!」

その様子に、先輩が慌ててそう叫ぶ。

「だ、ダメです。僕の今の集中力では、一瞬でも眼を離したらそこで術は切れます。だから、先輩が車を取ってきてここまで回してください」

「お、おう分かった。待ってろ」

先輩は僕のその言葉にそう言って、マシューに車に向かうように促した。そして車に乗り込むと、先輩は旋回しながら僕の前にピタリと車をつけた。その間約二十秒。僕が眼を離すとすぐ、金縛りが解けた追っ手が慌ててまた走ってきたけど、僕が乗り込むのがわずかに早かった。先輩は僕が乗ったのを確認するとドアを閉める前にアクセルを全開で踏み込んで……一気にリルムの町を後にした。 

【ここまでくりゃもう大丈夫だろう、ふえぇ、助かった】

しばらく走ったところでマシューがそう言ったので、先輩は車を停めた。

【それにしてもビク、お前すごいな。いきなり魔法を使いこなすか?】

【えへへ、あれは何でもいいから相手の動きを止められたらって思ってページを開いたら、たまたま停止魔法のページだったってだけです。偶然ですよ】

ビクと呼ばれるのは幾分不満だけど、褒められるのはなんだか悪い気はしない。そしたら、隣に座っていた先輩が僕の髪をわしっと掴んで

「いい気になるんじゃねぇ」

と言ったので、僕はふくれっ面で先輩をにらんだ。

「大体、俺に命令するなんざ、百年早いんだ。ヘタレ宮本のクセに」

「でも、あの時には敵の動きを止めなきゃ……」

「だからって、できるかどうかも判んない魔法で乗り切りろうと思う奴があるか。まったく、寿命が縮まるかと思ったぞ」

先輩はそう言いながら、髪を掴んだままあらっぽく僕の頭をなで続ける。ああそうか、先輩心配してくれてんだ。

「先輩、ありがと」

「ま……解ればいいんだ、解れば」

その時、マシューがうん、と一つ大きな咳払いをして、

【俺に判る言葉でしゃべってもらねぇかな。どうもさっきから自分が邪魔者みたいな気がして、しょうがない】

と憮然とした表情でそう言った。

【邪魔者って……ただ、いきなり魔法を使ったのを叱られているだけです】

【コータロが怒ってる? 言葉が解らない俺からすれば、見つめあって愛を語り合っている様にしか見えなかったぞ】

【マシュー、気色悪いこというな! 何が悲しくて男に愛を語らなきゃならん】

それは、こっちの台詞!

【いや、愛があれば性別だって乗り越えられるのかなと……】

【マシュー!】

ぼそっと小声でそう言ったマシューを僕はキッと睨んで、パラパラと『魔道書』のページをめくる。

【さぁ、どれにしようかな】

その言葉に、マシューはもちろん先輩まで蒼くなる。

「おい、止めろ宮本。こんなとこで魔法なんか発動したら、このポンコツが爆発しちまう!」

【えっ、それがどうしたの? どうせポンコツでしょ?】

それに対して僕は笑顔でそう返しながら手を胸の前に繰り出す。その仕草を見て、先輩とマシューは同時に叫んだ。

【ひえーっ、魔女様お助けを!】


……だから、魔女じゃないってば!

 

僕は指をこきこき鳴らしながら笑みを浮かべていた。でも、魔法を使おうとした途端、僕は急にめまいがして目の前が真っ白になった。

 次に目覚めた時、僕はちゃんと宿屋のベッドに寝かされていた。

「目、覚めたか。急に目を回すから心配したぞ。マシューが言うにはたぶん魔力の使い過ぎだってよ。

初心者が時空系の停止魔法なんつー上級魔法をいきなり複数にかけるなんぞ、今まで聞いたことがねぇって呆れてた」

そうか、MP切れって訳か。僕の場合、元々MPそのものが少ないのだろうし。

「あ、ありがとうございます。ちゃんと運んでくれたんですね」

「感謝してくれよ、マシューはあんな図体してるのに、実はちっとも力がないしで、結局俺が一人でここまで運んだんだからな。それにしても、おまえ重いぞ。抱き上げた時、腰が折れるかと思った」

「すいません、重くって。でも、僕は先輩がいつも抱いているような、女の人みたいに軽くはないですよ。なんせ男ですから」

『男』というワードに力を込めて僕が言う。

「うそうそ、重かなかったよ。ははは、魔女発言をまだ根に持ってんのかお前」

「当たり前でしょ。それよりマシューは?」

そう言えばマシューがいない。マシューが居たら、『また俺の分からない言葉で二人こそこそしゃべってる』と拗ねられかねないほど、僕たちは日本語で会話していた。

「あ、さっきなんかぼそぼそと訳の分からないことをつぶやきながら出てったが」

 そんなことを話していると、マシューが戻ってきた。

【ビク、気が付いたか】

【うん、たった今】

【ほい、コレ】

マシューはそう言うと、真っ赤な実を僕の手の上に乗せた。

【何なのコレ?】

【これは、ガザの実だ。魔力の回復に効果がある。食え】

【買ったの?】

【いや、そこの森で取ってきた】

【わざわざ取ってきてくれたの? うわぁ、ありがとう】

【あ、いや、礼なんかいい】

僕が、お礼を言うと、マシューは赤い顔をしてもじもじしている。

【何? 僕何か変なこと言った?】

「おい宮本、お前がそんな殺傷能力のある笑顔なんかしてやるからだ。しまいに押し倒されるぞ」

それを見ていた先輩が、ぶっと吹き出しながらそう言った。うー、何考えてんだか、この先輩は。

 でも、真っ赤な顔をしているマシューのこと、ちょっとかわいいとか思ったりして……


 あんまり言われるから影響されちゃったかな。じゃなきゃ僕、ちょっとヤバいかも。

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