熱烈歓迎!
「間に合った? 僕間に合った? 紀文ちゃん」
と薫の父親に聞く社長。それに対して、当の紀文ちゃんは、野球のアウトサインをしながら、
「うーん、ギリギリアウトってとこかな」
と笑顔で言う。
「じゃぁ、日取りとかも決まっちゃった? いつ、いつ?」
日取りって結婚式の日取りか? っつか、なんだこのぶっ飛び具合は。社長せっかち過ぎねぇか? 俺は今日、薫と付き合う宣言しに来ただけだぞ。そう思ってると薫が、
「武叔父様、飛びすぎ。まだ、そこまで行ってない」
と言って社長を睨む。おお、会社では絶対にあり得ねぇな。
「じゃぁ、僕のサポートの件は?」
「まだ!」
「じゃぁ、取締役会の件は?」
「それもまだ!」
「じゃぁ、全然間に合ってるんじゃん、僕」
矢継ぎ早に俺の解らないことを質問した挙げ句、そんな話はしてねぇことを知ると、社長はホッとむねをなでおろしていた。
「そういうのは、ウチには関係ないからね、タケちゃん」
「ひどいな、櫟原には大事な問題なんだよ」
そして、紀文ちゃんのその言い分に、社長改めタケちゃんはむくれながらそう返す。タケちゃん、普段とぜんぜんキャラ違うくないですか。その日本人離れした顔で小首を傾げると愛くるしいっちゃそうだけど、歳考えるとカテゴリー―かわいそうな子だよなぁ。
「あ、社長。入院中はいろいろありがとうございました。ホントあんなすごい部屋にずっといさせてもらって恐縮です」
俺は、そんなタケちゃんの変わりっぷりに面食らいながらも、忙しい中折角来てもらったんだからと、お礼の挨拶をする。
「いーのいーの、気にしないで。可愛いベスの命の恩人に窮屈な思いをさせたら、僕がパパに叱られるもん。それにさ、未来の社長の部屋としてはチープな方だよ」
ベス→エリサベツ→エリーサ→絵梨紗か。けど、未来の社長ってなんだ?
「俺、話が見えないんですけど」
「えっ、フロリーから聞いてないの? フロリーの旦那様には漏れなく櫟原がついてくるって話。
とは言ってもさ、ぜんぜん櫟原に関係ない子が来ちゃったらどうしようかって思ってたんだけど。でね一応、調べさせてもらったよ、鮎川幸太郎君。で、合格! 文句なしだよ。フロリーちゃん、グッジョブ。うぅん、見る目あるよ」
社長は今にもとろけ出しそうな満面の笑みだ。そんで、フローリアでフロリーか……イヤイヤ、問題はそこじゃないっ、未来の社長だ。聞いてない、聞いてないぞそんな話!
「社長! どうして俺が社長やんなきゃなんないんですか!」
「じゃないと、僕が辞められないもん」
俺の問いかけに、社長がウルウルの瞳でそう答える。
「社長ってまだ四十代でしょ」
「うん、四十八。今年四十九になるよ」
だーかーら、アラフィフ男が小首を傾げてしゃべるんじゃない!
「まだ、引退するような歳じゃないじゃないですか!」
思わずそう叫んだ俺に、タケちゃんは徐に一冊の本を取りだした。




