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ここはいっちょ、踏ん張ってみますか

「じゃぁ、何で俺にキスなんかしたのかよ。宮本のバカ話にホイホイ乗せられる様な歳じゃねぇだろ、薫」

二十四歳でおとぎ話のお姫様を地でいったんだとしたらイタすぎだろ。

「うっ、そんなの当たり前じゃん。でも今はヤダ。今辞めたら逃げたって思われる。鮎川だって、きっと会長の孫って分かったから迫ったって言われるよ」

今辞めたら、今までこいつが頑張ってきたことなんてすっぱり忘れて、『それ見たことか、やっぱりお嬢様だ』とか言う奴が必ず現れるか。俺も逆玉狙いだって言われるだろうな。

「俺は、そんなもん何とも思わねぇよ」

それに対して、俺はそう即答した。

「周りが一夜にして変わっちゃっても?」

「仕事が変わる訳じゃねぇし、全員が敵になる訳でもないだろ。そんなもん、仕事で跳ね返してやるさ。お前も、負けたくねぇんなら辞めないで一緒にいればいいさ。けどさぁ」

「けど?」

「俺と一緒に闘おうや。一人で抱え込むのお前の悪い癖だぞ」

俺は薫の今にも泣き出しそうなほっぺたに手を当てて、そう言った。

どんな奴が相手でも、怯まずつっこんで行くところがお前の良いところだけどな。切り込み隊長にも、疲れたら帰る場所があってもいいんじゃね?

「鮎川ぁ、それってかっこ良すぎだよ」

薫は、そう言って口をとんがらせて鼻水をすすった。

「そうそう、俺ってホントカッコいいだろ」

「あんた、それ自分で言う?」

あきれた、と薫。

「おお、言うぞ」

俺は胸を張ってそう答えた。こんなの、自分が言わなきゃ、誰が言うんだ? 他人にこんなこと言われたら、どんな裏があるのかと思って逆に気色悪いだろうが。

「薫、お前いつ目が覚めるか分かんねぇ俺をずっと看てくれてたんだってな」

 それから俺はマジな顔になって薫にそう言った。

「うん……」

「もし俺が、この先ずっと寝たまんまだったとしても、そうしてくれたか?」

「たぶん、ね」

俺の頭ん中には、昨日の夜の宮本の説教じみたうわごとだか報告だか判んねぇ、俺が寝てる間の薫の話が渦巻いていた。一旦は速攻でフラれたけど、ここはいっちょ踏ん張ってみますか。

「俺、起きちまったけど、これからもずっと俺の傍にいてくれねぇかな。ってか、夢の中でもお前は俺の嫁だったし、なんか今更他の奴なんて考えられねーんだよな、だからさ」

俺は、そう言うと、異世界よろしく臣下の礼をとって、

「谷山薫さん、俺と結婚してください」

と一昔前の合コン番組みたく右手を差し出した。


 薫は、ぼろぼろ泣きながら黙って俺のその手を握った。 

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