異文化交流は難しい
地球にいる王子の怪我もすっかり良くなり、いよいよ俺が還れる日が近づいたが、俺にはその前にやっとかなきゃなんないことがあった。
それは、魔法使いにポンコツの転がし方を教えること。いくらオートマでハンドル持ってアクセル踏みゃぁ良いってっても、こっちの連中は、その肝心のハンドルもアクセルもブレーキも知りゃしないんだから。
【壊したら後がないから慎重に運転しろよな。ま、野っ原走ってりゃ日本と違って事故ることなんてないだろうがな。その内に転がし方も覚えっだろ】
俺はそう言って、ヤツを車の置いてあるグランディール城郭に向かった。
【鮎川様は並行世界のことはご存じですか】
そこに向かう道中、ヤツはおれにそんな質問をしてきた。
【ああ、SFの常套手段ではあるわな】
俺がそう答えると、
【やはり、あなたの世界ではそうして並行世界を行き来することが多々あるのですね。だから、お二人とも冷静でおられたと】
日本オタクな魔法使いは色めき立ってそう言った。俺はガンガンに頭を振ると、
【誰も、異世界トリップなんて経験しちゃいないさ。たださ、ウエブあたりではそういう物語が当たり前の様に存在してるからさ、まぁなんとなくそうなんだろうって妙な理解力だけはあったかもしれねぇけどよ】
と返す。するとヤツは、
【えっ、鮎川様の所では 紙に書かずに『ウエブ』に物語を書かれるのですか?】
あの進んだ世界では紙は使われないのか、と真顔で聞くもんだから、思わず石畳でつんのめりそうになる。この場合、『ウエブ』ってぇのは、本来の『蜘蛛の巣』って意味だよな、たぶん。
【おまえ、優秀なのか天然なのかどっちかに統一しろよ。『パラレルワールド』を知ってるんだったら、普通『ウエブ』のことも解るって思うだろ】
思わずそう言っちまった俺に、
【もしかして、並行世界も、蜘蛛の巣も、網もそのままの意味に取ってはいけないんですか?】
真顔で聞き返すヤツに、俺は目眩がした。
【当たり前だろ、全部コンピュータ用語だ】
と言ったもんの、そのコンピュータ自体がこの世界には存在しねぇんだよな。ああ、もう!
【大体、こういうコンピュータ用語は語源が英語なのが悪いっ、話が進まねぇ!】
そうだ、英語なのが悪いんだよ。いっそのこと全然別の言葉をしゃべっていやがれば……それじゃ、こんな風になってねぇか……
まったく……うっとぉしいったらありゃしねぇ!




