ハッピーエンド?
【さーあて、殿下をお戻ししたらグランディールまで責任を持ってお送りさせていただきますからね、エリーサ様。ところで鮎川様、ニホンではあの自動車なるモノは壊れている訳ですから、頂いても差し支えありませんよね】
自分の都合の悪いことから目を背けさせたいのか、女顔の魔法使いは元非力な大男にそう言った。今は、ちびっ子に戻ってるからあれだが、はじめの状態なら絶対にポジション逆だろ。
【ああ、今更あのポンコツが道端に現れでもしたら、それこそミステリーだからな。一応、助けてもらった礼代わりにでも持ってけ】
俺は、それに対して頷きながらそう言った。壊れたはずのポンコツが元の場所にいきなりゾンビみたく現れても、俺、説明なんてできっこねぇし。そもそも、あっちは一か月くらい先になってんだろ? モロ、怪奇現象の域じゃん。
【ありがとうございます】
言質を取れてほくほく顔の腹黒魔法使いに、
【なんなら、あのポンコツの後ろに缶空……そんなもんこの世界にないか。ああ、リルムの町のあのゲテモノプリンの入れもんがあった……あれでも、つり下げて走るか?】
俺はそれならいっそのことハネムーン仕様にでもしろよ言うと、あいつは首を傾げながらむっとした表情で、
【は? それは魔除けでございますか? そのようなものなどなくとも、十分私がエリーサ様をお守りできますが】
と言った。
【魔除け? んな訳ないだろ。ま、こいつは俺のもんだから手を出すなって意味ってっちゃそうだろうけどよ】
魔除けじゃなくて、男除けだろ、どっちかってぇと。
【じゃぁ、何のために】
あっ、そうか……車がねぇんだから、そういう習慣ももちろんねぇわな。俺は、
【地球じゃさ、結婚式が終わった後、式場から出る新郎新婦がどてっ腹に、『Just Married』とか書いた車で走んだけど、そん時に後ろのバンパーにあーいうのをつり下げたりするんだよ】
と、説明してやる。とはいえ、俺もそれは外国映画でしか見たことないけどな。
【そうなのですか、それは素敵です! まるで私たちを祝福する鐘を鳴らしながら走るようではありませんか!】
けど、それを聞いたロリコン魔法使いはにわかに色めき立った。ま、本来もそーいう意味合いだっけかな。にしてもお前、どーでもいいけど、この世界には存在しない車が鳴り物入りで走れば、とんでもなく悪目立ちするぞ。それでいいのか、おい。確かに本物の魔物は寄ってこないだろうが、人も逃げるぞ、たぶん。
【ヤダ、あたしセルディオ様と一緒には帰らない】
ほら、まず嫁が逃げたじゃねぇか。
【どうしてですか! エリーサ様ははっきり私と結婚するって言ってくださったじゃないですか】
すると、夢見がちな魔術師は、半泣きで婚約者にそう言った。
【あれは、ビクに言ったんだもん、セルディオ様にじゃないわ】
けど、当の婚約者からは、そんなつれない返事が。
【ビクって……彼の名前は美久、私の名はビクトール。私の方が本当のビクなんですよ】
それに対して、一旦は抗議の声を上げた奴は、
【知らないわ。ビクはビクだもん。それに、 あたしがお父様からきいたセルディオ様のお名前はスルタン・セルディオだけだったわ】
と言われて、
【そ、それは……】
いきなりトーンダウン。こいつ、あっちの王様にファーストネーム言ってなかったってか、
何で? まさか……な。
【どうせ、その顔でビクトールって名乗ったら『女みたい』って言われるのがイヤだっただけだろ。お前どんだけ、顔と名前にトラウマ持ってんだ】
カマかけて言った俺に、
【悪いですか? ですが、あなたのように体格にも名前にも恵まれた方に私の気持ちが解るものですか】
すると、コンプレックスの塊魔法使いは、そう言って逆ギレした。マジかよ。女顔・女っぽい名前に加えてチビもその要素だってか? そう言やぁ、宮本もそれ、気にしてたな。
【お前、そんなこと気にすんなよ。お前にはそれにあまりある位の魔力があるんだから。お前日本に居ながら、リルムの町とかで、俺たち助けられるぐらいなんだろ】
【確かに、人より並外れた魔力があることは認めますが、魔力は容姿の代わりにはなりません。鮎川様は、全て持ってらっしゃるからわからないのですよ。
ですが、さすがに地球からオラトリオに魔法をかけることは……
それに、私はもう一度殿下とあなた方を戻さないといけませんから。体力を回復するべく極力静養に努めておりましたし】
え、違うのか?
【じゃぁ、あれはマシュー、いやエリーサか?】
【ううん、あたしじゃない。あたしはマシューの体になってるだけで精一杯で、余分な魔法なんて使えなかったもん。別人になるのって、すごく大変なのよ】
魔法は何がって、維持し続けるのが一番大変らしい。と言うことは、俺らと一緒にいる間中マシューで居続けたエリーサも実はものすごい魔女だったってことなのか? ぜんぜんそれっぽくねぇけど。ま、いいか。
【んじゃ、一体誰が】
首を傾げた俺に、
【あれは正真正銘、美久が一人でやったんですよ。それまで使ったこともないのに、魔法をぼんぼん連発するからすぐ体力切れ起こしてましたけれど。
鮎川様、美久に魔法を使いたいのなら、もう少し体を鍛えなさいと言っておいてくださいね。いかに魔力があっても、それに見合う体力がなければ、最悪命を落としますよって】
真顔で言う、クリソツ魔術師。けど、あれを全部宮本がやったって? だるまさんがころんだも、ガソリンも? 魔女発言のあの時、もしあいつが電池切れ状態じゃなかったらと思うと、俺は血の気が全部引いちまう気がした。
それに、もしあの、ゲーオタが自分にそんな芸当ができると分かってみろ、嬉しがって何が起こるか分からん。
(言わん、口が裂けたって絶対に言うもんか!)
俺はそう堅く心に誓った。
そして数日後、無事日本に戻った俺は、宮本が(こっちでは)初対面の絵梨紗にいきなり口説いたと知る。この日本じゃ犯罪だぞ、おい。あっちでは……あっちの成人も十六だから、あっちでもNGだ。
俺には若干一名(あっちとこっちで二名か)悲劇のヒロインが生まれたような気がすんだが……
ま、それでもとりあえずハッピーエンドっつうことで。
……小さなお姫様は小さな魔法使いといつまでも幸せに暮らしましたとさ……
ん? ホントにそれで良いのか?
ハッピーエンドと言いながら、幸太郎が地球に戻ってないので、未だつづきます。




