二人の共通点
実は、宮本にはこっからは話してないが、この話には、まだまだ続きがある。
大体、宮本は夢だと思ってるようだが、実はこれは夢じゃない。正真正銘の異世界トリップ。
【王子の容態も日に日に良くなり、後数日もすればこちらにお連れしても大丈夫かと存じます】
【解った。セルディオ、そなたの今度のコータルの救護、まことにご苦労であった】
【いえ、それが私の任でありますれば、この命に代えましてでも】
俺は、全ての報告を終え、王様に頭を下げるこの一件の立役者の顔を見た。結局こいつは王子だけじゃなく、俺たちの命も救ってくれたって訳か。
王様がひっこんだ後、俺は一番気になっていることを聞いた。
【で、宮本はどうなってんの。あいつ、切られたけど】
【あ、急所は外れていたはずですし、帰したところが治癒専門の場所ですから、治癒師が迅速に対応してくだされば、何の問題もないでしょう】
それに対して、クリソツ魔法使いはそう笑顔で答えた。まぁどうでもいいが、さっきからこいつ、宮本に結構冷たいのな。ホントならお前が切られてたかも知んないのによ。するとこいつは、
【美久には悪いことをしたと思っていますよ。ただ、私ならばむざむざとあのようには切られたりしないと思いますが】
俺の頭の中の声が聞こえたかのように、そう付け加えた。その表情は依然笑顔のまま。顔はそっくりなのに、あの天然ボケとは違って性格悪っ! お前口だけじゃなくってホントに悪いと思ってんのかよ。
そうやって改めてこいつの顔をよくよく見てみると、同じ顔なんだけど持っている雰囲気は全然違う。片や入社したてで怒鳴られまくっているぺーぺーのサラリーマンと、片や稀代の魔術師と呼ばれた男。ま、同じ雰囲気を持ってる方が不思議か。こいつら、顔以外に共通点なんかないかもな。あ、けど……
【あのさ、ちょっと気になったんだけど、そもそもお前が十一の時日本にすっ飛ばされた理由って何?】
【な、何でもよろしいではないですか】
俺がそう聞くと、それまで余裕こいていた魔術師は明らかに不機嫌になった。
【もしかして、気に入った女に同性呼ばわりされて、ブチ切れた? お前女顔だし、ファーストネームのビクトールをビクトリアに間違われてとか】
これって、モロ宮本がマシューと最初に会ったときのシチュエーションだけどな。そしたら、あいつは真っ赤な顔をして、
【そ、そんなことある訳ないじゃないですか!】
とあからさまに取り乱して怒った。おいおい、図星ってか。ま、宮本にはこいつみたいに魔力はないだろうから、飛びようなかっただけだけどさ、まるで一緒じゃん。『○○子!』って女名で呼んだとたんに怪力になる、ものすごく昔に流行った刑事ドラマみてぇ。
バカウケしまくる俺を、女顔の魔術師はものすごい形相で睨んだ。なまじ、女顔なだけに、怖ぇーっ(爆)
【それにしても、本当にニホンの治癒術はすごいです。あの規則正しく薬湯が体に送られてくる管! 誰もいないときに起き出して何度細部まで調べる誘惑に駆られことか!!】
奴はしばらく不機嫌全開だったが、気を取り直して次に話し始めたのが点滴について。それから俺たちには珍しくも何ともない日本の医療器具を奴は次々とあげつらって、褒める、褒める、褒めちぎる。ん? けど、このテンション、どっかで見覚えがあるような……
【なんか、リルムの町のビクを見てるみたい】
とそのときぼそっと、マシュー改めエリーサがそうつぶやいた。そうか、どっかで見たことがあると思ったら、リルムの町の胡散臭い商人の品物を見せてもらったときの宮本か。
RPGと医療器具の違いこそあれ、それはまさしくオタクの証明。
やっぱり、こいつは正真正銘、宮本のドッペルゲンガーだぜ。




