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迷子

 僕たちはしばらくそのまま気を失っていたみたいだった。それで、気がついた時、森の中にいた。落ちる前も山道を走っていた気はするんだけど、その時と木の種類が全く違っている気がする。落ちる前に走っていた周りの木はいかにも日本らしい杉木立だったはずなのに、今目の前にあるのは広葉樹。しかも、青々している。それに、心なしか気温も高い気が。

 それに、落ちたはずなのに、切り立った崖とか斜面なんてものはまったくなくて、緩やかな丘みたいなものが遙か向こうまで広がっているし、道もアスファルトから石畳になっている。なにより僕たちはもちろんどこも痛くないし、会社の車(先輩に言わせれば廃車寸前のポンコツ)にも新しい傷は一つもなかった。

「おい、宮本、乗れっ」

それを確認した先輩は、そう言って車に戻る。慌てて僕も車に乗るとエンジンをかけ発進させた。

「ちゃんと走るみたいですね」

「ああ、ポンコツの割には上等じゃねぇか」

先輩はそう言ってさらに車を走らせた。

 しばらく行くと道ばたに大きなリンゴの木が見えてきた。真っ赤な実が所狭しとひしめき合っている。

「そう言えばお腹空きましたね」

僕の目がリンゴをガン見しているのに気づいた先輩は、

「宮本、お前の頭には食うことと寝ることしかないのか?」

そう言いながら、それでもその木の前で車を停めてくれたので、

「そんなこと言ったって、お腹空いたんですから。それに、こんな道ばたにぽつりと植わってるんだから絶対に野生。採ったって叱られないです」

僕は呆れる先輩に胸を張ってそう答えた。どう言ったって先輩は僕をバカにするだろうし、それなら開き直って空腹を満たす方が建設的でしょ。

「じゃぁ、お前一人で採って来い! 俺は要らん」

先輩はそう言って、車に乗ったまま。僕は、

「そうですか? これ、ホントに美味しそうなのに」

と言いながら車を降り、僕でも届くところになっている実を三つ四つ採ると、その内の一つの埃を払ってかぶりついた。

「うー、おいひい」

間違いなく完全無農薬のそれは、僕が今まで食べたリンゴの中で一番美味しかった。

 しかし次の瞬間、僕は悲鳴を上げた。

「宮本、どうした? やっぱりそれ、毒リンゴだったのか?」

その悲鳴を聞きつけて先輩は後から考えるとあんまりな台詞を吐きながら、車を降りてきた。

「違いますよ、ほ、ほらアレ……うわぁ!」

僕は、震えながら、突進してきた悲鳴の原因であるゲル状の物体を指差した。

 先輩はとっさにその辺にあった木の棒を持って構える。某ド〇ク〇の初期アイテム『ひのきのぼう』っていうのがあるけど、さしずめこれは『りんごのぼう』ってところだろうか。何にしても再弱アイテムには違いない。確か剣道2段の先輩は格好に反して意外と素早いゲル状を、それでバンバンふっ叩いている。リアルモグラたたきというのか、案外そんなスポーツがあるような気がしてくる叩きっぷりだ。

 そのとき、先輩がぶっ叩いているのとは別のゲル状が現われて僕の足にまとわりついた。ひえ~っ、キモチワルイ! 僕は全身総毛立ちながら、思わずゲル状に自分の今食べているリンゴをぶつけた。そしてゲル状が怯んだ隙に木の根元まで行って、自分の手でもげる範囲のリンゴを次々ともぎとって、ガンガンゲル状に投げつける。

「宮本、もういい。これ以上やっても無駄だ。リンゴがもったいない」

しばらくして、そう言いながら先輩が僕の腕を抑えた。

「僕がどうなってもいいっていうんですか」

「どうなるって、どうもならんだろ。もうこいつとっくにノビてるし」

だって、こんなアンデットっぽい奴、ノビててもまたすぐ復活して動き出しちゃいますよ。そう言おうとした僕に先輩は、

「でも、お前思ったよりもなかなかやるな。さしずめ技名は『リンゴ乱舞』ってとこか。ガキ大将に泣きながらめちゃくちゃな攻撃加えるチビガキみたいで、なかなか良かったぞ」

と言って僕の頭を撫でた。一応褒められているみたいだけど、そんな褒め方ってなんかウレシクナイ。

 とにかく、投げたリンゴを回収して(だって、そのまま放置したって腐っていくだけだし、それなら洗って食べた方が……)車に乗せると、先輩はそれを見て鼻で笑った。 その時、ちょっと離れたところから、

「Help help me!」

と、ちょっと訛った英語で助けを呼ぶ声が聞こえた。僕はその声を聞くと、自分のスキルなんてものは一切無視して、そこに走り出していた。

「おいこら、宮本! 待てよ!」

先輩は、やれやれと首を振りながら、今度はトランクを開けて車から修理用のスパナを取り出し、僕の後から走ってきた。 


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