失策
【まずは、殿下の安否についてですが、殿下は確かに生きておられます】
セルディオさんの王子の生存宣言に、王様以下城のみんなから安堵のため息が漏れる。
【生きてはおられますが、今とても動かせる状態ではなく、とある場所でご静養いただいております】
【それはトレントの森か。しかし、そなたたちの捜索に当たった者たちが、トレントの森のそなたの屋敷にも行ったが、誰もおらなんだと聞いておるが】
【はい、ご静養いただいているのはトレントの森ではございません。それどころか、このグランディールでもガッシュタルトでもありません。
それは、この鮎川様の世界である、“ニホン”と言う所でございます】
謁見の間にざわめきが起こる。
殿下が何者かに命を狙われているということは、私もよく理解をしておりました。何しろ、普段トレントの森に引きこもって研究三昧の私にその任の白羽の矢が立ったのはまさに、そやつの攻撃から魔法面で殿下をお守りするという意味合いでしたから。
恙無くガッシュタルトでの婚儀を終えた私たちは、姫様と別行動を取りました。敢えて敵方に連絡させる隙を作り、私たちは姫様の下を離れました。
そして、私たちは二人だけでトレントの森を突っ切る道を選択したのです。よしんば敵に襲われたとしても、一個小隊程もある姫様の花嫁道中よりは身動きもとれるし、被害も少なくて済む。なにより姫様に被害が及ぶことがない。
それに、トレントの森は私の庭とも言うべき場所です。敵方は私と同じように動き回ることはできないでしょう。あまり凶暴な魔物も棲息してはおりませんので、私たちは姫様よりかなり先に城にたどり着き、姫様をお出迎えできると算段していたくらいです。
しかし、敵方は私たちのそんな行動を予想してたかのように、森に最適の刺客――魔物使いを送り込んできたのでした。
何とかその魔物使いを返り討ちにしたものの、数多くの魔物たちによって私たちは満身創痍、特に殿下は一刻も早く治癒しないことには、お命も危ない状態。しかし、ここは辺境の森で、私より他に治癒できる者はなく、如何に私の魔力が高いといっても、一人で治癒術を繰り出すのには限界がありました。
私はとんでもない間違いを起こしてしまったのかと、頭を抱えました。
しかし、窮すれば通ずと言うのでしょうか、一旦は肩を落とした私は、とある場所のことを思い出していました。
(あの場所ならば、そして彼らならば……上手くいくかもしれない)
そして私は、その禁断の呪文の扉を開いたのです。




