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三秒殺しの日常  作者: 縁碕 りんご
~In Summer Night~
99/104

夢から解き放たれて

 パパパン!!!



 激しい銃撃の音がして、ゆっくりと意識が戻ってきた。何がどうなっているのかわからずに、ゆっくりと身を起こそうとして、自分は車の後部座席の方に転がされていて、口がガムテープで封じられていること、両手両足が縄で縛られていることに気付く。

 (…鎖とかじゃなくってよかった)

 激しい銃声はできるだけ気にしないようにして、まわりをうかがう。ガラスが割れて、運転手がハンドルにもたれかかったまま…死んでいることを悟った。

 

 ――…だめだ、吐いてはいけない。


 何よりもまず、この拘束から解き放たれなくてはいけない。


 私は縛られたままの両足をあげて顔の方に持ってくる。そして、同じく縛られた両腕を体の右の方へ持ってくる。ジャージのポケットに入っている太い縫い針を取り出すためだ。


 針を取り出し逆手に向け、ぶすぶすと縄を切り始めた。手首に怪我することを承知で、一番縄の柔らかそうなところに針を突き立てる。縄は太くて、切るのには時間がかかるけど、今はこの太い針しか持っていない。

 やっと手首が自由になった時には、白い肌にいくつか赤い斑点が残っていた。そのまま両足の縄を解きにかかる。

 

 「…おい」


 ドアが開いたのがわかった。

 

 その呼びかけが聴こえた瞬間、私は無言で縄から針を引き抜き、振り向いた。振り向きざまに相手の顔に針を突き立てるつもりで。

 でも。

 「…俺はお前を捕まえに来たわけじゃない」

 手首を掴まれて阻止されてしまった。

 

 「……っ!?」

 「俺はお前を助けに来た」

 くぐもった低い声で、その男性は言った。闇の中でも目が慣れてくると、男の人相ははっきりと見えた。…どこかで、見たことあるような…?

 

 「…あんた、知ってる…」

 温泉…そう、温泉だ。


 

 ――私は変な視線に気づいて顔をあげた。温泉に入っている心ちゃんがあがってくるのを待っている時だった。

 私と同じく浴衣を着た壮年の男性が佇んで、静かにこちらを見ていた。切れ長で髪の毛くしゃくしゃでー何だ、ちょっと私と似てないか?新手のナンパかな。と思いながら警戒していると、男性はすっと顔を背けて、歩み去っていく。


 たんに目が合っただけか。


 と私は納得して、再びケータイの画面に目を落とした…―――


 

 「あの時、温泉に来てた…!」

 「…覚えていたのか」

 変なイントネーションだった。英語がペラペラな人の日本語の話し方。

 「あなたは…誰なんですか。どうして、あの時にも…今ここでも…」

 「…俺もわからないんだ。自分が誰なのか。…それより、早くここを離れよう。足を出せ、縄を解いてやるから」

 言われた通りにすると、男はジャックナイフを取り出し、いとも簡単に縄を切ってくれた。

 「よし、行くぞ」

 あまり若くない年齢のはずなのに、若々しく見える男だった。体を鍛え、ついでに精神も鍛えていたからだろうか。

 自分たちがどこにいるのかさっぱり把握できないまま、二人で路地裏を駆けていく。


 「…ねえ、もういいでしょう!」

 十分車から離れ、追っ手も引き離したと思われたところで、立ち止まった。

 「なんで私を助けてくれたんですか。あなたは…何者なんですか?」

 

 「…記憶喪失で、日本に来るまでのことは何も覚えていない…覚えているのは、自分が日本人だということ、長くアメリカにいたこと…パスポートには、アメリカ人としての名前しかなかった。日本人としての名前は分からない。

 …ただ、少しだけ記憶は戻った。お前の顔が見えた…」

 「…私の顔?」

 「そうだ。…小さかった、お前の顔だ」

 「言っていることの、意味がわからない」

 「俺もよくわからない。…ただ、お前のことは覚えていた。お前が小さい頃から、自分と一緒にいたことは」

 「…まさか」


 そんなことってある?この目の前に立つ、さまざまな修羅場を経験していそうな、それでいてシートンさんとは違った意味でかなり胡散臭そうなこの男が…


 「…それより、エア・クループに行くんじゃないのか」

 男が聞き覚えのある店名を口にしたことで、私は我に返った。そこは菱川大輔が働いているところだ。

 「…あいつらは、私をそこに連れて行こうとしていたの?」

 「知らない。ただ、あのホストクラブは目と鼻の先だ。…少し様子がおかしいが」

 「様子がおかしい?」

 「あぁ。普通なら開店しているはずなんだが、なぜか臨時休業になっているんだ。それでいて、人の気配はたくさんある。…盗聴器をしかけておいてよかった」

 男はかすかに微笑んで、私を見下ろしてきた。

 「盗聴器…?っていうか、なんでそんなの持ってるの…やっぱり、あのホストクラブで何か起きているの?…何より、あんたのことはなんて呼べばいい?」

 「俺のことは、鈴木とでも呼べばいい。…別に悪いことはしちゃいないさ。ただ俺は、お前が心配なだけだ」

 

 …まさか、そんなはずないのに。


 ぐちゃぐちゃになった気持ちを抑え込んで、鈴木と名乗った男の後を追う。


 シートンさんは、死んだと言っていたはずだ。私のことは捨てて、勝手に蒸発したはずだ。

 

 そうなの?


 (あんたが…父さんなの…?)

 

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