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三秒殺しの日常  作者: 縁碕 りんご
~In Summer Night~
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こんな法則

 一週間ぐらいは、何事もなく過ぎる。桜組のメイド喫茶、執事喫茶の準備はもうできていて、後は当日に出す予定のメニューの作り方を頭に叩きこむだけ。とても残念なことに、私の料理のできなさは他の誰よりも抜きん出ていた。

 今日だって、私がまともにお鍋でお湯も沸かせない、スクランブルエッグすら焼けないことが明らかになると、「やっぱり男女に料理スキルなんてあるわけないもんねえ」と、私を良く思わない連中が揶揄してきた。

 

 「大丈夫、あんた達より私は良い性格してるから」と、私は超然と言いかえしてやったけど。

 

 やっぱ、料理ができないってまともじゃないんだろうか、と内心では落ち込んでみたり。実際、自炊ができないことで困ったことはいくらでもあった。兄さんが家にいない日に私が食事に困らないように、家にはいつも作り置きのシチューや、味噌汁があった。

 それすらなかった時は、コンビニでカップラーメンを買って帰るしかない。


 あれ以来…正確には三日前から、香坂さんを見かけなくなった。私のケータイに届いていたのは、「しばらく帰省するね」というメールだけ。

 

 内心ほっとした。香坂さんはそれっきり黒木さん達と決別し、私達のグループに加わるようになった。彼女がボッチじゃなくなって何よりだった。たまに若葉組で嫌味を言われたり、一人だけはぶられることがあっても、「いちいち人に気を使わんですむし、すっきりするわ」と前向きな発言をするようになっていた。

 何より、アルビノボーイが彼女を庇っていることが、大きなプラスになった。「僕、態度でかい子は嫌いだから」という発言だけで、大声で馬鹿笑いしたり、嫌味を言ったりする若葉組の女子は激減したらしい。ほんと、人間って単純。


 でも。


 ――――――――


 二週間、京都に帰省していたはずの香坂ゆずは、松葉杖を片手に登校してきた。彼女もまた、夏期講習を申し込んでいたからだ。以前は段々顔が明るくなっていたのに、帰省前とは一変して沈んだ表情に戻ってしまっていた。

 「足を滑らせて…また面倒なことになるわ」と本人は笑っていたけど。私は香坂さんの後…少し離れたところで、黒木さんがじっと耳を澄ましていることに気付いた。…何でわざわざ人の話を立ち聞きしてるのかな?と思っていると、

 黒木さんは冷笑を浮かべて私を見つめ返し、足早に廊下を立ち去った。

 

 「…変なの」

 「え?何が?」

 「ねえ、どうして足を滑らせたの?」

 「それ、は…どんくさいから、としか言いようが…ないかも」

 「まぁ、そうだよね。荷物持ってあげるから。早くエレベーター乗ろう?」


 我ながら当たり前すぎ、かつバカっぽい質問をしてしまった。でも、香坂さんはアルビノボーイみたいにあんなに壮大な嘘をつく子じゃない。今の彼女の動きは、けが人特有のものだ。

 でも私は、自分がバカっぽい質問をしてしまった時香坂さんの目が微妙に泳ぎ、虚ろになったことを見逃すほどバカじゃない。

 いつもの「違和感」が、チクチクと虫のように背筋を這い上ってきた。

 

 ―――――


 悔しい。


 悔しい悔しい悔しい悔しい…


 むかつく、むかつくむかつくマジでむかつく!


 「なんで、あの女ばっかり…!!」

 どうして恋愛に消極的な女ほど、モテるんだろう?どうして恋愛に積極的な女は、上手くいかないんだろう?この法則は、世間で有名な「婚活」にも現れていると思う。結局、自分が望んでも手に入れられないものを、他人が手に入れてしまう。

 どうして恵まれた要素を持っている人間は、それを活かそうとしないんだろう?可愛らしさ、綺麗さを活かし、積極的にテレビに出ている女の子達ならまだわかる。許せないのは、自分がどれだけ素晴らしい要素を持っているかを自覚せず、勝手に控えめに、おどおどしている女だ。

 自覚しないから、無意識に人をバカにして、傷つけているのだ。


 だからイジめてやった。おどおどした女が妙に苛々のタネになった。さっさと自殺して、死んでしまえ!

 そう思っていたのに、あの女はまだ生きてる…!!


 自分がもっと綺麗だったら、もっと可愛かったら、「彼」は最初に振り向いてくれたはずだった。少なくとも私に注目してくれたはずなのに。

 最も、彼は今は「あの女」のことは綺麗に忘れているらしい。あくまで接客業であることは分かっているし、他にも「彼」を指名する人はたくさんいることは分かっている。それでも、「彼」と一緒にいることは何よりの幸せだった。

 でも、「彼」は最近、面白くないことばかり言う。


 例えば、「親が心配してるんじゃない?」とか、「制服でここに来るのは良くないよ」とか。お金を払おうとすると、「姐さんに叱られるから」とやんわりと割引してくれる。結果的に支払うお金は数千円程度だった。


 「姐さんって誰?」と聞いたことがある。


 「つい最近まで、この街の番長だった人だよ。今はもう普通の生活してるけど…それでも、時々この通りでも見かけるかな。ルックスはいいんだけど…中身が凶悪。女だからって侮れないよね」

 

 また出た。またこの法則がでた。ルックスの良い人間ほど、恋愛に興味を持たない。

 

 自分にとって、それが何より許せない。


 

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