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三秒殺しの日常  作者: 縁碕 りんご
~In Summer Night~
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全部白状しろ

 

 「え…でも、ちゃんと代金は払ってもらわないと」

 「何、何か文句あるの」


 思いっきり睨みつけると、カラオケ店は簡単に私達を解放してくれた。私に電話をくれた坂口が、残念そうに香坂さんを舐めまわすように見ていたのを私は見逃さなかった。



 近くのお店に入り、そこで尋問を初めてもよかった。けれど、この子を連れて入れるような店はこの界隈には存在しない。結局、夜10時前になりほとんど人がいなくなった駅まで連れてきて、香坂さんが普段はどの電車に乗って帰っているかを強引に聞きだし、プラットフォームまで彼女を連行した。

 私はその頃になってようやく気分が落ち着き、香坂さんへの怒りは解けていた。

 

 「…何もかも全部白状してくれる?もう怒らないから」


 努めて穏やかな口調で問いかける。香坂さんはまだ俯いたままだ。


 「おかしいって思うんだ」と私は話を続けた。

 「私は…香坂さんは、そんなに夜遊びするような子じゃないって、今現在進行形で思ってる。…その顔にできた痣も、今日黒木さん達と一緒にあんなところにいたのも、変だなって。それに、急に私を避けるようになったのも…」

 彼女の肩が、震え始めた。

 「それに、お金もやたらたくさん持ち歩く。それで慣れないことをして…私が来なかったら、警察に捕まるか、男に目をつけられていたか、まぁ悲惨な運命を辿っただろうね。


 それに、何もなくたって、あんたはずっとパシられていただろうし」

 

 「違う…私、ただ…」

 香坂さんが何か一生懸命言いかえそうとしているのを無視して話し続ける。

 「あの子たち、クラスのリーダー格なの?よく白石くんに媚びてるみたいだったけど。あんな子達を友達扱いして、あんたほんとバカだよね。香坂さんの悪口言ってたのに」

 「えっ…」

 香坂さんが蒼ざめた顔で私を見て、そしてすぐうなだれる。


 「里香が…仲直りしてくれたって…思って…嬉しくて…」

 「仲直り?」

 「同じ学校やったんよ…中学が。でも、ケンカして」

 「…え?」

 うなだれてぼそぼそ信じられないことを呟いていた香坂さんは、やがてふっきれたような顔で私を見て笑った。…何だか、ほっぺにぴったり張り付く湿布が痛々しかった。


 「ありがと、ほんとのこと教えてくれて。ほんま助かったわ」

 「あんまり痛々しくて見てられなかったからね。私のことを無視したことだって…ほんとは黒木さんに言われてやったことじゃないの?」

 「あはは…ほんま、沢原さんはいろんなこと見抜くんやな…くどいけど、ありがとう」

 「いえいえ~」


 お礼を言われ、でも私は全く違う質問をする。



 「…お金、返した?」

 

 ただでさえ蒼白な彼女の顔が、さらに蒼白になった。


 「…何の話?」

 「パシられてたんだよね。お金払わされたって、自分から認めたでしょ。…そのお金は、どこから持ってきたの?」

 「…そ、それ、は…」

 「どんな理由があっても、人の財布からお金を盗るのは最低なことだよ」

 「だって…どうしてもお金がなくて…」

 「お金無くて当然だよね。ああやって遊びに連れて行ってもらえる代わりに、全部お金を払わされるんだもんね」

 香坂さんはいよいよ何も言わなくなった。

 「一緒に帰ろう?私に言ったことを全部ご両親に教えてあげないと。あっ、香坂さんって関西から来てるから、下宿先の人が保護者とか?」

 

 電車がもうすぐ来ることを知らせるアナウンスが響いた。


 「だめ…だめ、それは!」

 「私も一緒に謝ってあげる。パシられていたことをちゃんと話したら…その人もわかってくれて、あんたを殴ったことを謝ってくれるよ」

 「あかんよ…学校でのことを親に話したってバレたら、今度は何をされるか…」

 「全部白状しろ。そうしないといつまでも地獄は終わらない。いじめられているのなら、ちゃんとご両親に電話してそれをうち明けないと」

 「だって、関西にいる親に電話したところでどうなるっていうん!」

 「私がいるでしょ。困った時に私に通報すればいい。昼ごはんも、私達のところに食べにおいでよ。私の友達は、あんたをはじいたりしない。来年は私と同じクラスになれるように、担任の先生に頼んでみたら?」

 「…え…?」

 「最近私を無視していたのも、黒木さん達に言われたからでしょう。あんたってほんと…勉強できてもバカだよね」


 答え合わせのように聞いた私の指摘を、香坂さんの顔が充分「正解だ」と教えてくれていた。

 

 「あんたみたいな気弱な子を嫌う奴がいるのは、もうどうしようもないことだから。でもあんたみたいなバカを心配している人間は、少なくとも三人いるってことを忘れないで」

 

 私は自分の方向音痴も無視して、香坂さんの住む家に向った。タクシーを呼んで帰れるくらいのお金は持っていたから。

 彼女の住む家は、他にも何人か下宿人を引き受けているところだった。後は香坂さんが誠心誠意、下宿屋の主人に謝ればいい。あの涙とあの弱さを思えば、香坂さんを頭ごなしに叱るわけにはいかなくなるだろうし。


 (…また兄さんから怒られるかな、私…)


 後は自分のことを心配しないと…。


 

 でも、現実はそう甘くない。

 あの気の弱いメガネっ子は、またすぐにトラブルに巻き込まれることになる。


 

彼女を心配する存在。それは、沢原千華以外に誰だと思いますか?

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