カラオケ店からの通報
夜。すでに家に帰宅していた私のケータイに着信があった。
「-…もしもし?」
『あ!千華さん、いましたよ』
「何が?」
『カラオケボックスでずーっとカラオケしてる子!あの制服は間違いなく、清羅学園ですね』
「…今、夜の9時だよ?何だってこんな時間に…」
『なーんか仲良さげな三人グループです。千華さんの学校とは違う子だったら、声かけたんだけどなあ…』
「まぁ私とは全く関係のない学校の子だったらナンパしてもぼったくっても構わないけどね。…まぁ清羅学園の子だったら話は別だな。どんな子か分かる?」
『えーっとですねー…皆賢そうですよ?』
「かしこそうだけじゃわからない。お互いをなんて呼び合っていたかとか」
『…あ!そうだ、一人はメガネをかけてました。カチューシャ?みたいなのもつけてましたし…』
「…おい、そいつら帰らせるなよ。すぐそっち行くから」
私が清羅学園に入学し、不良をやめることになった日。私を慕ってきた少年達は、「千華さんの成功を祈って!」とわざわざ私をカラオケボックスに招待してくれた。そのお金の出所が心配だったんだけど、彼らの善意は嬉しかった。
私は最後に彼らに言った。
「清羅学園の子には手を出すな。もし私と同じ学校の子で夜の街をうろついている奴がいたら、脅したりしてでも帰らせろ。それでも帰らない奴らがいたら、それ以上は絡まずに私に連絡して」
―――――――――…
私がこんな面倒くさいことをしているのは、全てあの増田刑事のせいだと思う。私を補導したりしない代わりに、私に警察の手先になるように要求してきた男。前科が残るのは嫌だったから、あの男の言うとおりにしたけど…今もその口約束は、あの男の頭の中では「有効」になっているようだった。
妖しい奴がいて、私が出張ってそれでもそいつがそこからいなくならなかったら、刑事課…じゃなくて、普通のお巡りさんが出動する。増田刑事の管轄外のはずなのに、律義に交番の番号までも教えてもらった。
その手を使って同じ学校の子を補導する手助けはしたくない。しかもメガネをかけてカチューシャをつけている子なんて、私の知っている中では一人しかいない。
幸いアリスはシートンさんと一緒に銭湯に行っていたから、戸締りだけするとすんなり家から出て、電車に乗ることができた。
「すぐそっち行く」と言っても、不幸なことに私はもといたその街から引っ越してしまっていた。電車に乗り、その駅で降りるのに最低20分。かつての私の「舎弟」だった奴が教えてくれたカラオケボックスに辿りつくまで5分。
その間に彼女達がさっさと帰ってくれるといいんだけど…。
(友永くんの言うとおりかもしれない)
そもそもあんな気の弱そうな香坂さんが、あんな気の強そうな、そして押しの強そうな子と仲良くするなんて…ちょっと違和感がある。私が考えていることが正しかったら、香坂さんは地味に酷い目に遭ってるだろう。
しかも、香坂さんとそいつらを見た子達が、私に電話してきた。清羅学園の子には手を出さないようにきつく言ってあるけど、彼らが純粋に元ボスと交わした約束を守ってくれると思うほど、私は彼らを信用しているわけじゃない。万が一ということもある。自分が知っている不良が関わってきた以上…私が「これは若葉組の問題だから」と傍観しているわけにもいかない。
「香坂ゆず…」
ほんと、とことんめんどくさい女だ。
―――――…
「あれっ?姐さんだ!引っ越したんじゃなかったっけ?」
駅から降りていきなり声をかけてきたのは、人気ホストの菱川大輔だった。今ではろくな職業にもついていないくせに、私よりも高級そうな服を着こんでいる。
「私が知っている子達がカラオケで遊んでるってきいたから。仲間に入れてもらおうと思って」
「え?その為にわざわざ?」
「違う。同じ学校の子でも知らない子だったら即通報してた。知っている子だから困ってるの」
「ふ~ん。やっぱ、姐さんは優しいもんね」
「褒めても何も出ないから」
私はそう言って、菱川大輔と別れた。
そのまま繁華街に入り、やたら太ってそうなおっさんに腕を絡めた女子高生とか、ギャルメイクでびしっと決めたDQN系とすれ違いながら、電話してきた奴の言っていたカラオケボックスに到着する。見上げて深くため息をついた。こんなところに有名進学校の子が来ていたら、世も末だな…。彼女達が帰っていることを願って、中に入った。
いつものように自問自答した。なんで私がこんなお節介なことしているんだろう、と。答えはもうわかりきっているのに。




