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三秒殺しの日常  作者: 縁碕 りんご
~In Summer Night~
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誤認逮捕

 おかしいな、若葉組の子達は今日は学校来ていないんじゃなかったっけ?と私は首をかしげる。どうやら、夏休みの準備期間が必要だったのは桜組だけじゃなかったらしい。若葉組から聞こえてきた音に、クラスメートが何事かと目をあげる。

 すでに廊下に出て若葉組の様子を見に行く子もいた。

 「まぁ、ここで何もなかったみたいに仕事に集中できる人はいないよね」

 「とはいっても、桜組は執事服とメイド服の試着とサイズ合わせの為だけに来たようなものだけど」

 と白石くんと駄弁りながら、心ちゃんの手を引いて廊下に出た。ちなみに咲真は今日は学校に来ておらず、今日は現役モデルが私の相方になっていた。

 

 っていうか、友永くんがボコスカ殴られてたのも若葉組だったな…。問題児はそのクラスに集まってるんだろうか?


 「肝心なものは買ってこなかったなんて…ほんとにありえないんだけど!」

 「ごめんなさい…ごめんなさい!!」

 「あぁもう…先生になんて言い訳したらいいんだろ…」

 

 えーっと。これは何がどうなってこうなってるのかな。人はそんなにいないんだよね、教室の中に。合わせて十五人くらい?でもきちんと並べられた座席の中で、ひとつの机だけが大きく本来の位置からずれている。人が机を蹴るとあんな風になる。

 どうやらそれは、…名前も知らない誰かさんから頭ごなしに叱られている香坂さんの机みたいだった。


 「ちょっと里香、落ちつきなって…香坂さんがもの忘れしやすいってのは前から分かってたことでしょ?だから買い出しさせるのはやめておいた方がいいって言ったんだ。それに…こんなこともあろうかと、一応私買ってきておいたし!」

 と、もう一人の女の子が自分の席から、何かパンパンに大きな袋を掲げてみせた。

 

 「……?」

 私は思わず友永くんの方を見た。友永くんも訳が分からないという顔で首を傾げている。

 「問題解決した感じ?」

 ちゃっかり私の後ろに隠れていた白石くんが何ともKYな感じで友永くんに話しかける。白石くんの声で、香坂さんをがみがみ叱っていた子はぎくりとしたように廊下の方を見た。今初めて、野次馬の存在に気付いた、というように。

 友永くんは軽く頷いて、またその子に向って言った。

 「川崎さんが買ってきてくれるんだったら、最初から川崎さんに頼めばよかったのに。香坂さんって、特待生なんだよね?どんくさそうな顔してるし、ガリ勉そうだし…必ず無理をしちゃうだろうと思わない?頑張っている子を怒ってもなぁ」

 「…」

 「そんなに香坂さんを責めなくてもいいじゃん、里香。ほら、調理室行ってさっそく試作品作ってみようよ」

 片手には買い物袋を、片手にはエプロンや三角巾が入ったエコバッグを担いで、川崎さん?が言うと、里香と呼ばれた子はすっと蒼ざめた表情で川崎さんに倣って自分の席へ荷物を取りに行く。しかしながら、香坂さんをちらりと見た彼女の目は、限りなく冷たかった。

 「はい、男子はもう帰ってよし!後は、私と香坂さんと、里香と美玖で作るから。あんた達も帰った帰った!」

 川崎さんが野次馬に向ってぱんぱんと手を叩き、散らして行く。私達も何が何だかわからないまま桜組に戻った。

 (…後で友永くんに何があったのか訊いてみよう)

 もちろん、今心ちゃんと一緒に着たメイド服はさっさと脱ぎ棄てて普段の服にチェンジしなくちゃ。…っていうかあんまり自然に廊下を出歩いたものだから今自分が何を着ているかってことを忘れるところだったよ…。

 

 その後、私が友永くんにメールするまでもなく、私は彼に生徒会の「溜まり場」まで呼び出される。他の皆は先に帰らせた、うららかな午後。部屋にいるのは友永くんだけで、珍しくー夏休みだから当然かー赤メッシュ男の姿はなかった。

 「やぁ嘘つき野郎。この間から、私はお前のお母様から毒を盛られ、お前のお父様から暴力を振るわれたことを一言も謝ってもらってないんだけど?」

 「ごめんね、父さんも母さんもやたらとプライド高いんだ。…一人暮らし始めて、改めて親元から離れてみたら何だか二人とも、昔の貴族みたいで。謝りたかったんだけど…千華って桜組でしょ?だからなかなか会う機会がなかったし。生徒会にも他に人がいるし…」

 「そう…」

 そう、こいつが誠意を示そうとしたって示せない状況にあるのはわかってる。白石一樹だけでもヤバいのに、友永奏が桜組にご降臨あそばしたら、いよいよその彼と一番近い生徒会庶務をやっている私は日向峰グループと対立を強めるだろう。

 「でも、ありがとう」

 「はっ?」

 「千華に言われるまでさ…あぁいうのが、「虐待」ってことに気付くまですごく時間がかかった。今後父さんとはできるだけ会いたくないと思ってるし」

 「え?あぁ…うん」

 最近周りの人間からやたら真剣な顔で「ありがとう」だの「感謝してる」だのお礼を言われることが多いんだけど…。

 とにかくこいつは今が一番、人生の中で「絶好調」だそうです。まだ二年生の段階で、大学ーもちろん日本のーにスポーツ推薦の話が持ち上がっているくらいのバスケ馬鹿。皆にはモテるし成績も優秀、しかも金持ち。…全国の婚活中の女性が彼を狙ってそうだ。

 「…で、千華」

 「はい何でしょう?」

 「ちょっと、香坂さんのことで相談があるんだけど…」

 「なんで私。何があったのかは知りたいけど、私は何でも解決できる探偵じゃないんだよ」

 「夏○友人帳のアニメイベントがあるらしいよ。アドレスとチケットあげるから行ってきなよ…僕の頼みをきいてくれたら」

 「…くっ!それは欲しい!」


 …私って単純すぎるかな…?


 ―――――


 「…え?香坂さんが、万引きで誤認逮捕された…?」

 「うん。うちじゃ、模擬店をやることになっていてね。その材料買い出しに行ってる時に、本屋で寄り道したんだって。そしたら、万引きで捕まって…」

 「…香坂さん、そんな子じゃないと思うけど」

 「僕もそう思う。本人も、知らないうちに本がカバンの中に入れられていたって言ってたんだけど、お店の人がなかなか信じてくれなかったらしい。そこで警察に連れていかれそうになっていたところを、黒木さんが偶然現場に通りかかって必死に頭下げたってこと」

 「黒木…?」

 「いたでしょ、黒木里香。香坂さんをめちゃくちゃ怒ってた子。香坂さんが買い出しの前に本屋に寄って、しかも万引き沙汰になって、そして買い出しに行く時間がなくなったから…」

 「それで、そんなに怒る必要があるの…?」

 「癇癪持ちな子だと思わない?黒木さんって、何かと香坂さんに難癖つけるんだよ」

 「…それを私にどうしろと?」

 「多分このままだと、若葉組で絶対に問題が起こる。そうならないように、外からも見ててくんないかなって話」


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