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三秒殺しの日常  作者: 縁碕 りんご
日常~6月中旬~7月~
80/104

ブルーワールド

 さて海遊館に着いた。バスを降りた瞬間から、好きな子とグループになって自由行動です!心ちゃんと一緒に恵鈴ちゃんを待っていれば、恵鈴ちゃんはすぐ楓組のバスから飛んでくる。主導権は全て恵鈴ちゃんに委ねることにした。

 アクアゲートをくぐってしまえば、ブルーワールドの始まり。


 あちこちから聴こえてくる関西弁がちょっと新鮮だった。巨大な水槽の水色の中で泳ぐ魚達が究極の美しさを私にアピールしてくる。

 蒼い…蒼い。ブルーだ。どこまでも蒼い…!

 「すっげえ…っ!」

 「これ、何て言うんでしたっけ…ニモの…」

 「カクレクマノミだったわね、確か」

 「こっちはドリーだよ恵鈴ちゃん」

 「んーこっちは種類わからないな」

 

 これが女友達との和やかなお喋りって奴か…関西弁と同じくらい新鮮だよこれ~!と、せっかく楽しんでいた私達ですが。

 「心ちゃん恵鈴ちゃん!地図見てきたんだけどさ…」

 

 「君ら可愛いなあ」

 「どこの子?東京から来たん?」

 

 私がちょっと目を離すと、たちまち男の子に声をかけられているお二方…ちょうど、私と二人の間に割って入るような感じ。…私最初から無視されてね?ただでさえ水槽の青い光だけが明かりになってて、薄暗いのに…危険だなあ。

 「ちょっと!邪魔なんですけど」

 と、私はそいつらを押しのけて二人を救助する。

 「千華…今度から一人で行動しないでね、私達の方が大変だから、いろんな意味で」

 「はいはい分かってますって」

 と、私は女の子に両方から腕を絡められて、完璧にナンパ師を無視して歩き出そうとしたんだけど。…ひとつだけ発見したことがあった。

 「そんな冷たいこと言わんといてーや」

 「一緒に回ろう?」

 …関西人は、しつこい。この局面になって、学校が私達を制服で登校させなかったことを悔やんだ。金持ちでリベラルな清羅学園は、私達に制服を強制しなかったから。制服で歩いていたら、こいつらも声をかけてこなかったはずなのに…!

 「よく見たら真ん中の君もかっこいい系やんな~背ぇ高いし…足なっがー!」と私にまで絡んでくる。こいつらがせっかく褒めてくれたんだから、それこそ長い脚で蹴っ飛ばしたって…誰も文句は言うまい。と、私が恵鈴ちゃんと心ちゃんの手を離して、低く構えた時だった。

 

 『―――――…』


 私にやたら顔を近づけてきていたナンパ師の肩を、ぽんと後から叩くヒーロー。殺人犯の顔つきで、ずっとこの男の項に殺人ビームを注いでいる。レーザー照射して火傷させてやろうとでもいうように。ん?レーザーって火傷するんだっけ?

 まあわかんないけど、背後からの殺気に気付いたナンパ師が、「何だお前」って感じで振り返って凍りついた。

 「な…何だよ、お前…」

 ちょっと震えてる質問に対して、咲真は答えない。正確には答えられない。ただナンパ師三人にひとしく平等に殺意を向けている。三人の注意が咲真に向いている隙に、後ろから上代君が近づいてきて、ほっとした様子で恵鈴ちゃんを引き離した。

 どうやらこの三人にケンカの心得はないらしい。私が咲真は喋れないんだと言ってやる必要もなかった。三人は、「あは…はは、すいませーん」と愛想笑いして、全速力で私達から離れていく。

  と、咲真の背後からひょこっと白石一樹が顔を出す。子規くんも咲真にお礼を言っていた。…心ちゃんは双子の妹だものね。

 「何、三人ともこんなところでナンパされてたの?」

 「恵鈴ちゃんと心ちゃんが余りにも美しすぎ&可愛すぎだから私がとばっちりくらってた」

 「そんなことないですよ?」

 「そうそう、私達普通よねー」

 と、恵鈴ちゃんと心ちゃんは知らん顔。それでいて、いざという時は私に守ってもらう気まんまんだったみたい。私そこまで面倒みきれないんですけど。

 「二人は柔道とか始めた方がいいと思うんだけど?」

 「えーっ、無理です!」

 「汗臭いから。必要ないし」


 と、後から考えてみたら補導されても仕方ない行為を笑顔でやろうとしていた私と美人二人は、まあ咲真達に救われた。三人だと危険すぎる!!そして私が警察に連れていかれかねない!!ということで、男四人と女三人で、海遊館を回ることに。上代くん、恵鈴ちゃんにぐいぐい引っ張りまわされてた。けど本人全然嫌そうじゃなかったヨ。

 それから琴峰兄妹、恵鈴ちゃんと上代くん、アリスがそれぞれ散って行き、いつの間にか私と一樹くんと咲真で海遊館を回っていた。

 「ね、みようよ!パフォーマンスの一環でイルカのトレーニングやってるらしい!」と、一樹君が珍しく活気づいてイルカ水槽に皆を引っ張って行く。

 一樹君が時間を間違えてました、なんてオチはなかった。イルカ水槽の前には人だかりができていて、確かにイルカが可愛らしくガラス越しに人間達のところに寄ってきている。ちょうど飼育員のえさやりタイムが始まっていた。

 「うわああ~!」

 現役モデルが水槽に駆け寄り、小さい子みたいに歓声をあげている。ちょっと面白い。

 「…一樹って、こういうの好きなのか」

 「うん、癒されるんだよほんと。複雑な感情をもっていない、人類に次いで二番目に脳が大きいから意思疎通も可能なイルカは!」

 と、嬉しそうに語る一樹君は、本当に楽しそう。けっこう、仕事でストレス溜めてるのかもしれない。

 「…まあ、よかったね」

 「…引かないの?」

 よかったね、と言っているのに、こいつは私に変な質問をしてきた。

 「…引いてほしいの?」

 「いや…大人げないかなって。印象と違うってよく言われるから」

 「安心しろ。あんたは私にとっては最初から子供っぽい印象だから。ねえ咲真」と二人で頷いてやる。実際嘘はついてない。

 「そうなの!?」

 今さら気付いたのかお前…

 「っていうか、自分が大人だと思ってたのかね一樹君ニヤニヤ」

 「うるさいな!千華からそう見えても、仕事先じゃ違うの!」

 一樹君はそう言い捨てて再びイルカに見入ろうとした(イルカが一頭、この美少年に大変な興味をもっていた)が。

 

 「ねえ…あの子、一樹君じゃない?」

 「えっ、あのモデルの!?」

 彼の名は関西でも轟いているらしく。せっかくイルカといちゃいちゃしようとしていた本人も私達も凍りついた。このままではこいつが女性に取り囲まれる。それだけじゃ済まない。私と咲真までとばっちりをくらう。

 咲真の場合、「彼と友人なんですか!」「彼のサインもらってくれませんか!」と何か頼みごとされまくるし、私の場合、「一樹君になんでそんなきつい態度とるんですか?」「っていうか彼のことそんな風に扱うなんて…」といわれのない非難が待っている。

 「はい、行こうねー」と、私が強引に一樹君の腕を掴んで歩き出す。えー!!と不満の声をあげる一樹君の頭に、咲真が自分が被っていたキャップをかぶせた。すでに周りの女性が騒ぎだしている。

 

 そんな中。たくさん並んだ水槽の明かりだけで視界を見通す、薄暗い廊下を見渡して、ちらりと香坂さんが目に入る。

 彼女にも友達がいるんだろう。女友達に囲まれて、彼女は楽しそうに歩いていた。


 (…変なの。あの時教室入る前に、すごく鬱っぽい顔してたのに)


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