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三秒殺しの日常  作者: 縁碕 りんご
日常~6月中旬~7月~
78/104

テストが終わってさあ本番

 

 『おい、大丈夫か?』

 ぐったり疲れ果てた私の顔面に、突然メール作成入力画面がにゅっと出現する。目の前には、あきれ顔で私を見下ろす咲真がいた。

 「テスト終わりましたね、千華さん!」

 後ろからは心ちゃんが背中に乗ってくる。キャラじゃないことをするのは、期末テストが終わったことへの喜びだろうな…

 『さっさと帰ろう。そして明日の海遊館行きの準備だ。…素敵なイベントだよな、テストの後に遠足だなんてさ』

 「ま、僕らには後からも予定があるけどね~」

 と、白石一樹が嬉しそうに割り込んできた。



 ええわかってます。ちゃんと忘れてませんよ…あんた達が一緒に福井県まで来るってことは!!


 ***


 話をするには、テスト真っ最中の空っぽの教室まで時間を巻き戻さないといけない。テスト期間中は午前中授業で、午後からは各自帰宅して勉強するのもよし、教室で勉強してもよし。私は教室で一人で勉強するつもりだったんだけど、それが大間違いで…心ちゃんやら子規くんやら咲真やら一樹やらがわらわらと私の周りで勉強道具を広げ始めてしまった。

 当然、友人同士の勉強会がスムーズに進むはずはなく。いつの間にか私は、皆の話題に引き込まれ、驚きの言葉を漏らしている。

 「えっ、あんた達も福井県に来るの?」

 「白石くん、温泉に行きたいんだそうです」と、子規くんが面白がっているような口調で付け加えた。

 「どうせジジ臭い趣味だと思ってるんでしょ、子規くんは」と、現役モデルは本当に不愉快そうに子規くんを睨みつける。この二人…なんだか仲悪くない?

 「千華もそう思ってるの?」と、不機嫌さMAXな一樹君は急に私に振ってきた。

 「えっ?いや、あんたの場合、連日のモデル仕事と学業両立で疲れてるからかなって…」と、私は素直な意見を述べる。確かに温泉は、仕事に疲れた人間にとっては大変な効果がある。こいつの場合は、半分社会人といっていいし。

 しかしこいつは「そうなんだよ!!もうマジで疲れるんだよね!」と意外に食いついてきた。よっぽど自分はジジ臭くないことをアピールしたいらしい…

 「でも、どこの温泉旅館に泊まるんですか?」と心ちゃんが素朴な質問をする。

 「…ここでは言わない。女の子達がストーカーしてくるかもしれないから」と、彼はげんなりした様子で答えた。

 彼を知らない人がきけば、どんだけ自信過剰な奴だと思うかもしれないけど、本当にそんな可能性があるから笑えない。憧れのイケメンモデルを追いかけまわし、写真を収めようとする変態ファン達を想像した。

 『アリスはどうする。家で留守番か?』と咲真にきかれて、初めてアラステア・エルシュタインの存在を思い出した。

 「訊いてみるよ。きっと温泉って言ったら喜んで着いてくるでしょ…あいつ日本オタクだから」

 散々質問攻めにされたことを思い出して、私はまたげんなりとした。

 「どこに泊まるかについては、またメールで皆に教えるからさ」と、一樹君は話を締めくくろうとする、けど…ちょっと待て。


 「皆、私が旅行に参加する前提で話進めてない?私はただ、親に会いに行くだけで…」

 「え…千華さん、来ないんですか?」

 「僕、心に千華さんが来るからって言っておいたんですけど…ダメなんですか?」

 速攻で琴峰兄妹からの「うるうる目線攻撃」を喰らった。

 『お前、福井県で絶対迷うだろ。母さんには、旅行の合間に会いに行ったらいい』

 「うっ…そう言われると…誰かに着いていってもらわないと…」

 「ねっ、千華も来るでしょ?けってーい。大丈夫、千華の分くらい軽く払えるから」と本当に一樹君が締めくくってしまった。

 …まあ金を払わずに済むのはいいとして…

 それよりもマジで忘れてた!香坂さんによって福井県に押し込んでもらうまではいいんだけど…そこからどうやって辿りつく?徹底的な下調べを忘れてた。私の方向音痴は強力だ。絶対どこかで交通機関を間違えてしまうだろう。

 『…一緒に行ってやろうか?お前、いっつも人にガイド役押し付けるもんだから心配になってきた』

 「何!?行ってくれるの!?」

 『親御さんの住んでいるところさえ教えてもらえれば』

 「千華さん、方向音痴なんですか…そういうとこ、黒錐くんに頼りきりですね~」

 と心ちゃんが満面の笑みでちょっと笑えない指摘をしてくる。…そういえば、琴峰心と黒錐咲真って…婚約、させられてたよね。今は破棄したけど…肝心なとこまで忘れてた。一緒にいて、複雑になったりしないだろうか?そういうところに、よく気を使わないと。

 アリスに温泉旅行のことを打診すると、喜んで行きたいと言ってくれた。温泉がどこまで熱いのか楽しみだってさ。よくわからないことを心待ちにしていらっしゃるようで。

 



 …そして現在に至る。


 「海遊館、もちろん私達と回るわよね(りますよね?)」と恵鈴ちゃんと心ちゃん。咲真が気のせいか半分だけ殺人犯の顔になってる気がする。

 「あなたたち、皆で温泉旅行に行くんでしょう?残念だわ、私も一緒に行きたかったのに…」

 「いいじゃないですか、恵鈴さん。軽井沢に別荘地があるだけでも贅沢なものですよ」

 「やだ、何度も海外旅行してる心ちゃんに言われたくないわ」

 …やっぱ話のスケール違うわあ…


 私とアリスの荷物は福井県の母の家に送ってあった。このフレンズ達も、余計な荷物は持ちたくないということで旅館に荷物を送ってあるだろう。温泉旅館で荷物をお預かりするサービスなんてあんまりきいたことないけど…金の力があればなんでもできるんだろうよどうせ!

 ともあれ、テストは終わったし、家もお引っ越ししたし…後は市営住宅を市に返すだけだね。引っ越し作業は私がなにも頑張らなくても、私よりも屈強な男達(シートンとアリス含む)が勝手にやってくれたし!

 

 「あ…」

 『どうした?』

 「…駅から降りて…どうやって帰ろう…」

 またしても問題発生。咲真とアラステアと一緒に電車に乗ったはいいけど。

 「えっ、ぼくも道覚えてないヨ」

 「アリスまでどうして覚えてねえんだヨ」

 咲真があきれ顔で素敵な申し出をしてくれるまで0.5秒。


 『…送って行こうか、二人とも』


 何だかそのあきれ顔に笑いを含んでいたような気がする。暑い夏は近い。



 

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