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ご両親と話せないか。
そう言っても、うちは訳ありでご両親が出張ってこられる状況じゃなかった。父親は蒸発、母親はここから遥か遠い福井県で療養中。というわけで、赤メッシュ男の「物件売り込み」に、千里兄さんと、後見人であるシートンさんが出向くことになった。
ちなみにシートンさん、最近は捜査官の経験を生かして、私立探偵事務所の仕事を見つけてきたらしい。でもあのカッコよさは隠密行動には不向き。いい意味で注目を集めてしまうので、あくまで事務仕事に徹しているのだとか。
話しあいに指定してきた日に咲真と電車で乗り合わせると、黒錐拓真は今日は学校を休んでいるときいた。なるほど、今頃はうちの家族をそこに案内しているわけね。
『引っ越すってことは…お前とアリスは、交通機関も変わるんだっけ』
「あー、教えてもらった住所だと、咲真より後に乗ってくることになるかな」
『…ならいいや』
「嬉しそうだね。そんなに私と一緒に登校するのが楽しみか」
と何気なく言っただけなのに、漫画を読みふけっていたアリスが突然咲真の方を見てにやにやしはじめる。
えっ?ちょっと待て、これはまずい…殺人ビームのパターン!?私はちょっと身構えてしまう。けれど、返ってきた黒錐咲真の反応は予想外で…かつ、どう扱っていいかわからないカテゴリーだった。
まず、何も喋ってくれない。声が出なくても唇の動きで何を言っているかはだいだい分かる…のに、ケータイも出そうとせず、喋ってくれない。
そして段々顔が真っ赤になっていっている…
「…りんご病?」
「違うヨ、セン。よっぽどセンは、さっくんにとって大親友なんだヨ」
「ほぉ、大親友ねえ。…今まで友達いなかったの?」
すると咲真の顔から朱色は消え失せ、気が付けば片手で頭をがしがしされていた。怪力でかなり痛い!ついでに殺人犯の顔からは感情まで消え失せている。失言に気付いた時はもう遅い。
「あいたたたたたたごめんごめんマジで痛い!」
ここが電車内だと言うことを忘れちゃいけない。皆、面白いものを見るような目でこっちを見てきていることにアリスも咲真もいい加減気付いてほしいんだ!!
咲真は意地悪そうに笑って、声の出ないその口は確かにこう言った。
『テメェは一言多いんだよ』
登校すると、香坂さんが後から「おはよう…」とおずおずと話しかけてきた。
「おはよう。嬉しいことだね、香坂さんの方から挨拶してきてくれるなんて」
「ううん、沢原さんも、沢原さんの周りにいる人も…背ぇ高いから、すぐに見つけられた。うち、目が悪いから、人に挨拶しようとしてもなかなか気付けへんし…」
「メガネかけてるのに?」と言いながら、私はアリスと咲真に目配せする。先に行っててという合図。この前みたいに咲真がこんな小さい子に殺人ビームを浴びせるようなことがあってはならない。
「うん。メガネかけていても、なかなか気付きにくいことってあるんよ。…ええの?一緒にいた人達…」
「いいの。香坂さん何だか気が弱そうだし」
「そ、そんなあっさり…」
私のはっきりとした物言いに若干ショックを受けているみたいだし私もこんなことわざわざ言わなくてよかったかもしれない、と後悔した。こういうのを、上から目線、っていうんだろうか…改めた方がいいかもしれない。
口から出た言葉はもう取り消せない。でも、香坂さんは本当にそんな感じがした。
「ごめんね、私…言い方きついかな?」
「ううん、間違ってへんし。馬鹿にされるかなって思ってたけど」
「でも、言ってね。自分でもさっきみたいな言い方、上から目線じゃないかって思ったし。何気なく喋って人を怒らせたくはない」
「いいよそんなの。うち、こうみえて、心臓に毛が生えてるってよく言われるから。…あ、そういえば…」と、香坂さんは突然話題を変えた。
「何の話?」
「今日、先生たちが話してたの聴いたん。今日、抜き打ちで避難訓練あるって」
「げっ!その話、確かなの?」
香坂さんは小さくガッツポーズして、「うち、むっちゃ耳がいいねんよ。自信もって警告できるで」とにっこり笑って言った。…え、何そのベビーフェイス、可愛いんだけど…
「おっけ、その話、伝えておく」
「広めといてな―」
…と。外見に反して、何だか可愛くて元気いっぱいだった香坂さんは、クラスの前まで来るととたんに陰鬱な表情になって、教室に入って行った。香坂さんは、友永くんと同じ若葉組らしい。廊下と教室を仕切る窓から、友永くんが自分の席から小さく手を振ってきているのが見えた。
私も手を振りかえして、桜組に向った。
抜き打ち避難訓練、というと、本当に抜き打ちだった。年間予定表を確かめてみても、「避難訓練」とは記されていない。で、避難訓練、というと、火災が起こった時の避難訓練を連想するんだけど――…
突然授業中にガラリと引き戸を開けて入ってきた黒づくめの男。バットを振り回して近くに居た女子生徒を襲う。
クラスメートたちは本当に悲鳴をあげて、男とは逆の方向から逃げようと前方の引き戸に殺到するのを、先生が落ち付かせ、さすまたを構えて男に向っていく。
「…これ、訓練だよね?」
咲真もこくりと頷いた。
さすまたをもって男を取り押さえにかかる先生があんまりにも落ち付きすぎている。その顔には、笑いをこらえるような表情すらあった。その表情に、皆は気付かずに教室から逃げだして行く。一応人の流れに着いて行ってみると、
楓組や若葉組からも人の列が流れ出ていて、階段を降りて行っていた。
グラウンドに高校の全校生徒が集結し、先生方が落ち付かせたところで、シスター校長先生がメガホンで一言。
「皆さんに伝えておくことがあります。これは、どっきりです☆」
そこから、先生方による抜き打ちの避難訓練のネタばらし。高一はぽかんと口を開けていたけど、先輩方の面々は、「やっぱそうだと思った」って感じ。去年もこんな抜き打ちがあったのね…
…すごい。香坂さんの言った通りだ。目が悪い分、聴力が異常に発達しているに違いない!
「香坂さんが…?」
心ちゃんの素直な呟きに続いて、白石一樹が皮肉げに言った。
「あぁ、あの子耳がいいよね。耳が良すぎて時々休みがちになってる子」
と、物知り顔で話しだす。一生徒の人間像について、一樹は誰よりも詳しかったりする。どこでそんな情報を手に入れてくるんだろう?
「あのさ…なんで一樹ってそんないろいろ知ってるんだよ。それって…」
「昼休み!千華達が時々ぼくのことを見捨てて食堂に行っちゃうものだから、女の子達に捕まってるんだよ。ほんと、勘弁してよね…人の悪口を言って楽しんでる子は嫌いだからさ」
まんざらでもなさそうに、しかし信じられないことを口にするこの現役モデル。ぼくそういうことよくわかんないや!って言って逃げてそうなこいつが、正義を口にするなんて。
「あんたでも、そういう当たり前の感情ってあるんだね…」
「ちょっとね、影響受けたんだ。恵鈴ちゃんからいろいろ武勇伝をきいて」
「何の武勇伝をきいたの…?」と私が訊くと、一樹は急に咳払いして私の質問を無視。
「とにかくね、その、香坂さんを気に入らない子がいたみたいで。その子の前では言いたいことも言えない、全部きかれてしまうからって」




