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三秒殺しの日常  作者: 縁碕 りんご
CASE3:ERIN
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もとからあった要素

 「………」

 『まあまあ落ち付け』

 皆、知りたいと思うだろうか?私が今、咲真の顔面に拳を突きたてようとして、顔面の変わりに画版を殴っているこのありさまの理由を。


 美術の時間になると、学校のいろんなところの風景を描こうということで、生徒は学校中に散らばる。私は気心が知れていて、一緒にいても喋ってしまうことなく、より絵に集中できる相手に着いて行って絵を描くことにしていた。

 その相手はやっぱり咲真だ。一樹はいちいち絡みついてくるし子規くんとは気まずいし心ちゃんと恵鈴ちゃんとは気心知れすぎて仲良く喋ってしまって美術の時間は終わってしまう。

 だから、咲真まで禁句の質問をしてくるとは思わなかった。


 『あのさ、子規とは…どうなったの?』


 咲真のケータイを破壊してやろうかと思った。ケータイというものは、逆パタすれば簡単に破壊できる。…それを我慢した私の拳は咲真の顔面に向うけど画版で防御されて失敗。


 「ちょ~っと大人しく殴られろ」

 『それではいわかりましたって殴られる奴はいない』

 「いいから殴られろ」

 「落ち付けって」


 仕方なく拳を下ろした。

 

 私達二人は、校舎から離れた茶道部の施設に来ていた。茶道部ということは建物はもちろん和風。中には入れないけれども、屋根の下、縁側に座って景色を描いていた。けれども今日はあいにくの雨で、絵画作業を中断している。多分、咲真はサボるんだろうと思って、一人でぼーっとする為にここに来たんだけど…

 「あのね、断るに決まってるでしょう。子規くんは良い子だし友達だけど、そういう対象にはならない。…そうちゃんと本人に言ってあるから」

 それ以来、子規くんは何も変な動きを見せず、本当に安心している。…心の中でどう思っているかが恐ろしいけど…口にも顔にも出さなければ問題はない。

 『へー…そっかあ!』

 一人になるためにここに来たのに後からこっそり着いてきたこの男…。

 こればっかりは咲真の口の動きで何を言っているのかがわかった。声が出ていたなら、弾んだ口調だっただろう。…急に機嫌が良くなったのはなぜ?そのイケメンフェイスを…皆に振りまいたらあんたの印象がどんだけ変わることか。多分、こいつの人気は赤メッシュ男や一樹達と同率一位になるだろう。しかしいくらそれを忠告してみてもこの男が訊かないことはわかっていた。

 まあ本人の為を思って言ってみたわけだけど、こちらとしてもそっちの方がありがたい。友人と歩いているだけで女から刺されかねないし。

 

 咲真がまた何か喋りたいのか、ケータイを取り出す。

 「あー、いいよ。もう口の動きで何言ってるかわかるし」

 すると安心したようにケータイをしまいこみ、咲真はよほど自分の話を理解してもらいたいのか、ゆっくりとした口調で話し始める。

 『琴峰心と、婚約破棄したって話はしたよな』

 「うん」

 『その話、琴峰からはきいたか?』

 「いいや、全く」

 『まあ俺としちゃ、全く構わなかったわけだ。…むしろ俺よりも兄貴の方が琴峰に惚れてるし』

 「…そうなの?」

 黒錐拓真と琴峰心…あまり絡みを見出せない。

 『もともとそうなるはずだったらしいぞ。親父が間違えたんだと』

 「間違えた?」

 『そう。婚約者の割り振りを間違えたんだ』

 「…いい加減だなあ、それって…神経の病気?」

 何気なく言った私の推測は当たっていた。彼の父親が患っていたのは体中の血管が詰まる病気で、最後は手も上手く動かせなくなるし、目も見えなくなる。なるほど、それで間違えたわけね…

 『先方も勘違いしたまま、俺と琴峰心を婚約させた。その時になって、「ごめんなさい、間違えてました」って言えないだろ?』

 「その話…どうして心ちゃんを保護した時に話してくれなかった?」

 ときいてみて、自分でも顔をしかめた。これは人のプライベートの範囲だ。それを本人が話してくれると期待する方がおかしい。ああやっぱり答えなくていい、と言いかけたけど、

 『あの時は、俺らの婚約者を決めた親父が、何も教えてくれずに昏睡状態になっていた。この話は、ついこないだに親父がちょっとだけ目を覚まして、話してくれたことだ…それに知っていたとしても、お前が人の秘密を守れる人間かどうか、わからなかったから。でも今は、お前は良い奴だと思ってるよ』

 さらりと言ってくれるな…でもここでいちいちひねくれる必要はない。

 「ほう…嬉しいなあ」

 『全く嬉しくなさそうだな。顔に出てこない。まあ、顔に感情が出てこないのが面白くないんだけど…お前は余計なことをきかないし、秘密をバラさないから、良い奴だ。だから人にもモテるんだろうな』

 「うーんどこをどう調整すればそんな話に飛んでいくんだ?」

 『…よし』

 こいつは人の質問に答えてくれないまま、一人で気合を入れて言った。

 『邪魔してやろう』

 「何を?」

 『お前さ、自分のことわかってる?』

 「質問の意味がわからない」

 『ラノベとかでさ…いっつも戦いまくっている女の子達を、ヒーローが次々助けていって、無意識にハーレムを作り上げる、そんな展開があるだろ?』

 「あぁ…禁書目録とかオブジェクトとかね」

 『お前さ、その逆パターンになってる気がする。…その…何と言うか、お前の何気ない人助けが、メンズの心を射止めてるって感じ?』

 「…どこをどう解釈すればそうなるのかね」

 『お前は琴峰兄妹を助けた。そのおかげで、ただでさえ肩身の狭かった家庭はよくなった。…琴峰の父親はどうも妖しいけどな。友永の自殺を止めて助けた結果、あいつがずーっとやりたかったことを、お前は実現させた。今のところ、確認できるのは二人…子規も友永も二人してダークヒロインを狙ってるぜ』

 「ダークヒロイン?狙ってる?…なんでそうなるの?」

 『お前が何かぐっとくる一言を言ってがつんと人を殴るからじゃね?』

 「それ、咲真の考えすぎじゃなくて?」

 『俺の考えすぎだったらお前、誰からも告られてねえよ』

 「だったら一樹は…?」おそるおそるきいてみた。自分でもかなり…変な質問。

 『あぁ、一樹にとってはお前はあくまで「女避け」だ。心配ないよ。だから確認できるのは二人って言ったんだ』

 …不味いなあ…


 「それは困る!!」

 『あぁ、だから邪魔してやろうって言ったんだ』

 「邪魔してくれるわけ!?」

 『俺も困るからな』

 「なんで?」

 『お前がモテるのは面白くないから』

 「面白くないの?私だって面白くないから安心して!?」



 

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