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三秒殺しの日常  作者: 縁碕 りんご
日常~4月上旬~
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お呼び出し

 入学式が行われ、その日の夕方に優子と会った夜に、謎めいたメールが咲真から届いた。

 

 なんでかわからないけど、簡潔に、私が乗る駅からの電車の発車時刻が書かれていて、「明日はこれに乗って」と指示があった。

 …何だか親切すぎないか?私は変だな~と返信する。


 『これは一体何なの!?』

 『明日の登校時間に合わせた電車の時刻表』

 『えーっと…私は、この電車の時間に乗ればいいってこと?』

 『嫌ならいいけど 俺がそっちに合わそうか』

 

 「一緒に登校する」というのは、もはや彼の中では確定事項らしかった。少々強引な気がしたけど。


 『それにしても、少々親切すぎる気がするんだけど。っていうか、友達になってから態度が激変したよね』

 『そうか?…どうせ学校への行き方まだ覚えてないだろうと思って』

 

 確かに図星だった…


 ***

 

 次の日。指定された時刻に乗ると、やっぱり次の駅から咲真が乗ってきた。咲真は全くもって喋らないし喋ることができない。私も無理に話題を引き出すことはしない。結果、二人とも一言も喋らずに時間が過ぎる。そのうち私は読書を始め、咲真はケータイのアプリで遊び始めるのだ。こんなパターンで、私達は毎日一緒に登校するようになった。

 これは楽ちんだと思う。…優子は鉄砲玉のように話題とネタを見つけ出し、べらべらとお喋りを続けていたから、たいてい聞き流してきたけど…何にも気を使わずに黙っていられるのって楽だわぁ…これが他の優子みたいな女子生徒だったら、そうはいかないだろう。だから、その点では咲真はおおいに付き合いやすかった。

 でも、ちょっとわかってきたことがある。

 咲真は、老人や目上の大人に対しては普通だ。けど、同年代の子達にだけは、あの冷たい「人殺しの視線」を向ける。同級生と一緒につるむのが嫌いな一匹狼は、それでいて私だけは例外なようで、私の前では普通の飄々とした学生そのものだ。

 黙って微笑んでいれば、癒し系男子に見えなくもないんだけど…

 彼と違って私は目つきも悪く、苛々している時はいつも…特に気が弱い子を怯えさせ、気が強い奴らには逆に凄まれてきた。いつも笑顔を心がけなければいけない私とは違って、咲真はあの殺人犯の顔を改めさえすれば、もっと友人が増えるだろうに。

 私がそう言うと、咲真はメール作成画面にこう入力してきたものだ。

 『なんでそんな面倒くさいこと…特に女は面倒だ。優しくすると媚びてくる。怒るとぎゃあぎゃあ騒ぎたてる。男はそんな面倒くさい女子パワーに影響される。皆そうだ』

 

 言っていることがなんだか面白いけど、確かにその指摘は的を射ているな。

 

 「でも、男子と一緒に弁当食べたりとかは?」

 『誘われたら行く。けど、やっぱり喉のこと聞かれるから、大勢で行動するのは好きじゃない』

 でも、お前は違うな。

 この言葉だけ、ケータイを介してではなく、彼自身の口からひゅっと吐き出された。

 何だろう?

 

 なんかすっごく嬉しいんだけど!


 「空気を読める人間は、他にもいると思うけどね」照れ隠しにそう言ったけど、はたして私の顔は嬉しさを隠し切れていただろうか。



 入学式から一週間ぐらい経って、なんとなく学校の豪華さと、授業の高度さに慣れてきた頃。生徒会役員に選ばれたという衝撃も束の間、あのイケメンが生徒会役員に招集をかけることもなく日は経過していた。私は大いにほっとした。このまま私の存在が彼の頭の中から消えてくれるといいんだけど。

 けど。

 問題はあのモデルをやっているというチビである。

 私は入学早々、あの男のせいでおおいに目立つことになってしまった。女子に囲まれて歩いていても「千華ちゃ~ん」なんて手を振ってきやがる。授業じゃ運悪く席は白石一樹の前。かなりじいっと黒板ではなく私の後頭部を見てくる。いったい何なんだお前…!

 けれど私は冷静そのものだ。廊下で堂々と声をかけられても会釈するだけで話をしない、じーっと見られても一切無視を決め込むという素晴らしい神業をやってのけている。そうでもしないとこの男のファンに刺されかねないからだ。

 私のこうした神業のおかげで、白石一樹の「親衛隊」達も、「あいつウザい」と苛々していることはあっても、本気で私に喧嘩を売ってくることはなかった。


 けど。

 

 休み明けの月曜日。いつものように咲真と登校し、教室に入りかけた時のことだった。


 ポーンポンポンポーン

 <あっぁー♪生徒の呼び出しをしまーす。高校一年桜組の沢原千華さーん、今すぐ生徒会室まできてくださーい>


 いやだ。行きたくない。最悪だ。

 「聞き覚えのある声ですね…」

 『俺が代わりに言ってやろうか…?』とケータイを指しだしてくる咲真は、どす黒いオーラを放っている。

 「いいよ別に。咲真が生徒会室に行ったら学校に救急車が出動するだろうから」

 こうした会話を交わしている間にも、あちこちから「きゃあ~っ、たっくんの声だ~」「今日もかっこいい~」と黄色い声があがっている。そのファン達のメンツを確かめてみると、誰もかれもが髪の毛をくるくるアレンジして、いかにも姫スタイルだ。金持ちの「強気系」とでもいえばいいんだろうか。


 私は思った。

 

 沢原千華が自分だとバレたら、一体何人の過激派女子が私を殺しに来るだろうか?


 

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