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三秒殺しの日常  作者: 縁碕 りんご
CASE3:ERIN
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ほら、ヒーローが来たよ

 恵鈴ちゃんについてのお話は、まだ終わらない。



 病院で一夜を明かした。病院の手当なんかいらないと思っていたのに、私は信じられないことに朝まで意識を失っていた。


 

 私は包帯で頭をグルグル巻きにし、脈が見つからないからと何故か手の甲に点滴の針を突き刺したまま、驚いて見舞いにやってきた兄さんに朝っぱらからくどくどと罵詈雑言を受けること一時間。私はそれら全てを全部聞き流すことに成功!

 ようやく兄さんが静かになって、答えられる質問をくれる。

 「でも、如月さん…だっけ?その子は、助かったんだね?どこも汚されることなく」

 「うん。あの子はまだ…うん…なにもされずに助かった」

 「頑張ってさらりと言おうとしなくていいよ。…もう動けるんだろう?点滴の針を抜いてもらったら、お見舞いに行っておいで」



 光がまぶしい朝だった。

 私はまだ針を抜かれてジンジン痛む手の甲を摩りながら、兄さんから託されたラップで包んだ「兎さんリンゴ」を入れたビニール袋をひっさげ、恵鈴ちゃんのいる病室に向う。



 「千華…」

 「やあ。お見舞いに来たよ。…それとももう私とは関わりたくないか」

 ちょっとネガティブに立ち去ろうとすると、「待ちなさいよ待ってってば!」とお嬢様のツンとしたラブコールが飛んでくる。嬉しくなって、ようやく恵鈴ちゃんのベッドの傍らに腰かけ、ビニール袋からリンゴを取り出す。

 「食べさせてあげてもいいけど」

 「大丈夫よ、手はちゃんと動くから。それより…貴方は、大丈夫なの?」

 「?頭の怪我なら…」

 「そういうことじゃないわ。貴方に何があったのか知らないけど…もう、無茶なことはしないでくれない?本当に心臓に悪いのよ」

 「無茶なことって?」

 「今回みたいに、私を…助けに来てくれたこと」

 「何のこと?あんたを助けたのは…」

 「茶化さないで!私は真剣に話しているのよ?」

 一喝され、次の瞬間両手を握られる。真剣なまなざしから目を逸らせなくなる。

 「確かに、もう誰も助けに来てくれないって思ってた。…でも…上代くんが来てくれて、本当に涙が出そうになった…彼は全然キモくなかった。それなのに、私…彼にあんな酷いことを言って。後から随分後悔したわ。彼の手は、とても綺麗だった」

 そう語る恵鈴ちゃんの目から、熱い涙がぽたりと落ちる。どうしよう…こんな時どうしていいのか私にはわからない。彼のイメージをかっこよくしたらいいの?

 「でも、上代くんを私のところまで来させたのは貴方だって…上代くんが、教えてくれた。あんな怖い人達が倉庫を見張っていたのに、貴方も…上代くんも…それでも来てくれて…」

 …いよいよどうしたらいいのかわからなくなってきた。

 「でも、貴方は私を助けに来るべきじゃなかった。余計な怪我をする必要はなかったのに、友達関係なんて、所詮軽いものだと思っていたのに!どうして、助けてくれたの?」

 「どうしてって…私が来なかったら、恵鈴ちゃん…あんなことやこんなことされてたんだよ?それでもよかったの?」

 「いいわけないじゃない!でもいくら友達だからって危険を冒して助けに来てくれる人とか、本当に私が好きだから強くもない癖に助けに来てくれる、人とか…きいたことないわよ、そんなの」

 そりゃあきいたことはないだろう。普通の女友達なら、心配はすれどテキの根城に乗り込んでいこうとするまでの根性はない。

 

 普通の女友達ならね。


 「恵鈴ちゃんが恵まれていたってことにしておいてよ、私がどれだけ無茶したかってことについては。良かったね、私みたいな強い子がいて。男の子の恋愛も叶えて、女の子から感謝されて、私ってマジでキューピッドみたいな存在じゃない?」

 「その割には体中傷だらけね。とっ、とにかく、私が言いたいのは、もう二度と昨日みたいな無茶はしないでってこと!そんな風にケンカばっかりしてたら、いつ酷い怪我するかわからないのに」

 恵鈴ちゃんは涙でぬれた両目をごしごし拭いながら、そう言い放つ。…美人ってのはどんなしぐさをしても絵になるよねえ、と関係ないことを考えていた私は、恵鈴ちゃんの言葉を理解するのに数秒かかってしまった。



 ひどい。けが。


 怪我…?私が怪我するのを心配しているの?


 あぁ、そっか。

 

 清羅学園のフレンズみたいな昼の世界の子達にとって、「ケガ」は痛くて苦しいものなんだ。

 

 そう気付いて…さらに、あの男が両足を撃たれた時に感じた、息苦しさと圧迫感の正体もわかった。

 私、血を見て怖がってた。自分の口から流れる血とか、かすり傷で垣間見える赤とか、もう慣れていたはずなのに、あの男の血を見て、怖いと思ったんだ。

 それは、痛みを想像できたから。

 

 

 「そっかぁ…」

 「何嬉しそうな顔してるの」

 余りに痛すぎて麻痺していた。ケガは痛くて苦しいものだということを、思い出した。

 

 思い出せたのはきっと、心ちゃんや恵鈴ちゃん…黒錐兄弟や子規くんと言った、「普通の友達」のおかげなんだろう。やっぱり、何もない当たり前の日常は、一番大切なんだ。

 「早く兎さんリンゴ食べちゃって。もう酸化しはじめてる」

 「やだ、大変!」

 打ち身や打撲の傷が響いて、顔を引き攣らせながらも、リンゴを手にとってくれる。フォークはまだ体力的に使えなかった。まだ何か言いたそうにこっちを見るけど無視。

 そうして、恵鈴ちゃんが静かにもぐもぐ食べ始めた時。


 「如月さん…?」

 片腕を太いギプスでぶら下げた、冴えない高校生の声。遠慮がちにノックしている。私は軽く冷やかしてやった。


 「ほら、ヒーローが来たよ」


 

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