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三秒殺しの日常  作者: 縁碕 りんご
CASE3:ERIN
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レッドゾーン

 どうにかアリスを説得した。千里兄さんには後で説教を受けることにして、私は安全地帯じぶんのいえを出る。

 連中はいちいち場所まで指定してくれた。場所は、あの日千里兄さんが、ぼろぼろになった琴峰心を拾った公園だった。もうすっかり夜になっていたし、後ろからの奇襲とか、不意打ちを警戒しながら、私は慎重に進んでいく。

 胸のうちでふくらむのは殺意だ。

 着信メールにあった音声を…如月恵鈴の苦痛の叫び声を聴いて、息の根を止めてやろうと思った。それぐらい私は短気で、すぐに人の挑発にのせられてしまう。…でもまあ、それで構わない。それで私は、己の欲求を満たしてきたのだから。

 私はもうこの街の「番長」じゃない。だから、下手に助力は求められないだろう。別にいい。彼らが麻薬を吸わずに大人に騙されずに生きていってくれるのなら。


 いろんなことを考えながら、公園に辿りつくと、煮詰めたような闇の中に、潜む人間がいた。私は静かに数を数えていく。ひとり、ふたり、さんにん…人数多いな、やっぱり。ご、ろく…

 「――――――――――七人」

 

 私はとっさにしゃがんで、後ろから襲い来る金属バットを躱した。そのまま振り向きざまに無防備な腹に手刀を突きいれる。簡単にバランスを崩した男が倒れてくるのを横に転がって回避し、手放された金属バットを奪って敵の頭を殴った。

 簡単に男は気絶してくれた。

 「…撲殺していないといいんだけど、ね。…おい、出てこい」

 私は闇の中へ呼びかけた。別にこいつみたいにしてやるつもりもなかった。

 「私を捕まえたかったんでしょ。さっさと案内してよ」

 バットを落とし、丸腰になる。何も武器を持っていないことを示す為に、わざと大きく両手を広げた。すると、七人のうち三人が、まだ警戒を緩めないまま、闇の中から踏みだしてくる。…あの時電車の中で現れたナンパ師達だった。変だな、そのうちの一人だけ、顔ぶれが違うけど。

 …何故だろう。

 一瞬、その三人が死神のように見えた。

 「気持ちはわかるが、そう焦るなよ」一人が嫌な笑みを浮かべて言った。

 「トモダチだっけ?きけばお前…こっち側から足を洗ったそうじゃないか。どこにいるかあいつらに教えてもらおうと思ったんだけどな~…なかなか上手くいかなかったよ」

 「…私の居場所が知りたくて、あの子達をボコったってこと?」

 あの子たち、あいつら、とは、いきがってはいるけどまだ幼い、繁華街の隅に溜まっている少年たちのことだ。…質問しているのに、こいつらは三人一様に、嫌な笑みを浮かべて答えない。きっとその顔は、私の言ったことが正解だってこと。

 握りこぶしが痛い。自分をなだめるって大変だ…まだ我慢、まだ我慢。


 必要なことが聴けていない。


 「欲しいものは何」

 「最初は、金だったな。後は…身内への思いやり。身内が如月恵鈴とヤりたがってたし。知ってるか?あいつ写真までコレクションしてんだってさ。ま、後はクスリ漬けにするつもりだった」

 「…で?」

 「合法だよ。法律に違反してねえんだし」…つまり脱法ハーブってことだ。

 「でもなー、如月恵鈴のケータイ見せてもらって、目的は変えることにした。…まさか、ケータイに三秒殺しのメアドと電話番号が登録してあるなんて思わなかったし」

 「素敵な接点ですねー。こっちから足を洗って、もうお友達ができたんだと」


 「要するにな、今の目的は、三秒殺しを殺ることだ」


 ぞわっと殺気がきた。六人全員が、私に全方位から飛びかかろうと、少しずつ動き始めている。

 「お嬢さんの無事な顔を見せてもらえるとでも思ったか?いや、もちろん案内してやるつもりだよ?…でもな、その前に…あの時の借りをここでお前に返す。


 ――――――――――…お前はここで俺らがボコボコにしてから、お嬢さんのところに行かせてやるよ」


 お決まりのナイフきたー。しかもしっかり手袋してるから後でこいつが逮捕されることもないってか。やっぱりねー、刺されるのはごめんだよねー。

 学長に使った同じ手が、こいつに通じないはずはない。私はナイフの軌道が近づいてくる前に自ら敵の懐に入り、振り回された敵のナイフを握る腕…関節に手刀を突っ込んだ。簡単にこいつの手はどこも傷つけないまま折れ曲がり、スピードが遅くなるのを狙ってさらに腹に蹴りを入れる。

 そのままナイフを奪って刃の部分が当たらないようにしながら、振り返りざまに後に迫っていた敵の喉元を払った。喉が傷ついたと思いこんだ敵2号が地面に崩れ落ちるのを、頭を蹴って地面に倒す。そのまま目の前の敵1号の頭を髪の毛ごと掴んで3人目と頭をごっつんさせる。

 「…おい、お前らだけになったけど?」

 「だよな、三秒殺しは強いんだもの」

 私がそのままずんずん接近していっても、顔色一つ変えない。私はこの時勝利を確信していた。…しながらも、そいつらが何か持っていないかについて気を配っているつもりだった。 

 でも。だからこそ。


 バチバチバチッ!!


 「っうぁっ…!?」

 よろよろと立ちあがったボロボロの敵に、スタンガンを押し当てられるとは思わなかった。しかも感電したら無茶苦茶痛い位置、腰…

 がくんと体のバランスが崩れた。

 

 (ま…ずい…)

 意識が落ちるのに数秒だった。

 聴こえてくるのは、奴らの高笑いと、ひとつの言葉。


 「泣いて死ねよ」


 

 しね…






 「はいおしまい。あとはお前らだけ」

「ちくしょおっ…なんでっ…なんで勝てねえんだよお!!!」

 「知らない。お前らが絡んでくるから私は正当防衛しているだけ。可哀そうだよねえ、あの女の子達…」

 私は振り回された拳を掴み、逆に地面に沈めた。

 「私はお前らが大っきらいだ。だから…

 

               ―――――――泣いて死ね」

 

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