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三秒殺しの日常  作者: 縁碕 りんご
日常~6月上旬~
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女々しく考える

「おはようございます、千華さん」

 「…おはよう」

 努めて彼を無視しないようにした。下手に避けると、咲真あたりが勘づいて、何があったのかいちいち聞いてくるから。一樹も面白いネタを見つけたと喜ぶに違いない。私はちっとも嬉しくないのに!


 子規くんは良い子だ。多分、自分のやったことを咲真や心ちゃん達にべらべら喋ったりしない。そこまで軽々しい子じゃない。その推測はおおむねあたっていたようで、もし全てを知っていたなら喜んでネタを探ろうとしてくるはずの一樹は普通だった。心ちゃんも何も知らないみたいで。咲真も普通だった。…おおいにほっとした。

 もしあのバカホストや変態モデルのように彼が軽々しい男だったら、すでに私は一ヶ月以上前から彼をボコボコにしなければならなかったはずだ。それに、子規が私に変な態度をとったことなどなかったからなおさら安心してしまった。

 恋愛ね…


 暴力的な性欲をもった男を潰した記憶しか思い浮かばない。


 無理やり男にのしかかられて、半殺しにしたことがある。その時は警察に呼ばれ、何時間も取り調べを受けたけど、結局正当防衛、無罪放免で済んだ。私が一方的に「オヤジ狩りをした」と誤解されないように、頬をわざと殴られてから股間を蹴りあげたから。後他にも…半分オヤジ狩りと変わらない、「女の敵」を一生歩けなくしたり、腕を折ったりしてきた為に、いつも警察官に補導されそうになり、「やりすぎ」と言われ続けてきたものだ。


 でも、今回はそんな暴力沙汰は一切関係ない…困った。多分彼は真剣だろう。振られることも覚悟しているはずだ。だからこそ、周りに下手に言いふらしたりしないんだ。命に関わる大怪我を負ったり火傷を負ったりしたことは少なからずあるけど、告白を受けたことはない。だから、どうしていいのかわからない。

 …ダメ。全く授業に集中できない。授業中にあてられたりしなかったのが幸いだった。


 顔に出てませんように。

 

 彼に対する返事は、「ノー」だ。子規を良い友達だと思うことはあっても…恋愛対象にはならない。はっきり言えばいいんだ。

 にも関わらず。


 私はそうやってはっきり言ってしまうことが怖かった。子規はまた傷ついてしまうんじゃないか?私はずるい女だろう。もしずるくなかったら…子規とは友達でいたくないと告げ、距離をとる。でも私は、そうすることができない。

 そこでモテまくって告白され、断り続けてきた楓組の如月恵鈴ちゃんを思い出した。あの子なら、恵鈴ちゃんなら、高飛車な口調で私の話を聞いてくれるだろう。このままでは、気まずくてずっと子規を避け続けてしまうかもしれない。本当におかしいよね、私はそこまで美人じゃないと思うんだけど。

 

 

 「はあ~…告白ねえ~…」

 食堂の、できるだけ目立たない片隅のテーブルで、案の定恵鈴ちゃんは「あんたの気持ちわかる」って感じでため息をついて私を見た。またしても恵鈴ちゃんに奢ってもらった食事はすでに食べ終わり、目の前には空になったお皿とコップだけが置いてある。…金関係はしっかりしないとな。

 「私もね、最初どうしていいのかわからなかったのよ。結局フッたけど。でもびっくりしたわ、千華って男らしくてあっさりしているのに、こういうことで悩むあたり、やっぱり女の子なのね」

 「女らしいことは一切してこなかったけど、生物学的には」

 「それで、千華は子規が好きなの?」

 「友達としてね。恋愛対象にはならない」

 「そんなこと、できるだけあの女の子達に言わないようにね。刺されるかもしれないから」と恵鈴は笑って言ってくれる。私は真顔で「気をつける」と答えた。

 「子規くんには普通に接してあげなさい。もちろん、メールできちんと断っておくこと。いい、メールで男をフッた翌日から子規くんを避けるようなことだけはやめなさいね」

 「ありがとう…でも恵鈴だって、男が絡むと冷たくない?それを責め立てる気はないんだけど」

 「あのね、告白が何度も何度も続いたら、きっと貴方だってうんざりするはずよ。それも、顔と体型だけで「俺のタイプ」って勝手に決め付ける輩が、私に絡んでくる。皆、私の心や中身を見ようとせずに、外見だけで判断するのよ。

 …その点、貴方はまだ恵まれているわ。きっと子規くんは、真剣に貴方が好きなのね」

 「そういうのって、わかるものなの?」

 「分かるわよ。時々桜組にもお邪魔しているし、それで貴方の周りのお友達もよく見かけるし…だって、子規くんが貴方を見る目つきって、単なる可愛い子を見つけたってレベルじゃない。貴方に憧れているし、恋しているし、切ないのよ」

 それを聞いて、こっちは哀しくなった。別に自分はあいつを助けたわけじゃないのに。っていうか、子規くんがそこまで真剣になるほど私は理想の女性じゃない。暴力に暴力を重ねてきたこの私に…

 ―――恋しているだって?

 「はは…こちらに恋愛感情はないもの。傷つける度合いは最小限にとどめないといけないから。ありがとう、今日は話を聞いてくれて。…そうだ、恵鈴ちゃんは何か変わったことはない?」

 恵鈴ちゃんの言うとおり、無駄に避ける必要はないんだ…メールできちんと断り、翌日から普通に接していればいい。きっとそれが一番いい。解決法がわかったなら充分だ。そう結論づけた私は、強引に話題を変えることにする。

 「あぁ…私?そうね…この学校の生徒じゃないんだけど…ほら、一緒に遊びに行った時のことを覚えてる?千華の服を買ってあげる為に。その時電車の中でナンパしてきた連中がいたでしょう?貴方が追い払ってくれたけど」

 頷くと、恵鈴は身を乗り出し、声をひそめて話し続ける。


 「実は私、そいつらの一人にストーカーされて困っているのよ。聞いてくれる?」

 「えっ!?」

 

 やっぱりダメだ。一般人になって、ケンカの技術を忘れることなんて、できそうにない。


 「電車通学…家から送ってもらえば、いいんじゃない?」

 「それがダメなの。どうしてか知らないけど清羅学園に通っていることがバレた。…もちろん、送り迎えをお願いしているけれど、運転手さんに校門をくぐって迎えに来てもらわないと怖くて。校門で待ち伏せされてるのよ。

 メアドや番号も教えていないのに、どこからか聞きだして、気味悪いメールが送られてくる。ケータイも、知らない番号からずっと…」

 そう言って差し出されたスマホの着信記録には、同じ番号がずらりと画面一面に並んでいた。

 「メアドは何度も変えたわ。でもその都度バレてしまう…」

 また見せられた受信メールの画面には、「愛してる」という文字が画面いっぱいに綴られていたり、「俺を家に招待してください」といった内容のメールが何通も送られてきたり、「お前には俺しかいない、誰とも付き合うな、逆らったら殺す」といった脅迫メール。

 「警察には?」

 「昨日連絡したわ。幸い私の家は余裕があるから…警察官が一人見張りについてくれるそうよ。だから今、安心して貴方だけにこの話ができたの」

 「そっか~…何かできること…多分無いと思うけど、あったら言ってね。お互い大変だね…大変のレベルが違うけど」と、私はいろいろ失言を誤魔化しながら答えた。大変のレベルは確かに違う。ストーカーと純粋なる告白を比べちゃいけないんだった。

 

 …でも。この時、嫌な予感がした。


 「本当に、何かできることがあったら、言ってね」

 

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