次なる夏へ
灰色と赤色と黒色が薄れていく。明るい黄色が出てきた。
明るい色達は混ざり合って、希望を造りだす。
***
「オープンデ-か…」
「清羅学園に入学したいって金持ちと、無茶苦茶勉強できる普通の人達が校舎見学しに来るんだよね」
「私が一年半かけてきた地獄の勉強をあの特待生候補達がやっているっていうの…?」
「……(ぽん、と私の肩に手をおいてきた)」
まあ、それぞれの発言が誰のものかわかるでしょう。
学校が一般に向けて(学園としては珍しく金をとらず)に開放し、受験生達が校舎見学、授業見学をして、説明会に出向く。…普段授業中に好き放題している金持ちどもが珍しく真剣に授業をきく、数少ない日のひとつ。
「海外からも来てるんだっけ~」
「帰国子女の人とかもね」
…はっきり言って、あの試験に挑戦する特待生候補の受験勉強は地獄と言っていいだろう。寝不足が続き、苛々の余り私の目の前で平気でナンパにいそしみ、遊びを敢行し、脱法ハーブを売りつけてくる男達を救急車に乗せた日々…
あれはあれでやりすぎな気晴らしだったな…と考えていると、
「オープンデーの次は文化祭の準備ですよね」という子規の声で一気に現実に引き戻された。
「文化祭っ?」
中学の文化祭は余りにも低レベルでくだらなすぎてつまらなすぎた記憶が…出身校がひたすらに荒れていたからな…まともな完成した文化祭って?
「学生生活鉄板の恒例行事で何を驚いてるの?」と一樹に聞かれ、私はちょっと自分が恥ずかしくなった。
「ううん…文化祭なら、また生徒会の仕事増えるなって思って…」
「仕方ないよ。僕なんかモデルの仕事と並行して生徒会の仕事やってるんだよ?」
と言われ、はっと我に返る。そうだった。なんだかんだいいながら、こいつはそういった時間の使い方をしっかり心得ているんだった…
「バカにしてた。ごめん」
「知ってる」ふっと笑って、一樹はちらりと子規を見た。
「ところで子規って、ミスダンディコンテストに出るって本当?」
子規がむっとした様子で一樹を見つめ返し、「…そうですけど何か」と小さく答えた。
「お兄ちゃん、私より女の子らしいもんね…」と心ちゃんがしゅんと俯く。そんなことないぞ同率一位だぞ二人とも!と頭を撫でてあげたくなった…が。
「優勝決定だね、子規なら」何だか皮肉の籠った言葉。
このシチュエーションは気に入らない。
「ちょっと。あんた、子規に何か恨みでもあるの?」
「…別にぃ。ないけど」
「言いたいことがあったら面と向かって言うことだね」
「いいんです、千華さん。ぼくと白石くんはただ、ちょっと合わないだけで」と、子規は俯き加減に微笑みかけてくる。…ん?なんだか子規くんの私に対する視線が…
私の脳が変な違和感をキャッチした瞬間、
チャイムが鳴り、私の周りに集まってきていた奴らは散って行く。
…何だか、すごくエロかったような?
***
案の定、一週間後のオープンデーに向けたパンフレット作りに生徒会が一枚噛むことになった。受験用のパンフレットくらい先生たちが作成するべきだと思うんだけど、この学校は「できるだけ重要な仕事を生徒に任せる」ことが特徴らしく。しかも生徒会長の写真とコメントが載るとなると、在学生が受験生からパンフを奪っていってしまうんじゃないかと私は真剣に心配していた。
でも、私達にとってオープンデーは余り重要ではない。本当に重要なのは文化祭の準備だ。
一年桜組が何をやるかというと。
「……」
『何を血の涙でも流しそうな目で見てるんだよ』
「うるさい。…いろいろ間違っていると思うんだ文化祭のテーマ!なんで学校側が邪魔しないのかな」
『執事&メイド喫茶ね~…』
最近こいつの口パクが何を言っているのかすっかり分かってきた私が哀しい…
「いいじゃないですか。ジャパニーズモエ―はぼくも好き」
「お前はいいよな他人事だから!」
アリスにとってはまさに、対岸の火事、ってことだ。対岸の火事という言葉の意味をアリスが知っているといいんだけど。
燕尾服か何か…私の周りのイケメンズ達は似合うだろう。メイド服は心ちゃんもきっと可愛らしいに違いない。でも他人のを傍観しているのと自分が関わることになるのとはまた話は別。
メイド服なんか着たくもないのになんで私は参加確定してるんだよマジで冗談じゃねえし!
…と、咲真の前で固いコンクリートの壁に拳を突きいれるわけにもいかず。私はぶつぶつ言いながら男二人に引きずられて今日も帰宅する。
文句を呪詛のように吐き出しながら家に帰ると、エプロンが似合いすぎた千里兄さんが満面の笑みで迎えてくれた。両手にはクラッカーを持っている。…なんか今日あるっけ?と、私はアリスを見上げてみた。…するとアリスは逆に驚いて、「セン、知らなかったの?」と悲しそうに訊いてくる。
「何が?」
「今日はアリスの誕生日なんだよ、千華!ダメじゃないか、友達の誕生日を忘れたら!」
「え…あ、そうだっけ…?」
「…(泣)」
「あっ、あーっごめんってアリス!だから玄関に入らずにこの場でしゃがみ込まないでーっ!!」




