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三秒殺しの日常  作者: 縁碕 りんご
日常~6月上旬~
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買い物日和

 お洒落というものにはとんと興味がない。昼間は清羅学園のハイセンスな制服。夜は普段着&寝巻と化しているジャージ。宿題をできるだけ効率よく消化し、時たま、いくら方向音痴だといっても何年も暮らしていれば勝手は理解してしまう町を彷徨い、コンビニで買い食いしていたりする。

 それが、かつて不良の頂点に立った三秒殺しコノワタシの、現在の日常だ。

 兄さんは私を(必要以上に)気にかけるけど、アリスのことを気にしたりはしない。いちいち注意しなくても、アリスは勉強して、私達の家に帰ってきて、ときたまベランダで格闘訓練しているかテレビを見て爆笑する。…出来すぎた子だと思う。

 

 清羅学園に入学してから早二ヶ月は経ち、6月に突入した。…急速な勢いで友人は増え続けている。そしてついに。

 私のファッションへの興味のなさを危惧する友人が現れた。


 「お洒落に興味ないなんてもったいない!」

 「そうですよ、せっかく恵まれた体を持ってるんですから、それを活かさないと!」

 

 何故か琴峰心ちゃんまで同じことを言い始める。ってか恵まれた体ってなんだ、私はモデル体型なんかしていないんだけど。…この会話は学校の休憩時間の時のもの。私が学校がない時、どんな格好で生活しているか、を話してしまった結果起きたことだ。

 「よそいきの服とか、持ってないの?」

 「…今まであまり出かけたことがないんだけど…なんかダメなの?」

 「ダメですよ!千華さんなのに…すごくもったいない…」

 「じゃあこの休日に三人で買い物しない?千華のコーディネートを決めないと。女が万年ジャージなんて…ちょっと可笑しいわよね」

 「そうですね…」


 こんなことを言いやがった犯人はもちろん、恵鈴ちゃんです…。


 ***


 服がないわけじゃない。

 ホストの菱川大輔にいろいろ聞きこみに行った時、ジャージではさすがにホストクラブの前では目立つので、散々探した結果、結局制服の長袖と、普通のスカートと、ブーツとニ―ソで誤魔化して出かけていったもの。…それでも制服と私服を組み合わせているあたり、私はセンスがないんだろうけど…

 あまり家に余裕がないって言ったら、二人とも「大丈夫!金に糸目はつけない!」と鷹揚に頷いてくれてがっくりときた。

 「千華さんにはいろいろお世話になってますから」

 「私の話を聞いてくれるのって、貴方ぐらいのものよ」

 …お世話になってるって、私何かしたっけ。後恵鈴ちゃんが話を聞いてもらえないのは、その口調に問題があるんだと思う。

 

 とぐだぐだ言っても始まらず。結局私は、カッターシャツと普通のスカートとブーツを装着して住み慣れた町から電車で乗り継ぎ、大きな駅の改札口前に立っていた。ここで二人と合流して、最近オープンしたばかりのファッションビルに行く予定だった。

 私も気のせいかうきうきしている。…太陽の下でのまともな活動が、ひさしぶりだからかもしれない。

 

 「お待たせしました」

 「おぉ、おはよう心ちゃん」

 来た来た―。ストレート長髪黒髪美少女やってきたー。ピンクのワンピースに白いカーディガンか、いいよね。…服の名称なんてわからないんだけどね。ほら皆が見てる、あの子可愛いって。

 心ちゃんとしばらく待っていると、驚くほど綺麗な足取りで恵鈴ちゃんがやってくる。…ファッションセンスがいいってことは、全く関心のない私でもわかった。…ほら道行く男達がさらに興奮してる。そうだよね、だってボンキュッボンが目の前を通り過ぎていくんだもんね。

 …ほんとにこんな美人達を連れていくわけ…いや、美人たちに連れて行ってもらうわけか。…ナンパに目をつけられそうで面倒になってきた。


 …そして目をつけられた。

 「ねー、そこのお姉さん達3人?」

 「俺らと一緒に遊ばない?」

 

 「…車両変えるか、二人とも」

 私は自分でも感情が消え去り、せっかく仮面を張りつけていたマイフェイスが無表情になっていくのがわかった。そんな私の呼びかけに深く頷いてくれるお嬢さんたち。だけどナンパ師三人方は私達の行く手を塞ぐように回り込んだ。


 さっきから私の顔をじろじろ見てきた一人が、ようやく何かに気付いてくれたけど…残りの二人は気付いていない。

 「ちょっとおい!止めとけって!」

 「え~、なんでだよ?この子だって強気系…」

 「違う!こいつ三秒殺しだ!」

 「は?…えっ?三秒殺し?」

 やっと気付いてくれた二人が蒼ざめていく。私は拳を握ったり開いたりしてみせ、古傷だらけの手をことさらに見せつけた。

 「すっ…すみませんでしたあっ!」

 

 …昔の威光がこんなところで役に立つとは。でもあいつら、どっかで見たことあるような…


 「す…すごい。千華さん、睨みつけただけであの人達逃げていきました!」

 「でもなんなの?三秒殺しって、貴方のことなの?」

 と質問攻めにしてくるお嬢さん二人。

 「うーん…私の名前を知っているってことは、夜もいろいろやらかしてる人達だと思う。確かにあの変なあだなは私のことだよ。でも、あんまりそれは聞かないでほしい。私の過去ってドラマにできるぐらいにシリアスだから」

 人を殴り倒し、震えながら命乞いをしてくる弱者の目を見た時の高揚感と満足感。大人達にボロボロにされながらも必死に生きる女達への苛立ちと大人への憎しみ。

 私はニ度と、あの日々には戻りたくない。


 ***


 服を買う、とは言っていたけど、11時という微妙な時間帯だったので、空いている間にレストランに入ろう、ということになった。私は普通にマックとかスターバックスに足が向いたけど、恵鈴ちゃんと心ちゃんにひきずり戻される。

 「あそこじゃないわよ。今日はお金のない千華ちゃんの為におごってあげるから」

 「今から行くところは、パスタがとっても美味しいんです」

 

 …お金持ちお嬢様に翻弄される貧乏人、私は、そのまま高級そうなレストランに引きずり込まれて美味しすぎるカルボナーラスパゲティを食べること一時間。(二人は驚くほどよく食べ、会計は2万を超えていた。あっさり「カードでお願いします」なんて。うそでしょ…)

 


 「ほえー。まさか私がここに来るとは…」

 6月に入り、夏物が出ているお店の数々。…すっげー、女の子らし―、可愛えー。…皆センスがいいってことは分かっている。だけどカットソーとか、スキニーとか、デニムとかニットとか、それぞれの服の種類にも名前があるらしくて、よくわからない。ジーンズを指してデニムということぐらいしか…

 「千華が試着するのが面倒くさいってことはちゃんとわかってるわ。…店員さーん!」

 鷹揚に私に微笑みかけてきて、店員を呼んでくる美少女ハーフ恵鈴。そして店員さんに向ってとんでもないことを言った。


 「この場所にあるもの、全部頂くわ。如月花蓮の名前で」

 

 …え?

 「ちょっと待って恵鈴ちゃん!それはどうやって持ち帰るつもり?」

 「決まってるじゃない。すでに車は手配させてあるわ。後で貴方の住所を教えてくれる?そっちに宅配便で送るから」

 「待って待ってどうしてそんなに話がすいすいと!」

 「もちろん、持ち帰れるものは持ち帰ってもらうわよ。それで来年の合コンパーティーの時は私が指示した通りのコーディネートで登校しなさいね。来年から街中で見かけるような、お洒落な服装がOKになったから」

 「そして来年のパーティーに私は参加確定しているわけ!?」

 「…参加してもらいますよ。私達が味わう苦しみを、千華さんにも味わっていただかなきゃいけません。男というハイエナから守っていただかなくては」

 ブラック心が降臨してる…!


 

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