それでも親だ
お気に入り登録は小説家になろうのアカウントがないと反映されない…これって間違ってると思います。
奏は、父親に面と向かってこう言った。
僕は、この家を出ていきたい。と。
***
「……ねえねえ咲真」
「?」
「この子規と一樹の不機嫌具合は何?何二人して睨みあってるの?」
咲真は黙って微笑むばかり。けど欠片も笑っていないその目は、じっと不機嫌そうな二人に向けられていた。
『多分お前は知る必要はないかも』
六月の球技大会の前に、中間テストはあった。
友永くんは、母方の実家からこの学校に通い続けることになった。停学処分が取り消された水瀬透に友永家から正式に謝罪があり、多額の示談金が贈られ、さらに友永くん本人が事情を話して、正座して謝罪したという。
水瀬透と菱川大輔が知り合いだなんて思わなかったけど、実はfacebookのアメリカンバスケのコミュニティを通じて相互の友達登録をしていたらしく、いつかあいつと本場の試合を見に行けたらいいなあと、大輔は明るく笑っていた。「写真」が撮られたあの日にも、大輔が水瀬くんの家に遊びに行って、テレビ生中継の「本場の試合」を一緒に見ていたという。
まあ、顔が見える同姓の友達に、「リアルで会わない!?」って誘うのは大輔らしいね。
「沢原さん」
「おー、友永くん」
廊下ですれ違う度に声をかけてもらえるくらいの友人登録はしてもらえたらしい。おかげで私がメス豚に睨まれまくっているけど気にしない。
「あ…あの、さ…」
…何故か今、現在進行形で女装子規と同じくもじもじして「千華」って呼んでもいいかって言ってきた。全然構わないけど、なんでそんなにもじもじする必要があって、
「……」
…現在進行形で私は咲真に殺人ビームを浴びているんだろう。
「?咲真?」
不機嫌そうな眼差しに気付いた友永奏が、ふーん?と意地悪そうに笑った。
「ねえ千華ちゃん。どうして黒錐くんは苛々してるんだろうね?」
「…さあ?」
「あのね、黒錐くん。実は、助けてもらった夜に…あいたっ」
あれかあ!!あの日屋上から一蓮托生でプールに落ちて…必然的な…ああああああああああああ!!!なんで私がこんなに素早く反応しないといけないわけ!?
「それ以上言ったらお前を文字通り壁の花にしてやる、それでもいいか?」
「わ~千華ちゃんが怒った~」
…さすがバスケ選手。逃げ脚が早い。…もう、頬が赤くなっていないか心配だ。その後で、咲真がころっと機嫌を直したのがわかった。…こういうシチュエーションだけはよくわからない。
中間テストが終わったすぐ後にも予定はあった。
「……」
「おーっ、来た来た姐さん!さあさあどうぞこちらへ!」
「大輔テンション高い。黙れ」
「めっずらしー…あんたの目の下にクマができるなんてね。マジで勉強してるんだ」
「優子。あんた今高卒認定目指してるんでしょ。あんたこそ目の下にクマできてるけどギャルメイクで隠し切れてない」
「うっさい!これはまだマシなの!あんたは化粧してないからあたしより酷いの!」
「まあまあ。せっかくの5人の再会じゃないですか」
「訊いて、俺オーディションに受かったんだよ!これでテレビに出られっかなあ!」
それぞれがラーメン食堂で勝手な話を展開する、ミニ同窓会(って言っていいのか…?)が開かれましたとさ。
「あのさ、姐さん」
「何」
「あの時、俺をぶん殴ってくれてありがと」
「何だよいきなり?」
「だって俺、あの時姐さんに止めてもらわなかったら、本当に母親を殺してたもん。俺にずーっと勉強勉強って言って、サッカーボールの空気抜いて捨てやがった奴が、今は病気なんだ。今さら後悔してくれたらしくて、いきなり謝ってきて」
「病気?大丈夫なの?」
大輔は苦笑したまま言葉を濁す。当たり前だけど、どうやらいろんな意味で大丈夫じゃないらしい。
「俺がホストになった時も、この恩知らず、お前なんか要らないって。また殺してやりたいって思ったけど…また姐さんに殴られて目が覚めた。
…それでも、母親なんだ。どんなにムカついても、どんなに死ねばいいと思っても…あのババアは、俺の母親なんだ」
友永くんにも、いつかきっと、そんなふうに思う日がくるだろう。あの親子が嘘つき親子じゃなくて、普通の親子になれれば…
かつて殺伐とした目で私を睨みつけていたその顔は、もはや私を見てはいない。公園のベンチで、大輔は静かに噴水を見つめ続けていたけど、その目にはもう殺気はなかった。私と違ってケンカの技術を忘れた彼の手の傷は、消え失せている。
「バ…母さんが病気になってからやっとわかった。俺がどれだけ苦労かけてきたか、心配させてきたか。沢原千華が止めてくれたから、俺はここにいられたし、母さんの気持ちがわかったんだ。
だから、あんたはずーっと俺の姐さんだよ。本当に、ありがとう…」
…素行の悪さから退学寸前、中学で何度か留年させられて、卒業間際には私より年上の17になっていた奴の言葉とはとても思えない。
私も大輔も優子も、自分を変えることに成功したんだ。…あ、私は違うか。だって本当に自分を変えられたなら、ケンカの技術なんか忘れているし。
***
「いっけ~!」
「桜組頑張って~!」
…球技大会の応援が空しくなった。…文字通りバッファローのごとく突進してくる友永奏に、人が弾き飛ばされていくような幻覚が視える。私が思い切りブロックしようとして。あっさりとかわされ、シュートを入れられてしまった。
シュートを入れる時に一瞬だけ目が合ったけど。
普段のネガティブっぷりはどこへやら、その目は確かにキラキラと輝いて、口元は小さく笑っていて、かなり驚いたのは覚えている。
…悔しいけど、かっこよかった。




