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三秒殺しの日常  作者: 縁碕 りんご
CASE2:KANADE
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よし決めた

 

 水瀬透のやったことを思えば、退学は当然の報いといっていいのかもしれない。礼儀作法を総合学習の時間に教えてくれるくらいに、ケンカひとつ許されない清羅学園で、男子が男子に殴りかかること自体が自殺行為だった。…でもどうして、即退学処分じゃなくて、遠まわしに自主退学を進めるんだろう?


 昨日友永くんは熱を出しながらも、バスケを続けたい、という自分の意思を見出せていたじゃないか。何をどうしたら一夜のうちにこんなに事が急展開するんだ。

 まさかこの段階で、


 -『全部お前のせいだ!』



 チームメイトに何をしたっていうんだ…?



 水瀬透の退学騒動の顛末は、なんとも胡散臭いものだった。何も知らない第三者が、清羅学園の生徒が不良達とつるんで夜の繁華街を歩いている「証拠写真」を捉えて清羅学園へメールで送り、その写真に写っている生徒が「水瀬透」とみなされたという。そのことで生徒指導室に呼び出され、停学処分を命じられた彼は、戻ってくると突然友永奏に殴りかかったらしい。

 なんて裏情報を、私は昼休みに同じ桜組の浅井遼太郎から耳にした。

 「…くっさい。その第三者って、実は水瀬透のことが嫌いだったって奴じゃないの?即断即決で「この生徒だ!」ってわかるもんなのかな?」

 「真相は闇の中、って奴だ。…本当に何が合ったかなんてさっぱりわかんねえ。俺らからして分かったのは、突然水瀬透が今日になって停学処分を命じられ、突然友永に飛びかかって、さらに処罰が重くなったってことだ」

 「…あいつはそこまで汚い奴でもないと思うんだけど。…どうして友永くん、殴られてもやり返さなかったの?」

 「そこだよ!あいつ、平和主義すぎるんだ。あいつが本気出したらそれこそ止めに入る教師が一人じゃすまないっていうのに」


 その日、友永奏は早退。水瀬透も、そのまま早退させられたと訊いた。


 怖くなった。


 あの時見てしまった、彼の虚ろな瞳が。

 

 怖い親の暴力。彼が強制されてきたこと。彼が望んできたこと。その全てが、闇に沈んでいく。



 授業中に3分間だけ考えた。


  

 彼は明日学校に来るだろうか。何があったのか、今回は教えてくれないかもしれない。赤メッシュ男に訊けばわかるだろうか?

 これ以上関わらない方がいいのか?人の願いに協力してあげたいと思うのは、お人よしなことか?


 …ううん、違う。


 私がこのことに首を突っ込みたくなるのは、あの時飛び降りようとした彼を見てしまったからだ。彼の自殺を止める為に理屈をこねくり回した結果、服に隠された痣や傷を見せられ、過去のシリアスなネタを知ってしまったからだ。

 バカもいいところだろう、普通の人間なら「もう関わらない方がいい」と思うのが当たり前なのに。


 でもだめだ。


 親の期待に答えられないと感じた子供は、自分で自分を壊していく。常に従順だったのに、いきなりバットを振り回して親を殺しにかかるかもしれない。突然犯罪者になってしまうかもしれない。バットを振り回すその日を迎えてしまったら、後は転がり落ちていくのみ。私はそんなバカを一人だけ知っていた。

 ほんと、友永くんのお父さんは歪んでいる。子供が差別されてほしくないから様々なことをあいつに強制した。こうでもしないと世間から“子供が”白い目で見られると思いこんで。結果、あのネガティブボーイもお父さんと同じく歪んでいっている。

 …多分、水瀬くんの退学騒動には、絶対友永の家が一枚噛んでる。いきなり水瀬くんが「お前のせいだ!」って言ったことがひっかかる。

 

 …明日は絶対、あの超絶ネガティブアルビノボーイを捕まえて、住所を訊きださなくちゃ。


 

 家に帰ると、あの温厚外人アラステアとシスコン千里兄さんがいつも通り迎えてくれた。いつもなら一緒に帰っているけど、今日は私が国立大志望者向けの補習授業を受けていたから、咲真も先に帰り、帰宅が遅くなった。…側にいるイケメンがいなくておおいに助かったけど。

 だって気付いてるのかな二人ともいつも通学の度に道行く女の方々がこっちを向いて「何あの人ちょーかっこいいきゃー!」って興奮面して噂してるのを!なんで私しか気付かないのかな!

 

 「千華。こんな手紙がきてたよ。同窓会のお誘いだって」

 「…同窓会?…まさか中学の?」

 お節介シスコン兄さんがすでに封を切ってしまった封筒から、何かの招待状と手紙のようなものをとりだした。

 あの悪徳名高い3―3の同窓会…恐ろしい、一体どうなることやら。暴走族に、万引き常習犯、前科者、ホゴカン送りになりかけた奴…ちょっと心配になりながら参加者リストを見た私。そして思いっきり肩から力が抜けた。

 「なんだ、5人だけじゃん」

 ほとんどの奴らとは連絡はとれなかったらしい。予想はできたけど。そもそもこれで同窓会として成り立つのかどうか…?とにかく私はほっと息をついた。会った瞬間の挨拶代わりに拳で語る必要はなさそうだ。で、5人の中の主催者は…

 

 菱川大輔


 「………」

 まさに授業中に思いだした、「あのバカ」のホスト姿を思い浮かべ、ぐったりと床に沈み込んだ。


 ―「ありがとう!たまにはおれんとこのクラブに顔出してね!“三秒殺し”ならタダだから!」

 -「いや私の年齢じゃ法律違反だから無理」


  テンションが一気に大暴落した。ーこうなったら、何が何でも明日アルビノボーイを捕まえて問いただしてやる。あのバカのようにたちまち私に纏わりついてくれるかもね…ほんと冗談じゃない。

 

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