真っすぐに言う
本来、バスケの予選は一日で終わらず、数日続く。その合間に、友永くんは市民体育館の裏側で私を待っていた。体はちゃんと鍛えられているし、表情一つ変えないし、普通に立っているのに、何だかものすごく疲れているみたい。
「相談したいことって何ですか?」
「驚いた…ほんとに女の子は一人しか連れてきてないなんてね」
「そちらが大勢で来るなと言った理由が、ここに来てわかりましたよ…バスケ部で、評判高いんですね。チームメイトからも、外部からも」
「僕が…?評判が高い…?」
また例のきょとんとした顔で私を見下ろしてくる。
「はい、貴方が無自覚なのはよく分かりました。…けど、ちゃんと睡眠とってくださいね」
「あー、それコーチにも言われたな」
「バスケが好きなんでしょう?この前はあんなにかっこよかったのに」
私を見下ろしてくる顔が、まるで爆弾を間近で浴びたみたいに固まった。
「普段は意地悪そうなつ…えっと、顔してるんですよ、友永君は」
「今、“面”って言いかけたよね」
「と、とにかく、プレイ中の友永くんはいつも笑ってるんですよ!試合の前後だって。私に話しかけてきた時だって、普段とは人格が変わってるんじゃないかってぐらい、爽やかでしたよ。
でも、睡眠不足はやっぱり、人に影響を与えるんですね…今は、貴方は疲れているようにしか見えません」
「ふーん。意地悪そうな面はしてないんだ?」
「はい。睡眠は大事です。我慢したりしたらダメですよ。適度に眠るんです」
その時、「おーい、奏―」と彼を呼ぶ野太い声が聴こえて来た。彼を捜しているらしい。
「あっ、じゃあ僕行かなきゃ!またメールしてもいい?」
「どうぞ」
結局、何だったんだ。私は睡眠不足についてのアドバイスをするだけで終わってしまったけど。
評判が高い。チームメイトからも、外部からも。
あの子からはそう見えるんだろうか?
内心僕は、外見がずっとコンプレックスだった。白髪に紅い目は、ひそかに差別されているんじゃないかと思っていたのに。イケメンと称賛するのは女子だけで、男子の間では顔なんて関係ない。バスケは実力がものをいう世界。
結局、人が本当は何を考えているかなんてわからない。それが一番怖い。
家に帰ったら、また勉強しなくては。それとも、清羅学園が予選を勝ち抜いたら、父さんに褒めてもらえるかな。
理想パターンを静かに妄想しながら、プレイしていく。
最後の試合まで時間は進み、何とか勝ち残れた。この調子で2週間やり通せば、清羅学園が予選を勝ち抜けば…少しずつやる気が沸いてくる中、
ズキン、とふくらはぎが痛みを訴えた。
「っ…!」
肉離れだ。しゃがみこみ、足の状態を確認しようとすると、チームメイト全員が駆けよってきた。コーチも一緒だ。そして。
少し離れたところで、厳格な父が佇んでいるのが見えた。
「立てるか?抑えたら痛いか?」とコーチが細かく質問してくるのに答えていた。けど、ずっと父親から目を逸らすことができなかった。
このまま割り込んできて、俺の全てをぶち壊しにするのではないか。ふとそんな不安が芽生える。
その不安は、はたして予選一日目が終わった後に的中した。
「奏。足を怪我しただろう。病院に行くぞ」
「なんでだよ、コーチはテーピングするだけでいいって…!」
「いいから早く来い」
僕よりも年をとっているくせに、その手は万力こめて僕の腕を引っ張る。必死に抗う。でも逆らえない。いつもこうだ。
―――――――――いつだって親父は、俺の邪魔をするんだ。




