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三秒殺しの日常  作者: 縁碕 りんご
CASE2:KANADE
35/104

応えられない

 親の期待にこたえられない子は、感情を失っていく。嫌われたくないとしがみついているのに、落ちていく。自分の心においての、重要なルールに気付かないまま。


 それは―――


 ***


 選手が入場し、やはり目を引くのは友永くんだった。試合が始まった瞬間に、彼は敵のマークを振り切って驀進し、清羅学園は先取点ばかりかいきなり4点も入る。付属高校の選手のマークが次第に彼に集中すると、他の選手がノー・マーク状態に。アルビノボーイは素早く味方にボールをパスしてやはり7対0で清羅学園が勝っている。

 はた目から見れば、アルビノというハンデつき、しかもイケメンの、異色の存在だ。


 (あれ…?)


 でも。何だか顔色が悪い。もともと白いから分かりにくいけど。そういう白すぎる肌の人にも、“顔色の悪い”という言葉は通用することに気がついた。考えてみれば、選手入場の段階からあくびをしたりとか、あくびをかみ殺したりしているような様子が思い出される。

 

 

 ***


 時間は試合前に遡る―――


 「友永。お前、最近寝てないんじゃないか?」

 「え?そう見えますか?ちゃんと睡眠とってますよ」

 「そうか~?お前もともと色素ないからわかりにくいけどな、クマできてんぞ」

 「え~?」

 笑って答える。コーチがいなくなるのを見計らって、僕はすぐに男子トイレに向い、急いで鏡で自分の顔を確認する。


 …ほんとだ。


 最近寝てないからな…よく睡眠をとらないと。「雪のように白い肌」と称えられたその顔、両目の下が、僅かながら薄く黒みがかった紫色に変色している。今ならまだ目立たないだろう。

 でも、決して油断はできない。



 ***


 土曜日。珍しく学校は休みだ。なんでも、学校の教員は全員研修に行かなければならないとかなんとか。まぁ学校が休みになることはまことにありがたいことだ。土曜日に学校があること自体が間違っているんだ。

 関東大会予選の開催場所、時間を調べたし、券が必要じゃないらしいし、入場無料だということが明らかになったから、お金の心配はない。後は心ちゃんの車椅子を心配すればいいだけだ。

 「電車で行く」と言った私に、心ちゃんは目を丸くして驚いた。

 「…で、ですよね」

 ナンダヨ心ちゃん、一体どんな移動機関を使って…

 「まさかリムジンで行くとか言いたいんじゃないだろうね」

 「い、いえっ、そ、そんなことは…」声が思いっきり裏返ってる。


 私は笑いながら心ちゃんの車椅子を押して普通の駅に向う。金持ちはいいなあ…でも電車で行くから。子規くんが思いっきり注目されるのを覚悟で行くから。


 多分、友永くんは「大会に来てくれるついでに、相談したいことがある」と言っていたんだろう。それなら学校で相談してくれたらいいのに、なんでわざわざ私を大会へ誘うのかわからないけど。まぁ、来月は球技大会だし、今からバスケの技術を目で盗んでおくのも悪くない。

 駅に行けば、咲真と子規が待っているはずだ。清羅学園のバスケ部を応援しに行く為、全員制服。道行く人が羨望の視線を向けてくるのがわかる。…清羅学園は金持ちの学校だから無理もない。でも皆さん勉強すれば学費なんていらないんですよ?

 勝ち誇りたくなったところへ、駅構内へ入る。咲真と一樹と子規くんが切符を買うために券売機へ並ぶ中。心ちゃんだけが珍しそうに券売機をガン見していた。

 まさか…。私は定期券を手にして、軽くイライラしながら呼びかける。

 「…もしかして心、切符を買ったことがないの?」

 「すみません…」

 「いや、謝らなくていいんだけど」

 怖がらせたつもりはないけど、笑顔も作れていなかったみたい。私は心の車椅子を押して、切符の買い方を教えた。


 ***


 更衣室を出たところで、コーチが誰かと立ち話をしているところに行き合った。…そして、更衣室に逆戻りする。チームメイトが、「どうした急に」と問いかけてきて、僕はありもしない忘れ物をでっちあげ、皆の前でアクエリアスを掲げてみせた。

 (どうして…どうして親父が来ているんだ)

 応援には、母さんが来てくれるはずだったのに。


 東大に入ること、受験勉強と両立することを条件に始めたバスケ。

 

 その挑戦に、僕は早くもつまずきかけていた。


 「頑張ろうな、奏!」

 僕とは反対に日に焼けたあいつがぽんと肩を叩いてくる。僕とは真逆の、明るすぎる存在。精悍な顔で、いかにもMVPみたいに体格が大きい。印象とは違って、人懐っこく人に話しかける。…僕も決して、嫌いではなかった。僕も微笑みかえして深く頷く。

 もう一人のエースの名前は、水瀬透みなせとおる。彼は、今年からの特待生で、バスケ部の「もう一人のエース」と期待されていた。

 

 …早く。このわだかまりを、苛立ちを、誰かに話さないといけない。辛いことは吐き出してこそ楽になる。でも僕はそれを軽く話せるほど、人と打ち解ける人間ではなかった。今のバスケ部で上手くやっていけるのは、一重にチームメイトの性格の良さに恵まれているからだ。

 


 あの子は、来てくれるだろうか。いきなり相談事をぶつけるのはダメだろうから、最初は無難に話さないと。どうしたらドン引きされないですむかな。

 

 早く、誰かに話さないと。



 

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