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三秒殺しの日常  作者: 縁碕 りんご
ケータイに登録されたプロフィール
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嫌なサプライズ

 どうやら私には、特殊な友人ができたようだ。咲真も私も、平均身長が飛びぬけて高いことに親近感をもてた。気が付けば彼は笑顔になっている。私は身長174.5、彼は身長が185。いつも相手を見下ろして話していたから、人を見上げるのはちょっと新鮮だった。

 

 何だ、変な奴だと思ったけど、笑ったら結構可愛いじゃないか。


 ***


 (困ったな~…)

 本当にこんなところに私が入っていいのか…私は茫然と、綺麗でデザインセンスのよすぎる校舎を見上げる。しかもちょっと豪華だよ建物が。

 私と同じことを考えている人達=高校から入学する人達も、呆然と校舎を見上げていた。そんな私達を押しのけるようにして、何だか堂々としている人達=中学からの内部進学組がさっそうと開かれた校門を通り過ぎていく。

 「早く入ろう」とでもいうように、咲真が肩を押してきた。地味に力がかかってますね。

 私達も校門をくぐって、クラス分けを確認しに行く。そこで初めて、外部入学者は25人しかいないことに気付いた。高一の学年だけで一クラス35人以上45人未満もの生徒達を五クラスも抱えているというのに。高校試験の難しさを思い出し、地獄の一年間の記憶が甦った。

 咲真が微笑んだまま、指さす先を追うと、確かに「桜組」に「沢原千華」の名前があり、何人かの名前も挟んで、「黒錐咲真」とある。


 「あっれー、同じクラスだ」


 おどけたように言うと、咲真はその微笑みを私に向けてきた。…普段からそうやって笑っていれば女子にモテそうなものを。いったいどうして、たった今ぶつかってきた別の女子生徒には人殺しの視線を向けているんだろう?


 「あの子にもああして笑ったらいいのに」

 『なんで?』

 「別に…なんでもない」


 会って数十分で、咲真と私はすっかり打ち解けて、もとから知ってる友達みたいになりつつあった。思ったんだけど…

 こいつ、私の正体を知ったら、どう思うかな。


 「教室何処だっけ?咲真案内よろしく」


 方向音痴な私は咲真をガイド役に任命し、学校内の地図みたいなプリントをさしだす。咲真が顔をしかめてプリントを覗き込んだ時。


 「きゃあ~~~っ!」


 廊下の向こうから黄色い声があがった。何が起きたのかと私もそちらを見る。

 「事故でもあったのかな?」と私が首をかしげる側で、咲真は女子たちの群れを見て凍りついたように固まった。

 「どうした?誰も咲真のことなんて見てない」と言っても、彼は強引に私の腕を引っ張って、この場を離れようとする。けれど、遅かった。そして私ももっと後になって、この時咲真に従わなかったことを後悔することになる。

 女子の群れを真っ二つにして歩いてきたのは、黒髪に紅いメッシュをいれた(まるで高校入学前の私とそっくりなヘアスタイルの)イケメンだった。…なんで?私、こいつとは会ったことない。同じヘアスタイルはできすぎた偶然だった。

 咲真は必死で私の腕を引っ張り、私はなかば引きずられるようにしてその場を立ち去りかけたけど、


 「そこにいるのは咲真か?」


 イケメンが咲真に声をかける。



 その場は騒然となった。


 

 煩い女子たちのきゃあああったっく~んってラヴコールが、一斉に私と咲真とイケメンを取り囲む。…ウザい。お前ら静かにしろ。その口を一人ずつ無理やり黙らせてやりたい。そして私にはそれができる。仮面が剥がれかけた時、イケメンは快活に話し始める。


 「入学おめでとう弟よ。友達もできたんだな?こいつはちょっと怖そうだけど、仲良くしてやってくれよ」


 チャラいな、この人。自分の顔にかなりの自信を持っているらしい。咲真が機嫌がいい時の顔を、もっと「営業スマイル」に改造したような。眩いばかりの笑みを私に向けてくるけど…こいつの耳に女子の叫び声は届いていないの!?ますます回りが煩くなって

 ……あぁうっぜぇやっぱり黙らせたい…

 

 と拳を握りしめた時。

 

 咲真の顔から、全ての感情というものが消え失せた。出会った時に私に向けた「人殺しの視線」を、今度は彼に向けている。

 でもちょっと待って、今この人、咲真のことを「弟」って呼んだよね!?


 「あ、あの、二人ともご兄弟なんですか?」

 「一緒には住んでないけどな。咲真の方が、自立するのが早かったんだ。俺は黒錐拓真。今年は俺が生徒会長だから、よろしくな」

 「えぇ、あぁ、どうも…」


 ぺこりと会釈したけど、咲真の口から確かに「消えろ糞が」と漏れ出たような気がして慌てて彼を小突く。しかし時すでに遅し。咲真の殺気が周囲に伝わり、うるさかった女の子達は怯えはじめる。イケメンーじゃなくて、先輩が立ち去っていくに合わせ、


 「え…ちょっと…この人怒ってるよ?」

 「あ、あたしら、なんかした…?」

 「もう、もう、いいじゃん!行こう」


 と、勝手に自分達から離れていってくれた。


 彼女達には悪いけど、周りが静かになってくれて何よりだ。そしてまだ咲真クンの馬鹿の殺気は消えてくれず、周囲の人が不審の目でこっちをじろじろ見始める。落ち着けっつってんのにこいつは無言で先輩の後を追っていこうとするし目的は明確だ。


 「ちょっと!あんたまで黒錐先輩のファンになってどうするの!?さっさと体育館行くよ!」


 黒錐先輩のファン、というところを特に強調し、本人がなかなか動かないので足の脛を蹴って無理やり動かす。まるで押しても動かない壁は、そうやってようやくずるずると動き始める。


 今度は私が、咲真の腕を引っ張って体育館に連行しなければならなかった。


 ***


 校舎に入り、充分に黒錐拓真との遭遇現場から離れて、私はようやく、咲真に何か言ってもよさそうだと判断する。…なんで私がこんなことでいちいち人に気を使わなくちゃいけないんだ!


 「あの人、何だかチャラい感じだった。あんなので生徒会長が務まるのかな?」

 『知るかよ。俺はもうあいつとは関係ねえし』なんて生意気な言葉を、こいつは息と口パクだけで言いきってしまった。


 「肉親の血はきってもきれません。何があったか知らないけど、兄ちゃんが嫌いだからとか言って勝手に暴走すんのはやめろよ、いいな?」

 最後はつい、普段の口調をかなぐり捨てて釘をさした。すぐに自分の心を戒める。自分のこのけんかっ早さは、直さなくちゃいけない。

 心掛けろ、周囲に優等生と認識させるんだ、微かに微笑んでいる、顔は悪くない優等生…決して私はチンピラをねじ伏せる必要はなく、一般人を暴力の標的にしてはいけない…


 そうやって自分に言い聞かせながら桜組の出席番号順に座り、入学式は始まった。けど。


 私のすぐ隣にも、面倒くさい男子生徒がいたのデアル…。



  

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