いきなり宣伝だよっ!
「えーいーがぁ…」
図書館戦争の実写映画化。見に行きたかったのに。私は行けなかった。
「おい」
何故なら、図書館戦争の実写映画化が公開される4月27日その日に!いきなり実力テストがあるから!。他の学校なら土曜日だって休日なのに、何だってこの学校は土曜日まであるんだよぉ~…まぁ、(金の払えない)生徒に勉強させることを、(金が払える)生徒に自由な学校生活をさせることをこの学校は目標としているんだから仕方ないんですけど。
「おい」
主演はCMやバラエティ、ドラマでよく出てた、顔は知ってるけど名前は知らない人なんだよ、確かだいぶ前に「め○ちゃんの執事」の実写ドラマで本郷さん役をやっていたと思うんだけど。クレモンティーヌのBGMに合わせたバカボンのビールCMでほろ酔いになってる設定だったと思うんだけど!
明日がその27日。
テストが終わるころにはすでに夕方。最初の公開時刻はすでに過ぎてるっていう…
「おい沢原ッ!起きろ!」
「うげぇっ!」
スパーンと世界史教師に教科書で頭を殴られ、私はしぶしぶ突っ伏していた机から頭を起こす。
「俺の授業が、そんなにブツブツ言うほどつまらないのか、沢原」
「え…?」
「声に出てたぞ。図書館戦争図書館戦争うっせえ!」
あちこちから失笑と爆笑が飛んでくる。
でも今はそんなことすら気にならない。私は感情を消した顔で、惰性でひたすら世界史問題集を解き続けるだけだ。今授業内容では、人類はとっくに国を形成していて、イスラム文化をひたすらやっている。「珍しいよね」「普段真面目な沢原さんがね」と回りが噂していること、そして姫ギャルグループが大げさに爆笑していることなど決して気にならない。
アニメ映画ほど素晴らしいものはないと、そしてそのアニメを実写化する監督の力量ほど重要なものはないと私は思うっ!
「え…なんですか、図書館戦争って」
昼休み、初めて女の子と一緒に食べた、食堂の超高級料理。私は断ったんだけど、「私がおごります!」と何やら嬉しそうに琴峰さんは、私に車椅子の介助をさせながら食堂に連れて来てくれた。
ちなみに咲真も、白石くんから誘われ、断ったのに「いいからいいから」と言いくるめられて連れてこられたクチ。何しろ食堂のメニューは本当に高額で、一番高いものは4万円もする。一番安くて7000円。こんなの、自分の財布じゃ食べられるわけがない。
と思っていたのに。
結局、2人で白石くんと琴峰さんの最高級もてなしを受けている。
「…え?巷で人気を博した超面白い小説なんだけど。アニメ映画化されて、それから実写映画化されるんだけど」
「ご、ごめんなさい、私、そういうの余り知らなくて…」
琴峰さんは必要以上にわたわたしながら私の機嫌を窺い始める。そんなに気にしなくてもいいのに。
「僕は知ってるけど。27日に映画化されるよね」
「あぁ白石くん。後で私と一緒にお話ししようね~」ノリで言ったのにこいつはなんと。
「いいよ~」と、むちゃくちゃ嬉しそうに返してきた。
あぁ~仲間見つけた~と喜んだのも束の間、
「でもね、映画よりも重要なことあるんだけど」
あっさり私の仲間意識を裏切ってくれてありがとう白石。面白い小説やアニメ以外に面白いかつ重要なことなんて…
「皆、実力テストが終わって5月に入ったら学校公認の合コンがあるの、知ってる?」
面白くはなかったけどむちゃくちゃ重要なことでした。
そういえば、皆珍しく、無茶苦茶真面目に勉強しているような…
「皆が楽しみにしている行事だね。だから皆本腰入れて勉強してるよ。嫌なことはさっさと終わらせてしまいたいってのはわかるけどさー…」
「うんそれのどこが楽しみなわけ?」私はガッとうどんスープの中にれんげを突っ込む。
「千華さんは…知らない?その…私達、最終的には親が決めた人と一緒にならなきゃいけないけど、ここには家柄の良い人がたくさん来ているし、ここで相手を選んでカップルになる人も多いんです…。合理的だってことで、学校が奨励していることなんですよ」と、気弱そうに教えてくれる心ちゃん。
「…でもさあ。それ、私や咲真にはぜんっぜん関係ないことだよね」
無駄にもちもちして美味しすぎるうどん(25000円)を思いっきり啜りあげて、私はそう断じた。咲真も「そうだよな!?」って感じで握手を求めてくる。
「興味なーし!」と私達は勝手に同盟を結んでいた。
「無駄だよ勝手に同盟結んでも。学生は全員強制参加だから」と白石くんがニヤニヤと、恐ろしい事実を告げてくる。せっかくのイケメン顔が無茶苦茶意地悪そうに歪んでいる。
…何とかして病気になれないかなあ。病気になって当日休みたいんだけどなあ。
「それで、そのおかしな行事はいつあるの?」
「日曜日。5月5日」
…また時間外労働が増えるわけね。しかもその日…
「サボったらどうなるの?」
「サボった人…今までに一人しか知らないな…でもその子曰く、わざわざ先生が迎えにきて、結局来ざるをえなかったらしいよ」
何だか嘘っぽいな。でももっと確認しなきゃいけないことがある。
「…本当に5月5日?」
「うん」
…その日、私の誕生日じゃん。
「…というわけでごめんなさい。一緒に誕生日は祝えそうにありません」
私は兄に向って深々と正座して頭を下げていた。対する兄さんは「うそお~~!!」とムンクの叫びをあげている。どっかの漫画のコムイ兄さんじゃあるまいし。あっ、それとも何だ、「センカが結婚した」って言ったら武器をもって暴れ出すのかな。
「でも合コン行事か~。だったら仕方ないよね。玉の輿だね、千華♪」と哀しげに笑う兄さんにスリッパをクリティカルヒットさせてやった。
「あのね。私は誰とも結婚するつもりはないの。むしろ結婚しなきゃいけないのは兄さんだろ。さっさと綺麗なお姉さん連れてきてよ」
「そう簡単には行かないよ、千華。合コンに参加したことはあるけどね…今のところ、僕に電話を要求してくるのは、ろくでもないバカっぽいギャル女ばかりなんだ」
「お~どんな感じ」
「すっごいマニキュアして、爪もヤバいでしょ?つけまなのかマスカラなのか知らないけどアイメイク半端なくって、顔も実際より加工された感じで~」
「それは最悪だな!本物のギャルは見たことないけど、姫ギャルなら学校に普通にいるよ!いろいろヤバかったよ!」と、私達はギャルの話で盛り上がる。
うん。今日も平和だ。
私の左手はまだ包帯を巻いたままなんだけど、傷が治るのは多分一ヶ月ぐらいかかると思う。けど、この一週間、私の学校生活は平和そのものだ。ようやく名前を覚えた“真弓グループ”が、いちいち私にいちゃもんを着けてくる以外は。
兄さんが台所に立ち、私は宿題をしようとちゃぶ台に勉強道具を広げ始めた、その時だった。
ピンポーン、とインターホンが鳴った。
うん、本当に4月27日から映画化しますよ、図書館戦争が。




