表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三秒殺しの日常  作者: 縁碕 りんご
CASE1:KOKORO
13/104

直接言えよ

 咲真は、私に対してはかなり心を開くようになったと思う。めったに人にはむけない優しい笑みを、私に向けてくれるようになった。一緒に登下校するのは当たり前で、ご飯も一緒に食べた。

 けれど、今私は咲真がされたくないひとつの質問をしようとしている。


 黒錐先輩に、琴峰さんを捜すと告げた放課後。


 私は咲真に誘導尋問をしかけることにした。


 「あのさ、最近学校を休んでいる子、知ってる?えっと、確か…琴峰心っていうんだけど」

 すぐに咲真の反応を窺う。そして心の中でため息をついた。やっぱり私の予想通り、咲真の顔はみるみる強張っていったからだ。すぐにケータイカチカチが始まった。

 「私、ちょっとその子のことが心配でねー」

 『なんでお前が心配する必要があるんだ?俺にも、お前にも関係ないじゃないか』

 

 俺にも。


 どういうことだ?

 

 「咲真は、琴峰さんが嫌いなの?」

 『嫌いだよ』咲真はせせら笑うように言った。

 『病気がちで、いつも人をイライラさせる』


 なんでこいつも。


 本人がいないところでボロクソ言ってるわけ?

 

 「へえ、まるで琴峰さんのことをよく知っているみたいだね」

 ひっかかってくれてありがとう、馬鹿。

 「あんたには何の関係もないんだろうけど一応教えておくよ。一週間前から、琴峰心さんは家に帰ってないそうです。よかったね、嫌いな奴がいなくなるかもしれないよ」

 はっきりと言いたいことを吐き出すと、咲真は驚いたように目を見開いた。


 殴りたくなる衝動を必死で堪える。


 「どいつもこいつも、言いたいことを直接本人の前で言わない。それは女子のすることだと思ってた」

 自分の言葉が、ナイフみたいに刺々しくなっていくのが分かる。この怒りを、優子は「ヒーロー気取り」と呼んでさげすんで馬鹿にした。

 こいつも、馬鹿にするんだろうか。

 「女々しいんだよお前。ムカつくことがあるなら、本人を探しだしてから言えよ」


 言い捨てて、呆然としている咲真を置いて、私はさっさと駅の改札口を通った。




 私、沢原千華と、中島優子が、それぞれ不良と暴走族の元締めから離れてから、再び夜の繁華街の治安は悪化し始めていたらしい。

 中島優子率いる、男に対する復讐に燃えた女暴走族達によって追い出された暴力団やヤクザ達が戻ってきていた。優子はすでに夜の街から姿を消している。女暴走族達は、総長が代わってから悪い意味で「過激」になっていた。もう男に騙されない、という目標の元…少人数の男性グループだけを標的にした、「オトコ狩り」が始まっていた。

 反対に、ソープラント襲撃の影で暗躍していた私の存在は、あまり知られていないみたいだった。私を慕ってくれる自称「舎弟」達が、私が安心してこの世界から離れていけるようにと、秘密を守りぬいたからだ。

 


 

 家に帰り、制服から、普段着のジャージに着替える。兄がまだ、家に帰っていないことを確認すると、私はメモ書きを取り出して、「スーパーに買い物に行ってきます」と書き残し、ケータイだけを、ストラップの紐を首にかけて持って出た。

 捜し出す、と言っても、私は顔も知らない。先輩によれば、琴峰心が最後に目撃されているのは、私の家からそう遠くない新築マンションの工事現場だった。ニュースでやっていた、四人の現場作業員の死体発見場所だ。一人は行方不明らしい。

 私はさらに探索の足を延ばしていく。



 三年前。


 何も知らずに私を捕まえたチンピラ達は、何も気付かないふりをして怯えたそぶりを見せる私をひきずり、彼らの遊び場に連れて行った。

 私に無理やりどこぞの恐ろしげな麻薬を飲ませようとする、知らない男の子たち。怖かった。


 だから、その男の子の口に傘を突っ込んだ。

 怒り狂った他の男の子が、のしかかってきて喚き散らした。怖かった。だから、私の傘が取り上げられそうになる前に引き抜き、その片目に突き刺した。男の子の片目はゼリーみたいに簡単に潰れた。


 最悪の気分だった。

 

 私は正当防衛を行っただけとして、罪に問われることはなかった。私の存在がきっかけで、多くの違法な麻薬を吸っていた中高生が補導され、多くの人が逮捕された。だから、私は多くのその筋の人の恨みを買うことになってしまった。

 「おい、先日は世話になったな、嬢ちゃん」

 学校帰りに、私はまたしても知らない不良達に取り囲まれた。


 「こないだの借り、倍にして返せよおっ!」


 補導されたのは私のせいだから、怒ってきたんだ。

 

 私は困った。

 

 勝手な逆恨みは止してほしいな、と思った。私は、今は顔も覚えていない父親から教えられたとおりにした。…それだけで、不良達は体を丸めて、ひくひく唇を痙攣させながら、恐怖の目つきで私を見上げてきた。その時、私はひとつ学んだ。

 粋がってる不良ほど、弱い奴はいない。粋がってるように見えて、こいつらは全く体を鍛えず、アルコールとか、薬とかで体を壊している。


 要するに、バカを怖がる必要はない。

 

 ***


 いかがわしい夜の街のネオンが、夜空を照らす。私はここでようやく、琴峰心の行方を知っていそうな人物に出会えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ