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宣戦布告と宣戦布告

「よ、よろしくお願いしまぁ~す……」

『我々生徒会は今年の文化祭を盛り上げると約束する!』

「あ、ど、どうも。よろしくお願いしま~す……」

『何でも好きなことをやるといい! 金は出してやる! 楽しいイベント盛りだくさんだ!! うわーっはははっ!!』

「朝からすいませんね、ほんと……」

『リアリティを追及したお化け屋敷!』

「はい、一応僕ら生徒会なんですよ……」

『メイド喫茶! 執事喫茶! コスプレ喫茶! アニマル喫茶! 腕を奮え女子ども! 男子ども! 刮目せよ!』

「いや、まだこういうことやるとは決まってなくてですね……」

『お前らが文化祭を作るのだ! 楽しんでなんぼの文化祭じゃい! やってやれー! いやっほーぃっ! うわーっはははっ!』

 朝から何をやっているのかというと、言わなくてもわかるかもしれないけれど、校門での文化祭アピールである。登校する生徒目掛けて、会長は俺の頭の上から拡声器を使いこれらのようなことをアピールしていた。頭の上というのは比喩的表現などではなく、実際に俺の頭の上から叫んでいる。つまり俺が会長を肩車しているのだ。重さはさほど感じない。子供だから。太股の感触なんかはどうでもいいほど感じられなかった。そんな場合ではなかった。肩車しつつ、俺の手には文化祭のビラがある。何でも会長が徹夜して作ってきたというビラだ。おおよそこういう文化祭になるであろうということが大雑把に載せられている。俺はそれを、会長に興味を引かれてやってきた生徒に配っているのだった。隣で叫ばれるだけでも相当恥ずかしいのに肩に乗っかっているのだからなおさら恥ずい。朝っぱらからテンションバカ高いのが余計に効く。そして質問は下にいる俺の方へ寄せられるので、俺はそれに粛々と答えていた。

 梓はというと、俺と会長の様子を校門の壁に寄りかかりつまらなさそうに見ているだけだった。最初は自分が肩車されたいと駄々をこねていたのだが、会長から冠とタスキを渡されて自粛した。さすがの梓でも今の会長の役目は嫌だったようだ。

「か、会長、もうやめましょうよ」

『何を言ってる来栖真! まだ半分も残っているではないか!』

 拡声器で喋るな俺の名前を出すな恥ずかし過ぎて死んじゃいそう。もう無理です。配れないし、顔も上げられません。もう帰りたい。こんな羞恥を受けたのなら先生だって納得してくれないかな。

「あの、一枚くださいな」

『来栖真! 客だ!』

 客って。突っ込む間もなく、俺は声に反応して顔を上げて慌ててビラを一枚取った。自分から欲しいと言う奴がいるなんて、どんな奴だ。

 思わず呆然となった。恥ずかし過ぎてこういう事態を全く想定していなかった。校門でやっているということは、必ず知り合いがここを通るのだ。例え意図的に登校時間をずらしていたとしても。

 慌てて顔を上げた先には、

「おはよ。最近はこういうことやってたんだ、真」

 千佳がいた。口元に手を当てて、面白そうにクスクスと笑う。

 俺の幼馴染がそこにいた。

「あ、いや、これは、み、見るな!」

 千佳に会ったことと羞恥心で顔が熱くなるのを感じた。持っていたビラの束で顔を隠してしまうような真似までやらかしてしまった。

「たしかにやってることはちょっと恥ずかしいけど、立派じゃない、生徒会なんて」

「そ、それもだな、いろいろと理由わけあって不本意ながら……」

「いいと思うよ、私は。真らしくないけど」

 またクスクスと笑う声が聞こえた。応援してくれているのか面白がっているのかどっちだ俺の幼馴染は。まだ顔を見れないもんだから千佳の表情はわからなかった。

「私たち吹奏楽部も文化祭は一つの大きな舞台だから、よろしくね。……じゃあ、頑張ってね」

 足音が遠ざかるのを感じた。緊張から解き放たれて、肩で大きく息をついた。

「千佳先輩!」

 梓の声にドキリと、また心臓が一つ跳ねる。できるだけ避けたい。避けたかった。三人で顔を合わせてしまうのは。新学期になってからの俺の行動は自然とそうなっていたような気もする。

 だけど俺はこの時、咄嗟に顔を覆っていたビラを取り払っていた。

 思ったのは、止めないといけないってことだ。梓が何かを言うんじゃないか、何かをしでかすんじゃないかと思って。俺は勝手に、千佳は傷ついているものだと思っていたから。言ってしまえば、勝者が敗者に何の追い打ちをかけるのかと思ってしまったのだ。

 俺は手を伸ばそうとして、伸ばしかけたところでそれは止まった。

 俺は自分の目を疑ってしまった。信じられない光景を目の当たりにしていた。少なくとも俺には、考えられなかった。

 梓が、千佳に向かって深く頭を下げていたのだ。

「えっ?」

 俺の口から出たのはそんな間抜けな声だけだった。

 顔を上げた梓と千佳の目が合って、千佳は寂しそうにも申し訳なさそうにも笑って、それだけで校舎の中へと消えて行った。

 梓は目を伏せてしまい、俺はそんな梓にかける言葉を見つけられなかった。何が起こったのかを理解することで精一杯だったから。

「ふんっ、あれが笹野千佳か」

 そんな中、会長が憎々しそうに呟いた。

「知ってるんですか?」

「男子の色恋話に必ず出て来る名前だ。わたしほどではないが有名だからな。『お子ちゃま生徒会長』と『学園アイドル』だぞ。どちらが華があるか明確じゃないか!」

「いや、まあ」

 もしかして目立ちライバル視してたの? ってか会長そんな通り名あったんだ。携帯のデータを消したら俺もそう呼ばせてもらおう。

「それにしてもお前……ふんっ、そういうことか。学校中の男子に殺されてしまえ」

「んな物騒な」

 でもマジでそんなことになるかも。千佳の人気は止まることを知らないからな。大体ファンクラブがあるなんて信じられねえ。そいつらにしたら、俺って羨ましがられるんだろうなあ。

「下ろせ」

「は?」

「早く下ろせ馬鹿者!」

 急に怒鳴られて、訝しく思いつつも俺は会長を脇の下から持って下ろしてやった。

「今日はもうやめだ。早く行け」

 会長は冠とタスキを外して、大きく溜息をついた。

「えっ、でもまだこんなに残ってるのにいいんですか? さっきはまだまだだって」

「あんな顔で突っ立ってられても楽しい雰囲気なんて伝わるものか。お前の仕事はあいつをどうにかすることだ。わかったらさっさと行け。しっしっ」

 会長は梓を指差して、動物を追い払うようにして自分はさっさと校舎に入って行った。

 まさか、気を遣ってくれたのだろうか。それとも本当に今日は無理だと思ったのだろうか。俺の知るところじゃないが、とりあえずはありがたい。

 ビラを抱えて、梓のもとに歩み寄る。まだうつむいたままだった梓の顔を覗き込むように下から見上げた。

「あーずさ」

「れろん」

 見上げたら鼻の先を舐められた。舐められたお返しに鼻の先を指ではじいてやった。「いひゃうっ!」と鼻を押さえて恨めしそうに俺を睨む。俺はひとつ嘆息して、梓の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でた。

「お前があんなことする必要なんてないんだぞ。らしくないじゃないか」

「らしくない、ですよね。やっぱり。でも同じ人を好きになったからこそ、全部じゃないですけど千佳先輩の気持ちがわかるんです」

「梓……」

「だからこそ許せないところもあるんですけどね」

「許せないって、千佳のこと――」

「やあやあご無沙汰じゃないかお二人さんー」

 不意にバシバシと背中を叩かれる。梓も同じようにされて少し咳き込んでいた。闖入者によって会話を絶たれた俺は睨むようにその人物を見た。

「こんなところで何してるんだい?」

 腰まで届く長黒い髪が特徴の倉敷みちるさんの登場である。美人で少し切れ長の目をしている、中性的な喋り方をする悪戯っ子だ。俺をジョンと呼び、梓をあずあずと呼び、千佳をちーちゃんと呼ぶ、千佳の親友。顔を合わせたのはバカンス島での一件以来だ。

「みっちー先輩!」

 そして梓は倉敷さんのことをそう呼ぶ。梓は倉敷さんと妙に気が合うのでお気に入りだ。恋愛事に関しては、倉敷さんは千佳側にいるのだけれど。

「久しぶりだねぇあずあず。元気にしてたかい?」

「はいっ!」

「ジョンもだよ、久しぶり」

 にこーっと微妙な笑みを浮かべる。何か意味ありげな笑顔に見えるのは気のせいだろうか。出会った当初からいまいち何を考えているかわかりづらい人なのだ。

「久しぶり。倉敷さんはお変わりなく?」

「いぇい。絶賛ちーちゃん慰め中」

 ブイサインで言うことじゃないだろ。今しがたそんな話しをしてたっていうのに。これがこの人はわかってて言っているのかもしれないところがタチが悪いのだ。ふわふわとしていて掴みどころのない、読みどころのない人物だ。

「おや、それは何だい?」

 言うが早いか倉敷さんは俺の持つビラの束から一枚を抜き取った。

「ほう。またおかしなことしてるねえ。まさか生徒会にでも入ったのかい?」

「そのまさかです」

「おーっとっと。驚いたよ。まさかジョンに幼女趣味があったなんてね。そういえば妹さんにも過保護だったしねぇ」

「だからそっちに持ってこうとしないで!」

「ん、違うのかい? まあジョンは面倒事に首を突っ込みたがる性格だからね」

「いつも巻き込まれる側だよ」

 今回だってそうだ。その根本にはいつも梓がいるわけだけど。俺のせいじゃないってわけでもないんだろうけど。

「でも、面白そうだね」

「みっちー先輩もやりますか!?」

 えっ、うそ。やめようよ。あの生徒会長と梓と倉敷さんだなんて、絶対まともに生徒会は動かせないって。でも倉敷さんみたいな人からすると会長みたいな人はいじり甲斐があるんだろうなあ。

「いや、私は部活があるからね。クラスと部活と生徒会なんてとてもじゃないけどこなせないよ。もっとも、私は部活だけで手一杯だろうけどね。おろそかにしちゃったらちーちゃんに怒られるのさ。やたら張り切ってるからね。何かを振り切ろうとしてるみたいにさ。ねっ」

 意味深な目を俺に向ける。こういうところが、俺にとって倉敷さんの苦手なところだ。

「……言いたいことがあるならはっきり言ってくれた方がいいんだけど」

「別に。私は無理をしてるちーちゃんを見るのが忍びないだけさ。でもそうだね、はっきり言っておきたいことといえば――」

 倉敷さんはまた柔和な笑みを浮かべる。

 そしてその先の言葉は、少なからずとも俺にショックを与えることになった。


「もうちーちゃんと関わらないでくれるかな」


 一種の衝撃を受けた。聞き間違いだと思いたかった。倉敷さんの口からそんなことを聞きたくはなかった。倉敷さんは俺の、梓の友達だから。千佳と関わるなってことは、倉敷さんは自分とも関わるなと言っているに等しいことなのだ。千佳と倉敷さんはいつも一緒にいる二人だから。

「みっちー先輩! それは……ッ!」

「あずあずだって一緒だよ。別に一生そうして欲しいなんて言ってないんだ。しばらく、ちーちゃんの気持ちが晴れるまででいいんだ。けれどそれは卒業するまでってことになるかもしれない。嫌でもジョンたちは噂になるからね。ちーちゃんを思うなら、ぜひそうして欲しい」

「だけど、俺、俺は、千佳の幼馴染で……」

「それがどうしたんだい。ちーちゃんはジョンの幼馴染である前にひとりの女の子だ。聞いただろう、ちーちゃんは昔っからジョンのことが好きだったんだ。十年間思い続けることがどういうことか想像もつかないけどさ、そろそろ楽にさせてあげてもいいんじゃないかい?」


「そんな簡単に諦められるものじゃない!」


 突然、梓が叫んだ。倉敷さんの話しを聞いていて、たまらずに身を乗り出してきた。涙目で、倉敷さんを強く見上げる。

「梓?」

「十年間の気持ちが簡単に消えるわけなんてない。梓ならわかります。どうしようもなく好きで、諦めたくなくて、でも諦めようとして、辛いはずなのに、何ともないように振る舞って……ッ! 梓たちに気を遣って!」

 そんな梓を倉敷さんが冷ややかな目で見下ろした。

「だからだよ。無理はさせたくないんだ。ちーちゃんはそういう奴だから。無理を得意とする奴だから。それにあずあず、キミにそういう台詞が言えるのかい?」

「…………」

「あずあずが悪いと言ってるんじゃないんだ。仕方がないことだと思うよ。男と女は、どうしようもない。このままじゃちーちゃんが壊れてしまうかもしれないんだよ。だから関わらないでおくれ」

 倉敷さんが言ってることはわかる。千佳にはこのまま自然に俺のことは忘れてもらった方がいいのかもしれない。時間が解決してくれるとは言うけれど、だけど今までの時間が長過ぎるんだ。

 だけどそれは、俺も千佳のことを忘れてしまわないとならないってことなんだ。そんなこと、できない。小さい頃からずっと一緒だったんだ。あいつとの間にはいくつもの思い出がある。長い長い時間だった。今さら関わらないようにするなんて、できないだろ。しちゃいけないだろ。

「千佳はやっぱり、俺の幼馴染なんだ。だから、あいつと関わらないなんて考えられない」

「そういうつもりなら、ジョンは私の敵だよ。あずあずも、もちろんね。ちーちゃんを支えてやれるのは私だけだ」

「みっちー先輩!」

 倉敷さんは最後に宣戦布告をして、校舎内に入って行った。梓の声にも振り返ることはしなかった。

 敵……か。

 寂しいよな。

「先輩……」

「梓、お前には悪いとは思うけど、千佳のことは……」

「……いいえ。それに、千佳先輩のことをほっとくような先輩なら、ちょっぴり嫌いになっちゃってたかもしれません」

 なんだこいつ、らしくないな。千佳に会ったときもそうだったけれど。わがまま梓はどこに行ったんだ。

「急に大人になったようなこと言いやがって」

「梓が千佳先輩の立場なら、先輩と会えないのは嫌だと思っただけです。でも、情けをかけているわけではありませんよ。千佳先輩は恋敵ライバルですから」

 恋敵ねえ。お前の中ではまだ戦いが続いてるっていうのか。

 関わらないようにしろと言われてそれを拒んだ俺ではあるけれど、積極的に千佳へとアプローチしようと思っているわけじゃない。あいつが気を遣わなくて済むように、こちらもできるだけ普段通りに接していこうと思っているだけだ。もちろん意識して避けたりなんかしない。あいつもそう望んでいるからいつものように話しかけてきたりしているのだろう。きっと。俺はそう思う。

「行こうぜ。会長にもあとで謝っておかないとな」



 昼休み談。

 たまたま会長を見かけ、今朝のことを謝った。それと気を遣ってくれたものだと思っていた俺はさりげなくお礼を言った。

「べ、別にわたしはお前らのことを考えてあんなことしたんじゃないんだからな! や、やりにくくなっただけだ!」

 顔を真っ赤にさせる幼女だった。頭を撫でてやった。

 そして後悔した。

「むぅぅ、うにゅん……。ハッ……。け、今朝の失態は体で返してもらおうか! 今からビラを配りまくってきやがれ!」

 そういうことになってしまった。



 それから朝のアピールは二日間続き、ついにはその成果を確かめる時が来た。

 三日間で文化祭のことも、会長のことも、生徒会としての俺と梓のこともみんなには知れ渡ったことと思われた。目立ちたかった会長としては本望だろう、校内の噂は文化祭と肩車で演説をする会長のことで持ち切りだったのだ。俺も文化祭のことについてクラスメイトから尋ねられることが多くなった。

 そして二回目のアンケートが配られることになったのだ。今度のアンケートは重要な質問以外は省いてある。会長も集計する労力を考えたのだろう。

 そしてその放課後、アンケートの集計をすべく生徒会室へ出向いた。

「うわーっははは! 来たか来栖真よ! さぁ働け! みなの声をあのハゲへ届けるのだ! あのハゲへ! 憎たらしいハゲへ!」

 やる気満々というか、やらせる気満々の様子だった。ここは職員室の横にあるんだから下手すると聞こえるぞ、そのハゲっていうの。

 実を言えば、今回のアンケートの結果については俺もそれなりの結果が出て欲しいと思っている。あんな恥ずかしい思いまでしたんだ。それが実を結ばないことになってたら俺泣くぞ。

「梓、またお願いするな」

「ハァ、仕方ないです。先輩のお手伝いだと思えば何のその~」

 すっかり生徒会の一員になっている俺と梓だった。

 集計する中身がそれほど多くなかったために、今回はスピードが違う。次々と紙の束がめくられていく。慣れてしまっているとも言えるかもしれない。

 その日の戦いは日没まで続いた。

 続いた結果。

「まぁ、こんなもんか」

 結果を見る限りの相応な感想だった。

 朝行っていたアピールのおかげか、文化祭を楽しみにしているという生徒は九割弱まで伸びていた。おおよそ全校生徒の意見の一致と言えなくもない。十人中九人、百人中九十人、千人中九百人が肯定している結果だ。

 だがそれでも納得できないのが会長だった。

「ば、馬鹿な。わたしの力なぞ所詮こんなものだったのカ……」

 もはや放心状態で結果を見つめていた。悪い意味での完璧主義者というべきかこの人は。

「十分だと思いますけどねぇ」

 梓は軽く欠伸をしながら言う。

「梓の言う通りだと思いますよ。全校生徒の合意を得るなんて不可能です。これ以上は望めないと思います。これで勝負するしかないでしょう」

「わたしが納得していないのにか……?」

「じゃあ納得してください。妥協してください。まだまだ詳しい内容を知らない生徒だっているんだから、終わった時にみんなが楽しかったって思える文化祭にしたらいいじゃないですか。胸を張ってやってやったと言える文化祭にすればいい」

「……ふんっ、え、えっらそーに! 無論そのつもりだ! あぁあぁいいだろういいだろう、これであのハゲを黙らせて嬉し恥ずかし楽しい文化祭をやっちゃうもんね! 覚悟しとけ!」

 俺に向かって啖呵切られてもなぁ。趣旨が良くわからない文化祭になってるし。

 ただ、まあ。

「お力添えはしますよ」

「うむ! 尽力を尽くせ来栖真! そして神宮寺梓!」

「うあ~い……」

 一念発起とはいかずとも、ここに幼女と凡人とお嬢様の生徒会は本格始動することになった。



 その翌日。

「なるほどねぇ」

 俺と会長はアンケートの結果を持って校長室を訪れていた。その生徒九十五%が賛成意見を出している結果を見て、校長は喉を唸らせている。実はちょっとサバを読ませてもらった。僅かながら数字を上乗せして校長に見せたのだ。最初っからこうしていればよかったと思ったことは口には出さない。

 しかし件のアピールも無駄じゃなかったと思い知らされることになる。

「い、いかがでしょうか。このように生徒たちも我々の文化祭を支持してくれているのです」

 会長は食い入るように校長の表情を見ていた。小さな握り拳を作り、校長の言葉を待っていた。

「いやね、私も君たちのやっていることは見ていたよ。できれば初めに許可を取って欲しかったんだけど」

 それを聞いて俺と会長は目を見合わせバツが悪くうつむいた。

 考えなしにやるなあ、会長も。

「それでだけど、それを見てね、私もPTAの方々と掛け合ってみたんだよ。あの格好は褒められたものじゃなかったけれど、まあ頑張っていたからね」

「ほ、本当ですか!?」

 会長が生唾を飲み込む音が聞こえてきそうだった。それくらいに変な沈黙が時間を支配した。

 校長が、不意ににっこりと笑った。

「やってみなさい」

「……ッ!!」

 校長の一言を聞いて、会長は隠すこともなく全身によるガッツポーズを繰り返した。そしてあろうことか、校長を指差し――

「うっ、うわーっはっはっはっ! 見たかこのハ――」

 寸でのところで会長の口を押さえ、致命的な一言を回避した。

 俺は満面の作り笑いでその場を取り繕う。危ない。危なすぎる。実はひっそりと頭を気にしているかもしれないじゃないか。機嫌を損ねてしまうだろうがこの幼女め。

「ただ、今回の文化祭があまりに見ることができないものなら、来年からはまた元通りになるから。楠木くんは生徒会長としてそのことを頭に入れて運営に取り組むように」

 聞こえる。会長の心の声が。

(ふんっ。来年のことなぞ知ったことか)

 きっとそう思っているに違いない。

「それと、体裁を取り繕うようで悪いけれど、資金の方はあくまでも生徒たちの自己資金ということにさせてもらうからね。これでも苦労したんだから、そのあたりはよろしく頼むよ」

「それくらい容易いこと。あとは我々に任せていただきましょう」

 自身満々だよなー。これも宣戦布告か。今さらになって心配になってきた。学校中はもちろん学校外まで迷惑かけてるんじゃないかな。

「行くぞ来栖真!」

「あー、はい」

 さて、これから忙しくなりそうだ。 




 




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