表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/39

第五章 乙女ザムライ★ラヴ演技







                              《綾崎紫苑》






『あーんラヴごっあんです☆作戦』も無事に終わり、意気揚々と私は伝票を持って、レジに移動する。

「し、紫苑、俺が払うよ!」

 私の行動に陸は慌てて財布を右のポケットから出そうとするが、右手の手のひらを広げることで陸の行為を制止する。

「男に恥をかかせるな」

 ニヤリと笑ってみせる。

「紫苑は女の子だろ!?」

「む……男女差別か?」

 素早く切り返す。

「さ、差別ってわけじゃないけど……そのやっぱり、何て言うか……」

 言いよどむ陸に、天使を彷彿とさせる笑みを意識的に浮かべる。

「気にしなくていいぞ? この紫苑ちゃんにランチを奢られたことを一生胸に刻みつけてくれれば、全然構わないぞ。むしろこちらの狙い通りだ。こうして陸に恩を売り、逃げ道を一つ一つ丁寧かつ偏執的に塞いで私の虜にする作戦の一部だからな。全然気にしないでくれ」

「!?」

 陸はなぜか顔面を蒼白にした。

 突然、氷河期に閉じ込められた恐竜のように、激しく体を震わせる。

 まるで重大な禁忌を知らずうちに犯してしまった罪人のような悲痛な表情だ。どうしたというのだろうか??

「絶対、払う!」

「駄目だ、認めぬ!」

 駆け寄る陸に、刃の鋭さで陸の主張を切り捨てる。

 棒立ちになる陸。その隙を逃さずレジへと猛ダッシュする。素早く福沢諭吉殿を一枚、高速でカウンターに叩きつける。

「娘ッ、釣りはいらぬ!」

「あ、ありがとうございます!?」

 私の剣幕にレジの娘は震えつつ、料金を受け取る。

「で、ですが、お釣りを……」

「ならばそこの本当にその元に届くかどうかもわからない募金箱にでもいれるがいい!」

「ま、待ってくれ、俺の分は……!」

 呆然とした状態から陸は慌てて財布を取り出しつつレジに近づくが、獲物を狙うムササビの如く手首のスナップを使って、陸の口を後ろから塞ぐ。

「ふむぅッッッッ!?」

 突然の拘束に驚愕の声を上げる陸。

 陸の唇の感触は手のひらを通して、私の胸をせつなくムラムラと焦がす。

 陸の吐息が私の手のひらをくすぐるのは答えようのない快感だ。はぁはぁ、たまらんッ!

 私は特にサドというわけではないのだが、こ、こここ、これ私の足の指をな、なな舐めさせたらどうなってしまうのでござろうか!

(むはぁぁぁぁぁぁッッッ!)

 まずいまずい! 愛しい者に強制する背徳感と征服欲のせめぎ合いが、私の乙女中枢経路にスパークを生み出す。

(取り合えず、あとで手のひらに口づけよう。否、舐めまわそう)

 そう決意する。

 それにしても、ああ、なんと素晴らしい唇なのだ。

 いつかこの唇を私だけのものにしてやる。私のもので万歳だ。何と最高なんだ。神様の贈り物に違いないな、うん。

 ラヴで緩みきった笑いを口に象りながら、陸を羽交い絞めして、空港のレストランを後にした。






「けどさ、紫苑。これからどうするんだ?」

 場所は変わって空港から駅へと向かう改札口周辺。あたりは相変わらずの人込みの密集地帯だ。

「……とりあえず家に行くつもりだが?」

 平常心を装って答えながらも、陸の言っている意味は分かっていた。

 おそらく、今日どこで宿泊するか聞いているのだろう。

 なにせ、以前私の住んでいた家は現在取り壊されて駐車場になっているらしい。

(さて……これからが一勝負というわけだな……)

 計画は単純にして絶大。強大にして無比。最強にして完璧。

 計画の内容はマルオ風に言えば、ズバリ陸の家に転がり込み、この夏の間に陸の心を射止める事にある!

(既成事実さえつくれば、お爺様も納得させる事ができるに違いない!)

 つまり、そう言う事だ。

 そのためには、駐車場になっていることは知らなかったということにして、陸の家に厄介になりラブチャンスを掴まなければ……!

「何がって……その……紫苑の家、引越ししてから駐車場になってるんだぞ? ……一体どうするんだ?」

「な、何ぃいいッ!? 私は家なき子の少女になってしまったって事かッ!?」

 証拠がでそろって、にっちもさっちもいかない犯人のような切羽詰まった声で、私は狼狽する。紫苑ちゃん迫真の演技だ!

 それは周りの人々が何事かとこちらを注目していることから明白だ。

「そういう事になるけど……」

「ああーッ、何てことだ! 紫苑ちゃんアルマゲトン的大ピンチッ! 赤信号で飛び出してしまった気分だ! お子様にも分かりやすく言うならば、ウルトラマンの必殺技のスぺシウム光線が怪獣にきかず『これでは地球の平和が……』ってな感じの地球規模級の大ピィイイーーンチッ!」

 ついでに頭を抱えて、その場で膝を付き、大地に上げられた金魚のように、のたうち回ってみる。第二次成長期の暴走というものだ。七転八倒、かえるぴょこぴょこみぴょこぴょこ!

「分かった! ともかくこんなところで暴れるんじゃない!」

 陸は周辺の視線が気になるのか、落ち着かなく視線をさ迷わせながら、私に注意を送ってくる。

「では……泊めてくれるか?」

 ムクリと、起き上がって陸へと尋ねる。

「分かった! 本気で、分かったから! 泊めるよ、泊める! 泊めればいいんだろ!?」

 陸の肯定の返事に立ち上がって、私は両手の親指をビシリと立てる。

 それを見た陸は半眼で疑わしそうに呟く。

「何か……俺……騙されてないか?」

「気のせいだ。体育たいいくの二つ目の《い》くらいどうでもいい事だ」

「それは確かにどうでもいいが……」

 釈然とせずに首を捻る陸。

 言質を取った私は強引に陸の手を取って、駅の改札口へと引っ張って行く。

「何かな……気になるんだが……とても気になるんだ……」

「気にするな。少年よ恋心を抱けだ!」

「……大志だって」

 そう訂正つっこみを放たれながらも、私たちは陸の家へと向かった。陸の手を後ろ手で引きながらデスノのライトばりの笑顔で私は笑う。計画通りだ。

 時々、私は自分の才能が恐ろしくなるでござる。

 そう、愛しきものを攻略するためのテクニック。

 これぞ、紫苑ちゃん七つの大技の一つ《乙女ラヴ演技》!

 愛しいものを手中にするためには、悲しいが……優しい嘘をつかなくてはならないのだっ。

 今のところ《陸・陥落大作戦》は完璧無敵でござる。スペインの無敵艦隊だ。

 いずれラヴという名の海を、我が艦隊が征服しつくす日も近いだろう。



 なっははははは! 吾輩のラヴに不可能はないッッ!





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ