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第二十四章 ナイトパーティー後編 その3 夜会の終わり







                                 《天堂 陸》






 ナイトパーティーは、煌びやかな思い出とハプニングに包まれて幕を閉じようとしていた。

 紫苑は用事があると俺に告げ、会場を後にする。

 紫苑の白い背中を見送り、しばらく所在なさげに立ちつくしていたが、撤収作業の邪魔になると思い、会場から出て外で待つことにした。

 上気した頬に、夏の夜風が気持ち良かった。

 今夜のダンスは学校のオリエンテーションで踊った時よりも、うまく踊ることが出来たと思う。

 去年はペアの相手に凄く迷惑をかけたと言うのに……

「紫苑がペアだったからかな……」

 呟いてみて赤面する。

 キザすぎるし、ガラじゃない。

 俺には似合わないセリフだ。思えば、今夜は似合わないセリフと行動のオンパレードだったように思う。

 今更のように羞恥が頬に登って来た。

 パーティーの雰囲気、アルコールの摂取。

 そしてなによりも寂しげな笑顔の紫苑がきっかけで、俺の心は抑制が壊れてしまったように思う。

 俗に言う弾けてしまったってヤツだ。

 不思議と後悔はない。

 いや、それどころか――――上気した頬が、いつもよりも大きく脈動する心臓が、俺のしたことが間違いじゃないと肯定してくれているような気がした。

 と……

「……紫苑?」

 夜空を見上げていた俺は、人の気配を感じて振り向く。

 そこにはアレックス君がいた。

 当然だ。いくらなんでも紫苑が戻ってくるのは早すぎる。

 この展開は予想してしかるべきだった。

「庶民とは言えど、ダンスくらいは踊れるようだね」

 はっきりとした敵意を瞳に浮かべて、アレックス君は俺に語りかけてきた。

 アレックス君が怒っているのは良くわかっているつもりだ。

 彼自身が一緒に踊るのを紫苑に断られたのに、自分の婚約者と他の男がダンスを踊ったら、気分が悪いのも当然だろう。

 さらに言えば、今回のパーティーに参加していた大勢の前で派手に投げ飛ばしたとくれば、怨まれて当然というものだ。

 他の男――――つまり俺は凄い邪魔者だろう。

「………………」

 俺は何も言えずに黙り込む。

 口火を切ったのはアレックス君が先だった。

「キミにはシオンを幸せになど出来ないさ。ムダさ、ダメさ、ムリさ! だいたいキミになんてシオンは相応しくないよ! 考えてもごらんよ、浮浪者に宝石なんて、似合わないだろう? 不相応ってものさ。そもそも家柄……育った環境が違いすぎるんだ。奴隷のキミに王女のシオンは釣り合わないのさ!」

 アレックス君の糾弾が心に突き刺さる。

 自分が良くわかっている事実を指摘され、唇を噛み締める。

 胸中で渦巻いている思いは、悔しいと言う感情だろう。こんなに悔しいと言う感情を強く感じたのは初めてだった!

「フフン、悔しいかい? 悔しいかい? せいぜい悔しがるがいいさ♪」

 アレックス君は傲然と顎を反らし、その端正な容貌に嘲りを刻み、言った。

「キミは無力なボーイさ」

 この時に俺を突き動かした要因は何なのか?

 アルコールのために大きくなっていた気持ちか?

 または、悪口に対する純粋な怒りか?

 それとも、俺の欲しいと思っている立場にいるアレックス君に対する嫉妬か……

「どんなにお金があったって、裕福で不自由のない暮らしをしていても! 縛れないものがあるだろッ!」

 気が付けば、俺はアレックス君に言い返していた。

 まるで臆する身体を、戦慄く唇を律して、気持ちが飛び出したようだった。

「何……? そんなものボクにはないね」

 傲慢な、自信に彩られた表情を見せるアレックス君。

 その傲慢さを削るために、俺は鋭く指摘する。

「人の心は絶対に縛ることなどできない! 現にアレックス君は紫苑を縛ることができないじゃないか!」

「ッ!? う、うるさいぞ! 庶民の、それも低能の分際で……ッ!」

 アレックス君は刺し貫かんばかりに俺を睨み付けてくるが、ふと何かに気が付いたように口の端を吊り上げる。

「そうか……! キミはボクとシオンとの仲に嫉妬しているんだな? ムダだぞ、ボクたちは親が決めたフィアンセなんだ! キミの割り込む余地はゼロさ! 無さ! ナッシングさ!」

(そんなことはわかっている! わかっているさ! 誰よりもそんなことはわかっている! けど……ッ!)

 熱に浮かれたようにアレックス君が続ける。

「ハハハハハ! 嫉妬かい? 全く子供だね。潔く身を引いたらどうなんだい? だいたい嫉妬なんてチャイルドがすることさ。キミは随分と幼いね、幼稚だね、ガキだね。ベイビーだね」

 拳を硬く握り締める。

 心を中心に身体中が熱を帯び、いよいよ得意絶頂に激しくなる目の前の男の語調が煩わしかった。

「嫉妬もできないようじゃ――――その恋愛は終わりだろッ!」

 鋭い踏み込みの音が石畳を叩く。

 気がつけば強く硬めた右拳を、アレックス君の左頬へと叩きつけていた。

 アレックス君の方が上背もあったし、体格は当然、俺よりもいい。

 だから、アレックス君が上体を反らしながら堪らず芝生に尻餅をついた時、俺はあまりのあっけなさに驚いてしまった。

 ぽかんとしたアレックス君の表情が、瞳を見開いた驚愕の表情へと変化するまで時間はかからなかった。

「な、殴った……? このボクを……?」

「ああ、殴ったさ」

 罪悪感がこみ上げてくるが、それを努めて圧殺する。

 アレックス君は俺に殴られた左頬を押さえ、内股に座り込みながらブルブルと小動物のように震えながら、微妙に破綻した精神状態で言葉を紡ぐ。

「せ、世界に多くの企業を持つ巨大複合企業経営者の社長の一人息子にして、せ、世界の財閥の五本に指に数えられるほどの家柄の息子。じ、実はハプスブルク家の親戚で、高貴な血筋をひくバグネット家の跡取り主を……せ、政界にまでその実力は及び知れるこのアレックスを……殴った!?」

 顔がさーっと青ざめる。

 人を殴ってはいけないと言う倫理に外れた行為に青ざめると言うより、殴った相手が超超大物だと今更に気が付いて青ざめた。

「殴ったこのボクを……コノボクヲ!?」

 裏返ったアレックス君の語尾がいよいよ怖い。

 アレックス君の震えが激しくなり、まるで痙攣しているかのようだ。

 そして彼は絶叫した。

「パ、パパにも殴られたことなかったのにィィィィッ!?」

「お前はアムロかッ!?」

 よせばいいのに、関西人に流れる血がそうさせるのか、つい条件反射で鋭いつっこみを入れてしまう。

「ボクにつっこんだ!?」

「やかましいッ!」

 戦慄の表情を見せるアレックス君に、再度つっこみをいれる!

 とうとうアレックス君は両目に溢れた涙を盛大に零しながら、泣き叫び、滂沱しながら走り去っていく。

 俺といえば……なすすべなくアレックス君の走り去る背中を、複雑な心境で見つめていた。

「……やっちゃったな」

 随分と時間が経ってからぽっつりと呟く。

 アレックス君の言葉が頭の中で反芻される。

 今回のいざこざは俺が悪い。

 アレックス君に、図星を指されて……我慢ができなかった。

 彼の言っている事は正しい。

 だけど……俺は……重たい気持ちが、ため息となって漏れる。

 紫苑が戻ってくるまで、右拳の熱い痺れを抱えて立ちつくす。目まぐるしい思考の渦に飲み込まれ、そこに佇んでいた……。




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